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新しい出会い
40:空気が凍る!?【ディランSIDE】
しおりを挟む俺はユウの兄だと名乗った男を
じっと見つめた。
今、俺たちは
馬車に乗っている。
ユウが井戸を見たいと言ったので
移動しているのだ。
いつも馬車では
俺の膝に乗るユウは、
当たり前のように
兄のと名乗った男……
バーナードという
聖騎士の膝に座っている。
この男は、体格も良く、
背も高い。
見ただけで、
かなり強いこともわかる。
ユウが大きな剣と盾で
魔獣と戦うのだと言っていたが、
納得するしかない。
だが怖そうな体格とは
裏腹に、ユウに向ける視線は
とても甘く、優しい。
確かに見ているだけなら
ユウと兄弟だと言えるかもしれない。
ユウは俺に見せたことがないほど
甘えた表情で笑っていて
「抱っこ!」と
両手を広げて大きな腕に抱き上げられる。
俺は何度もユウを抱っこしたが
ああして自分から
求められたことなど一度もなかった。
馬車に乗ったときも
当たり前のように抱っこされたままだった。
ユウを膝に乗せた男の顔が
やけに挑発的で、
得意げに見えるのは
俺の気のせいだろうか。
宿を出た時は
まだ朝だったのに、
ユウは疲れたのだろうか。
男と向かい合うように
膝の上に座り、
胸に顔を押し付けて…
うとうとと眠り始めた。
男の手がユウの髪を撫で、
背中を優しくとんとんと
叩いている。
ユウから寝息が聞こえてくると
男は向かい合わせに座る
俺とマイクに顔を向けた。
「一度きちんと話がしたい。
宿があるならそこでもいいし、
騎士団の詰め所でも構わない」
俺とマイクは視線を合わせ、
即座に宿に戻ることに決めた。
そこならユウを
ベットで眠らせることもできる。
それに、
騎士団の詰め所では
完全に敵地になってしまう。
……目の前の男が
敵であったのなら、だが。
男は御者に街の
宿に行くように告げ、
俺たちは宿に着くまで
ひたすら無言だった。
だが…
馬車に揺られて気持ちがいいのか
ユウはひたすら男の胸に
頬を摺り寄せ、肩に顔をうずめる。
ねぼけて寝返りを
うちそうなユウの身体を
抱きしめて体勢を整える様子は
慣れているとしか思えない。
俺たちは宿に戻り、
男は当たり前のようにユウを
抱っこして部屋までついて来る。
改めてみると
男は簡素な服を着ていたが、
腰には帯剣していたし、
柄にはこの国の紋章がついていた。
部屋に戻ると
男はユウをベットに置く。
そして改めて
俺たちに名前を名乗った。
「俺は金聖騎士団の『盾』、
バーナードだ。
二人のことは、
ある程度はユウから聞いた。
ユウが世話になった。
感謝する」
頭を下げられて、
俺は…急に怒りが
こみ上げてきた。
何を言っているんだ?
ユウが…俺とユウが
出会ったとき、
どんな状態だったか。
どんな理由があったか
知らないが、着の身着のまま。
奴隷商から
命からがら逃げて来たような
ボロボロの状態だったのだ。
世話になった、など
一言で終わらせて良いわけがない。
思わず怒鳴ると
マイクに止められた。
この男を庇うつもりかと聞くと、
ユウさまが目を覚ましてしまいます、
と言われた。
そうだった。
こいつは、こいつで
変態で、危険人物だった。
俺はこめかみを押さえ、
イスに座る。
この部屋には小さなテーブルと
イスが4つあった。
俺が座ったのを見て、
マイクとバーナードも
イスに座った。
俺は最初はユウを
親か親族に会わせてやろうと
思っていた。
だが、実際に『兄』だという
男が目の前に来てしまうと、
ユウを引き渡すことに
躊躇してしまう。
バーナードは本当に
ユウの『兄』なのだろうか。
とてもそのようには
見えない。
髪の色も、瞳の色も、
顔だちも…
何もかも違う。
ただ、ユウが
あれほど甘えているのだ。
本当の兄でなくても、
それに似た存在ではあるのだろう。
そう考えると、
ユウを引き渡すことに
問題はない。
問題があるとすれば、
俺の国にユウを連れていきたい、
というか
連れて行かなければ
ならないので、
その交渉は必要だろう。
ユウが今後、
俺たちよりバーナードと
一緒に居ることを選び、
『聖樹』をめぐるのを
この男と共にするのであれば、
俺はそれが終わった後、
ユウと合流して俺の国に向かう。
たったそれだけのことだが、
俺はそれができそうにない。
俺は…
俺はユウを手放したくないと
思っているのだ。
昨夜、脅えられてしまったが、
あれは…
と、ユウの胸についた
赤い跡を思い出した。
あの肌に吸い付いたのは
誰だ!?
と、思ってマイクを見る。
マイクは何も言わずに
ただ、バーナードを見ていた。
俺がイライラと感情を
あらわにしているのに、
こいつは、いつも通りだ。
まっすぐなマイクの視線に
バーナードが反応した。
「マイク…だったな、
俺のことを知っているのか?」
「はい。
私は…あの場でユウさまの
偉業を見ておりましたから」
……偉業?
なんのことだ?
「それで?
ユウにこれからも
付いて歩くつもりか?」
「そうですね。
私はユウさまに忠誠を
誓っておりますゆえ、
離れることは望んではおりません」
「俺の…
金聖騎士団のことは知ってるな?
団長たちのことも」
「もちろん、存じております。
ユウさまへの寵愛ぶりも、
溺愛ぶりも」
寵愛?
溺愛?
「それでも、
ユウと一緒にいる気か?」
呆れたように
バーナードは言った。
「ただの神官が
うちの団長に敵うとでも?」
「私はユウさまに
忠誠を誓った者ですので、
敵うかどうかは関係ありません」
にこやかに会話をしている筈だが
部屋の温度が急激に
下がったような気がする。
会話はかみ合っている…だろうか。
俺には理解できない内容も
盛り込まれているので
意味がわからない会話ではある。
だが、一応、にこやかに
やりとりはしている。
会話も続いている。
だが、この二人の会話は、
相手の言葉を受けて話をしているのではなく、
自分の言いたいことを
相手に伝えているだけのようにも見える。
にこにこと
笑顔な二人が会話を
しているだけなのに、
息苦しくて、寒い。
俺は二人の会話を聞きながら、
ぶるっと身を震わせた。
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2022.05.28
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次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
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