【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

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新しい世界

86:愛されなくてもいい<マイクSIDE>

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 ユウさまが湯殿から出てきた時、
私はユウさまの目が真っ赤になっていたことに
気が付いていた。

ディランと何かあったのかと思ったが、
ユウさまが私を見ようとしなかったので
声は掛けなかった。

ユウさまが落ち着いてから
お話を聞けばいいと
そう思ったのだ。

私はユウさまに新しい着替えを
お渡しした。

ユウさまの着替のボタンを
首元から1つ1つ、
外して差し上げる。

数が多いボタンを
私は丁寧に、外した。

ボタンを外すごとに、
ユウさまの白い肌があらわになる。

湯に浸かっていたからだろう。

ユウさまの肌は、そばにいるだけで
ぽかぽかとあたたかく、
気を付けていないと
不用意に肌に触れてしまいそうだ。

腰から下のボタンを外すときは
私は跪づく。

立ったままのユウさまの
可愛らしくも美しい下半身が
私の目の前にあらわになった。

昨夜、お慰めしたことを思いだし、
下半身が反応してしまったが、
そんなことは顔には出さない。

私は必死で自分の欲を押さえ込み、
余計なことを言わないようにした。

口を開けば、ユウさまに
愛を乞いそうだった。

ユウさまは寝起きは
冷たい水を良く飲まれる。

だから着替えをお手伝いした後
私は氷の魔石で冷やしておいた
果実水を用意した。

ユウさまは私からコップを受け取ったが
そのままソファーに座るかと思えば、
なんと、すでにソファーに座っていた
ディランの膝に座ったのだ。

ディランも当たり前のように
それを受け入れ、
ユウさまを背中から抱きしめている。

一瞬、ディランの口元が
優越感に歪むのが見えた。

私をけん制しているのか、
それとも、私ごときが
ユウさまの寵愛を受けるはずがないと
蔑んでいるのか。


屈辱だった。
私はずっと優秀だと言われてきた。
子どもの頃から、誰にも負けないように
努力してきたし、
若くして神官になった私を、
誰もが賞賛した。

だから、こんな冒険者崩れの
粗野な男に、こんな目で見られるとは。

いや、違う。
これは嫉妬だ。
こんな男にユウさまは寵愛を何故与えるのか。

……私には与えてくださらないのに。

醜い感情が生まれ、
私はそれを振り払うように
ユウさまに朝食を召し上がるかを聞いた。

ユウさまの返事は、芳しくない。

少しは食べていただきたいのだが、
どうするべきかと悩んでいると
ディランが街の散策を提案した。

それならば、ユウさまも
好きなものを召し上がることができるし
良い案だと私も無言で賛同する。

その後、少しユウさまが
休まれると言うので、
今のうち、今後の行程などを
ディランと打ち合わせをすることにした。

ユウさまの寵愛を受けている
この男の心象は最悪だが、
ユウさまのために命を捨てることに
ためらいが無いことは、
この私も認めている。

非常時においてのユウさまの盾は
多ければ多いほど良い。

金聖騎士団のバーナード殿から
渡された地図を広げ、
私とディランは今度の行動を確認した。

ディランは急ぐ旅では無いので、
ユウさまの体調はもちろん、
大きな街ではできるだけ
散策をして楽しませたい、と言う。

もちろん、異論はない。

この旅を終えられたユウさまが
どうなさるかはわからない。

『大聖樹』の元に戻られるのか
金聖騎士団の保護下に戻られるのか。

旅が続く限り私はユウさまのお傍に
いることができるが、
