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隣国へ
136:新しい力
しおりを挟むこんな時はどうしたらいいんだっけ。
そうそう、ロープ!
ロープを投げて貰って、
それで引っ張ってもらう…って、
ロープなんて持ってないし。
焦れば焦るほど、
良い案が浮かばない。
「ユウさま!
私がお傍に…っ!」
「来たらダメだからね。
大丈夫だから」
必死なマイクを宥めるのも疲れる。
ついでに、身体が少しづつだけど
沈んでいるような気もする。
ディランは何か掴める物を
探してくれているようだけど、
何もないようだ。
周囲を見渡しても
ただの草しかないもんね。
と、落ち着いている場合じゃなくて、
何か助けを呼ぶか、助かる方法を探すか…
と、考えて、あ、と思った。
いるじゃないか、最強の助っ人が。
私は手を上げた。
泥だらけだったけど、気にしない。
「レオーっ!
聞こえたら、助けに来てーっ」
呼んだら来てくれるって言ってたよね?
「レオーっ」
助けてー、の意図で両手を上げたけど
泥が頬や着ているフードを汚していく。
「来ないと怒るよーっ!」
早く来い、と大声で呼ぶと、
頭上に大きな影がよぎった。
顔を上げると、大きな翼を
ばさばさと羽ばたかせた獅子の聖獣がいる。
『……泥浴びか?』
脳に響き渡る声が聞こえた。
ようやく来てくれたレオは
私の頭のすぐそばで
空に浮かぶように翼を使って
私を見下ろしている。
「そんなわけないでしょ」
野生の象じゃあるまいし、
なんで私が泥浴びしないといけないんだ?
「ひっぱり上げて欲しいの。
抜けれなくなっちゃって」
『……この短期間でそんなに重くなったのか?』
「そうじゃないけど、抜けれないの!」
ずぶずぶと沈む感覚に怒るように言うと
レオはわかった、と言うように
私に近づき、フードを口にくわえた。
ずず、っと体が泥から抜けていく。
レオが私の身体を泥から引きげ、
私は落ちないように必死でフードを掴んだ。
ようやく体が全部泥から抜け、
レオは私の身体をディランたちの傍に下した。
『泥浴びをして抜けれなくなったのか?
随分と愛し子はこの世界を楽しんでいるようだな』
レオは呆れたように言う。
誤解です。
物凄く誤解だから。
「そうじゃなくて…。
もういいけど、ここには女神ちゃんから
頼まれたから来てるの」
私に駆け寄るディランとマイクを
汚れるからと手で制して、
私はレオに泉の話をする。
「それでこの場所が泉の場所かと思ったんだけど」
『そうか。
本来の泉はもう少し先にあるのだが
もう女神の水は湧いてないようだな』
え?
レオは泉の場所を知ってるの?
「それってどこ?」
と聞くと、レオは目の前の泥酔の
さらに先にあるという。
ということは、ここの泥水を
何とかしないと行けないということか。
がっかりすると、レオは首を傾げる。
『女神に力を分け与えられた愛し子なら
簡単に元に戻せるだろう?』
「いや、やり方がわかんない…って、
なんでレオは私が女神ちゃんに
力を貰ったって知ってるの?」
『見ればわかる。
愛し子の魂に、女神の力を感じる。
『器』の中のものとは別のものだ』
……まじか。
本当に見るだけでわかるぐらい
魂が変わってるわけか。
私、人間に戻れるよね?
「そっか。見ればわかるんだ。
でも、力の使い方もわかんないし…」
『女神の力は創生する力。
愛し子がいつも通り望めば
そのようなるだろう』
それはペットボトルのジュースを
女神ちゃんの空間で生み出したように?
『女神の力は強大過ぎて
この世界への影響力は計り知れないが
元は人間の愛し子が使える力など
微々たるものだろう。
遠慮なく使えばいい』
いや、元ではなく
今も人間なんです。
って、心の中でツッコんでおく。
でも、私なら女神ちゃんの力を
この世界で使っても大丈夫、ってことか。
『愛し子には、魔素を感知する力がある。
ならば魔素から記憶を読むこともできるだろう』
え?
何それ。
おもしろそう。
「それって、どうやって?」
とレオに聞いたけれど、
説明が抽象すぎて理解できなかった。
自分で頑張るしかないやつだ、きっと。
私はレオに助けてくれたお礼を言って
レオの首に抱きつく。
泥だらけの手だったけど
レオに触れてもレオの体は
光に輝いていて泥一つ
つかなかった。
「来てくれて嬉しかった」
『いつでも呼べ。
愛し子には従うように
女神に命じられている』
「うん、ありがとう。
あと1つ、お願いがあるんだ」
私は『大聖樹』と王都の様子を
見守っていて欲しいと伝えた。
そして何かあったら金聖騎士団の皆が
『大聖樹』で私に話しかけるだろうから
私に伝えて欲しいとお願いしたのだ。
レオは心良く頷いてくれた。
「じゃあ、お願い。
ありがとう」
私が言うと、
レオがバサバサと翼を羽ばたかせる。
そして…吠えた。
まるでこの土地の主は自分だと示すかのように。
大地が、空気がビリリと震える。
そのままレオは空を飛び立った。
大地の震動が収まり、
ようやく空気が元に戻る。
静寂が終わり、
どこからか鳥の声が聞こえて来た。
「ユウさま」
マイクが私に駆け寄る。
「お怪我は?」
「大丈夫、ごめんね、心配かけて」
「ユウ、おまえ…あんなデカイ聖獣を飼ってるのか」
呆然としたようなディランに
「飼うんじゃなくて、友達」と訂正する。
「ユウさま。
とりあえずお着換えを致しましょう」
マイクに促され、私は頷いた。
抱っこしようとするマイクとディランに
服が汚れるからいいと遠慮して。
荷物の置いてある家に向かいながら
私は考える。
新しい女神ちゃんからもらった『力』。
どんなものかわからないけど、
ここで練習したら使えるように
なるかもしれない。
自分がどんな『力』を持っているのか
わからずになんとなく旅をしていたけど
どうせ時間もある。
それにここには誰もいないから
多少失敗しても誰にも迷惑がかからない。
なら本気でこの場所に腰を据えて
『力』の練習をしてみようか。
良い考えな気がする。
「マイク、ディラン、あのね」
2人もたぶん、というか
絶対に私の提案を断らない。
そう思えるぐらい、
沢山愛してもらっているから。
私の意見を否定しないって
わかっているから。
私は笑顔で二人の顔を見た。
いいぜ、というディランの顔も。
ユウさまのお望みのままに、という
マイクの顔も。
その声を聞く前から
私はその笑顔が脳裏に見えていた。
だから。
「よし、今日はあの家を
住めるように掃除しよう」
私は本格的にこの村で
修行することを決めたのだ。
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