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新しい出会い
54:うちあけよう
しおりを挟む私が服を着たら、
そばにいたブラウンが
私の手をつついた。
「どうしたの?」
『ごしゅじん、すき』
「うん。
私も大好きよ」
って言ったら
ブラウンは嬉しそうに
鼻をヒクヒクさせた。
『またあう』
また会う?
『めがみさまに、いいにいく』
「女神ちゃんのところに行くの?」
『きれいにした』
報告に行くのね。
……女神ちゃん、
ブラウンに頼んだこと、
忘れてないと良いんだけど。
「そっか。
女神ちゃんに私が
そろそろ本気で
会いたいって言ってた、
って伝えておいて。
あまり放置してたら
怒るよ、って」
本気で言ったからか、
ブラウンの可愛い耳が
へしょ、ってなった。
『いう。
ブラウン、わすれない』
「ありがとう、
頼りにしてるわ」
私はぎゅーっと
ブラウンを抱きしめて、
ほおにキスをした。
ブラウンは嬉しそうに
ヒゲと耳を揺らして
翼を広げる。
部屋の大きな窓を
開けてあげると
ブラウンはそこから
飛び出した。
「女神ちゃんに
早くって言っといてーっ」
窓から叫んだら、
長い耳が返事をするように
揺れた。
よかった。
これで、女神ちゃんに
やっと会えそうだ。
振り返ると、
ディランとマイクが
唖然としている。
「ユウ、窓を閉めて
こっちにおいで」
バーナードが私を呼んだ。
私がバーナードの
そばまで行くと、
バーナードは私を
抱っこして座らせてくれた。
私はバーナードの膝の上だ。
「二人とも、聞いてくれ」
バーナードの声に
ディランとマイクも
我に返ったように
ソファーの傍に来た。
「俺は一旦、街に戻る。
今後のこともあるし、
井戸の復興もしなければならない」
うっ、と私は詰まった。
「べ、弁償…する?」
お伺いを立ててしまったのは
私が無一文だからだ。
「ごめんなさい、じゃ
ダメだよね?」
おそるおそる聞くと、
バーナードは笑って私の髪を
撫でてくれた。
「なんだ。
そんな心配をしていたのか?
大丈夫だ。
井戸はすぐに直る。
それよりも<闇の魔素>を
浄化して、井戸の水を
復活してくれたことが
何倍も嬉しい」
ほんと?
チャラになる?
それなら…いいけど。
ちょっと挙動不審に
なったからか、
バーナードは優しく
私をぎゅって抱きしめてくれた。
……バーナードのぬくもりは安心する。
「じゃあ、俺は街に戻るな。
しばらく…数日は、ここには
来れないかもしれない」
バーナードは今、
あの井戸の責任者だもんね。
「とりあえず、
この屋敷は俺が戻るまで
使ってくれ。
今、街はユウのことで
大騒ぎになっていると思う。
ヘタに移動しない方が良いだろう」
バーナードはマイクを見た。
「そんで、マイク、だったな。
一緒に街までついて来てくれ」
「私ですか?」
マイクが嫌そうな顔をする。
「水や食料がいるだろう。
俺が購入しても、
この屋敷に持って来れない。
そしておまえが
神官だということは
あの街の領主も知っている。
ユウと一緒に居たおまえが
街に戻れば、ユウの居場所を
当分隠すことができる。
お前もユウに置き去りに
されたことにすれば、
まさか聖獣の後を追って
探すような真似をするやつは
いないだろう」
神官と一緒に移動するなら
馬車や馬を探すだろうが、
一人だけ聖獣に
連れ去られたとなると
探しようが無いからな。
と言われ、
なるほど、と思う。
「ユウ、お前はコイツと
一緒に屋敷で待ってろ。
街の状況と対策を考えてから
マイクは返してやる。
とりあえずはこれで
なんとかしのいでくれ」
と言ってバーナードが
出してくれた袋には
水やパンなどが入っていた。
「とっさに持ってきたから、
そんなに準備はできなかったが
できるだけ急いで
何か届くようにする」
バーナード、素敵すぎる。
目がうるうるしてしまう。
「バーナードが
お兄ちゃんすぎて、困る」
大好きすぎる。
って抱きついたら、
バーナードは、
そうだろう、そうだろう、と
頭を撫でてくれた。
「じゃあ、俺たちは行くから
ユウは…
きちんと話をしておけよ」
って最後は小声で言われた。
私がバーナードを見ると、
バーナードは、からかうように笑った。
そっか。
ディランと話をするために
二人っきりにしてくれるのか。
「ありがとう」
って言ったら、
またバーナードは
私の頭をぽんぽん、と撫でてくれる。
「ユウさま。
ものすごく不本意ですが、
ユウさまのため、少しだけ
お傍を離れます。
どうか、お気をつけて」
「私はここから出ないから
大丈夫だよ。
マイクこそ、気を付けてね」
「もったいないお言葉…」
マイクは本当に嫌な顔をして…
部屋を出る瞬間は、
捨てられた犬のような顔で
私を見つめた。
「ま、待ってるからね」
って思わず言ってしまう。
すると、マイクは
はじけそうな笑顔で
はい、と頭を下げた。
「バーナードも気を付けてね」
「おう」
って返事がして。
二人が部屋を出ていくと
急に静かになった。
「……少し寝るか?」
ディランが私の顔を見る。
眠い。
正直、疲れている。
でも。
言うなら、今のような気もする。
私が女神ちゃんの愛し子だって
今なら勢いで言えそう。
まぁ、こんだけ
やらかしてるんだから、
普通の子どもとは
思われてないとは思うけど。
あと、聖女の話も聞きたいし。
どうしよう。
でも、正直【器】の中が
空っぽで力がでない。
こんなとき、金聖騎士団団長の…
ヴァレリアンだったら
やっと二人っきりになったと
強引にキスしてくれたかも。
優しいママみたい…と
思ってたけど
本当はちょっと意地悪な
キスをしてくる第三王子の
カーティスだったら
何も言わずに
甘えさせてくれただろうし。
鬼畜眼鏡っぽい風貌なのに
物凄く私を優しく抱いてくれる
スタンリーだったら…
って、ぼーっと考えていたら
「ユウ?」
って声を掛けられた。
驚いてディランを見る。
あ。
って思った。
ダメなのに。
私と視線があったら淫らになる祝福。
これには経験則なので
絶対そうなのかはわからないけど、
条件があった。
私が、ちょっとでも
淫らなことを考えていて、
その状態で視線が合ったら
発動するのだ。
でも、淫らなことを
考えていなければ、
発動しない。
だから、バーナードには
この『祝福』は発動しないのだ。
でも今、私は…
金聖騎士団の皆との
情事を思い出していた。
【器】が空で、
<愛>を欲していたからだ。
そんな状態で見つめ合えば
どうなるかは、わかっている。
ほら。
ディランの瞳が…
熱く熱を持った。
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