旅が終わると、ユウさまは私の
手の届かぬ方に戻ってしまう。

だからこそ、
できるだけ旅は長びかせたい。

できるだけ長く、
ユウさまにお仕えしたい。

ふと、この男はどうするのかと
そんなことを思った。

この旅が終わったら、
このような出自しゅつじの怪しい者など、
ユウさまのお傍にいられるはずがない。

だが、ユウさまは
この男を望んでいるのだ。

……少なくとも、今は。
何も言わずに、膝に乗る程度には。

ユウさまはお疲れになっているようで
ディランから愛用のぬいぐるみを受け取ると
ベットに寝転がられた。

可愛らしい。

ぬいぐるみを抱きしめ、
頬ずりする姿に目を奪われる。

しばらくすると、
ユウさまは目を閉じて、
息を大きく吐き出した。

ふ、っとユウさまの『力』を感じた。

井戸を浄化したときと同じ、
聖なる力だ。

光り輝くあたたかな、光…。

……であるはずなのに。

いつもは、周囲を照らし、
心を満たすような光であるのに、
ユウさまから感じた『力』は
聖なる力だとは思ったが
どこか寂しく、冷たい気がした。

私とディランは顔を見合わせてしまった。


「ユウ? どうした?」

先にディランが
ユウさまのいるベットに近づく。

ディランはユウさまのお顔を
見るように、幼い身体を
ベットに起こした。


ユウさまの顔は…
泣きそうに歪んでいた。

なぜ、そんなお顔を…。

私まで胸が苦しくなる。

「嫌い」

そんな言葉が、ユウさまから発せられた。

「え? 俺のことか?」

ディランが焦った声を出すと、
ユウさまは首を振る。

ということは、
私のことか!?

「……嫌い」

ユウさまは、また、言う。

その言葉が重たく、辛い。
私は動くこともできない。

ディランにしがみつき、
ユウさまは声を挙げて泣き始める。

その悲惨な泣き声に、
私はなんとか我に返った。

だが、どうして良いのかわからない。

ようやく落ち着いたらしいユウさまは
ベットに寝転がって、
ディランと何やら話をしている。

そこに割り込めないのが、口惜しい。

じっと見つめていると、
ディランが私を見た。

そして、一人で外出すると言う。

まだ朝だと言うのに、
「昼飯は自分でなんとかしろ」
などと言うので、帰りは夕方か。

どうやら、ディランは
ユウさまが取り乱した原因は
私にあると思ったようだ。

それを夕方までに解消しろということか。

できるだろうか。

私はユウさまに…嫌われてしまったようなのに。

自分で思ったその言葉に、
打ちのめされる。

ディランが出ていくと、
部屋には私とユウさまが残された。

「ユウさま、その…よろしければ」

真赤に目をはらしたユウさまのために
私は冷たいタオルを用意した。

受け取ってくださらなかったら
どうしようかと思っていたが、
ユウさまはベットから起き上がると、
素直にそれを受け取ってくださった。

タオルで目元を押さえるユウさまの空気が
少しだけ緩む。

「何か…お飲みになりますか?」

あれだけ泣いたのだ。
喉が渇いていると思い
そう聞いてみると、冷たいものを、と
言われたので、急いで果実水を用意する。

ユウさまはベットから下り、
ソファーに座わられた。

水を飲み、ぬいぐるみを抱きしめている。

そして、何かを決意したかのように、
私を傍に呼んだ。

嫌な予感がした。

ここでお別れだと、言われるのだろうか。

「マイク、あのね、
もう、あんなことは言わないで欲しい」

あんなこと?
私はユウさまの気に障るようなことを
言ってしまったのだろうか。

「ユウ…さま?」

そうであれば、謝罪を。
そう思った私の前で、
ユウさまは、残酷な宣告をした。

「私はマイクの心も、命も、身体も、いらない。
だから…」

私は、必要ない?

命を捧げ、お仕えしようとしていた私を、
もう必要ないと言われるのか、ユウさまは。

距離が離れていても、
私はユウさまにすべてを捧げて、
ユウさまにお仕えしているからこそ、
生きてこれたのだ。

それを必要ないと言われては、
私は生きる意味がなくなってしまう。

なぜ、そのような酷いことを言われるのか。

足が、震えた。
膝が床に着く。

「な…ぜ…?」

私の何が悪かったのか。
すべてを差し出した私より、
あの男を選ぶというのか。

絶望と、嫉妬と、怒りが
私を揺さぶった。

「あの男の傲慢な愛は受け取るのに、
何故、私を拒否なさるのですか」

言うべきではない言葉が、
溢れ出た。

ユウさまの言葉は絶対なのだ。
それを反論、もしくは拒否など
あってはならないこと。

わかってはいるが、
止まれなかった。

どうせ明日は死ぬ身だ。
生きている価値のない私の
最後の言葉ぐらい、
ユウさまに聞いて欲しい。

私だって、あの男よりもずっと
深く、ずっと……愛しているのだ。

「ユウさまのことも考えず、
乱暴にユウさまを犯すあのような男より
私が劣っているとでも言われるのでしょうか」

ユウさまは驚いた顔で私を見ている。
だが、事実だ。

昨夜のヤツは、ユウさまを気遣うことなく
欲棒で貫き、私を煽った。

ユウさまが苦し気に上げる声を
乱暴に口付けて飲み込み、
小さな体を乱暴に揺さぶっていた。

私なら…あんな抱き方は、しない。
大切に大切に。
ユウさまをお守りするのに。

なのに、ユウさまは私を
いらない、と言う。

「ユウさまが私の忠誠を、
愛を、受け入れてくださらないのであれば
生きる意味などない!」

泣きたくなる。
こんな自分は、みっともない、と思った。

このように、みじめに
誰かに縋り付くような真似を
自分がするとは思わなかった。

だが、ダメだ。
プライドなど、ユウさまの前では
粉々に砕けてしまう。

罵りを受けても、
蔑まれても。

ユウさまのお傍にいたいのだ。

涙ながらに、
ユウさまの足に触れる。

私を、受け入れてください、と。

そんな私に、ユウさまが
思いがけない言葉を言った。


「待って、マイク。
だから、そんな言い方をしないで?
そうじゃないと、私は
マイクが私のことを好きだと
勘違いしてしまうから」

一瞬、何を言われているのか
わからなかった。

私がユウさまを好き…勘違い……?

ユウさまは
私の愛を疑っていらっしゃったのか?!

「な…ぜ、私がユウさまを愛してないと
思われるのです?」

これだけ誠心誠意お仕えして、
何故、信じていただけていないのか。

「だ、だってマイクが敬愛してるのは
女神ちゃんでしょ?

私に優しくしてくれるのは、
女神ちゃんの愛し子だから…」

そうではない。
私はもちろん、女神を信仰している。

けれど、信仰とユウさまは別だ。
ユウさまは確かに女神の愛し子だが、
私がユウさまをお慕いしている理由は
それだけではない。

もし私がユウさまを女神の愛し子だから
愛しているのであれば、
肉欲を感じることも、
あんな男に嫉妬することもない。

このような、醜い自分の感情を
知ることなど、なかったはずなのだ。

「私が敬愛しているのも
お慕い申し上げているのも、
ユウさまです」

だから、私は言う。
愛しているのは…すべてを捧げるのは
ユウさまだけだと。

「ウソ…言わないで」

だが、ユウさまは
また私を否定する。

「偽りではありません」

私はつい、口調を強めて
言ってしまった。

すると、ユウさまは涙を落した。

「だって、言ったもん」

ユウさまが、私を見る。

「私を抱いたのは、
私が望んだからだったって。

これからも、私が望むのなら
好きにマイクの身体を使えって。

マイクは私が命じたら、
愛情もなく私を抱くんでしょ?

そんな忠誠なんて、いらない。

私はマイクのことが好きだし
一緒にいたら楽しいけど、
無理やりそばにいて欲しいわけじゃない。

そんなの、嬉しくないっ」

叫ぶように、
ユウさまが私を責めた。

まさか、あの言葉をそのように
捉えてしまったとは。

「ち…違うのです、ユウさま」

確かに、言い方は
悪かったのかもしれない。

だが、私と肌を重ねたことを
気にしているユウさまに、
どういえば良かったと言うのか。

私の愛を押し付け、
愛を乞えば良かったと言うのか。

「何が? 違わない」

また、ユウさまが私を否定する。

「違うのです!」

悲しくて、辛くて。
私はユウさまの足に触れた。

私の話を聞いて欲しい。
否定せずに、私を見てください、ユウさま。

「そんな、そんなつもりで
あの言葉を言ったのではないのです。

私は…私は…ユウさまを一人の男として
愛しているのですっ」

女神信仰は関係ないと
ただ、ユウさまを慕っているのだと
私は必死で伝えた。

だがユウさまは
「ウソつきって」って私を否定する。

苦しくて。
違うと言いたくて。

見上げると、ユウさまは泣いていた。

ユウさまの『力』が
じわじわと部屋に満ちるのを感じる。

それは冷たく、悲しみに満ちた『力』だった。

こんなのは、ユウさまの『力』ではない。

私は立ち上がった。

子どものようになきじゃくるユウさまは
幼い…年相応の子どもに見えた。

私を、愛して!

そんな言葉が聞こえた気がした。

思わず私はユウさまを抱きしめる。

「愛しております」

そのように苦しまなくても。
悲しまれなくてもいい。

たとえあなたに否定されても、
私は、あなたを愛しています。

私は、何度も伝える。


そうだ、と思った。
この想いを信じて貰えなくてもいい。

受け取ってもらわなくても構わない。

私はユウさまからの愛を与えてもらうなど
期待してはならない存在だ。

ただ、愛するだけ。

ユウさまのために生きるだけでいい。

私は、ユウさまの為だけにーー。







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