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隣国へ
142:村のこれから
しおりを挟む黒い体に長い耳。
そして背中に大きな翼。
そんな魔獣いるんだーって
のんびり思えないぞ、私は。
だって、最近、そんなのを
見たような気がする。
というか、物凄く知ってるような気がするんだけど。
「黒い体…はともかく、
長い耳と大きな翼って、なんかあの
井戸の街で見た聖獣に似てないか?」
空気を読めないディランが
爆弾発言をした。
だよね?
私も一瞬、思っちゃったよ、それ。
私は遠い目をしてしまった。
この世界にはウサギの姿を模した聖獣が
少なくとも2匹いる。
私が小さなころに欲しかった
ウサギのぬいぐるみにそっくりな聖獣だ。
女神ちゃんがきっと私の記憶から
生みだした聖獣なんだろう。
とても可愛くて、
白い毛の子はホワイト。
茶色い毛の子にはブラウンと私は名付けた。
何故黒い色をしているのかは
考えたくないけれど、
井戸の街の件もあるし。
嫌な予感しかない。
また女神ちゃんが絡んでいるんだろうか。
いやでも、村長の怨霊が魔獣になってるかも?
怨霊とか、この世界にはないんだっけ。
でも人間の恨みとかが闇の魔素になって
魔獣や魔物が生まれるんだから
悪霊も魔獣も似たようなものなんじゃない?
怖っ。
だから私、ホラーは苦手なんだってば。
「と、とにかく魔獣の件は置いておいて
今はできることをしよう」
私はそう二人に言った。
怖いことは考えない。
今できることをできることからするのだ。
そうでないと怖すぎて
この村から速攻で出ていきたくなる。
「できることってなんだ?」
ディランが聞いてくるので
私は指折り数えてみる。
「まずは、女神の泉の場所を探す。
泉が枯れている原因がわかって
それが解消できることなら解消する。
そこに聖獣がかかわっているのなら
聖獣を助けるか保護をする。
あとは…この村の温泉を復活させる」
「復活でしょうか」
マイクが不思議そうに言う。
「うん。魔素の記憶で見たこの村は
凄く綺麗で、温泉も気持ちよさそうだった。
村の人たちが戻ってこないのは仕方ないけど
この場所にいる間は、あの温泉に入ってみたい」
せっかくここまで来たんだから
温泉に入りたい。
村長の怨霊はちょっと怖いけど
脳裏で見たあの露天風呂は
本当に気持ちよさそうだった。
「けど、どうやって復活させるんだ?」
ディランがもっともな疑問を言う。
「わかんない…けど
私の『力』が勝手に小路を作ったみたいに
ここでのんびりしてたら勝手に
何とかならないかなーなんて…」
ははは、って笑ってみたら
ディランが可哀そうな子を見る目を
私に向けた。
そりゃ、計画性が無いことを
言っていると私だって思ってるけどね!
「でもね、女神ちゃんから
なんか『力』を貰ってる…借りてる?
みたいな状況になっているから、
たぶん、頑張ったら何とかなると思うの。
誰もいない廃村だったら
『力』を使う練習をしても大丈夫だと思うし、
失敗しても、被害はないでしょ?
私、自分の持っている『力』を
あまりきちんと認識できてないから
練習もしたことがないの。
だからこれを機会に練習してみるのも
良いかもって思ってる」
いい案だと思う。
そう思って二人を見ると
ディランが「練習したことないのに
あんなことを、やってみせたのか?」なんて
ぶつぶつ言いだして。
マイクはマイクて「さすがユウさま」などと
私に跪いて手を握ってきた。
「わかった。
俺もユウが練習している間は
剣の訓練をすることにする。
師匠も日々の鍛錬が大事だと言ってたしな」
ディランはガリュさんのことを
師匠と呼ぶようになっているらしい。
ガリュさんはバーナードの師匠でも
あるみたいだから、きっと教わることも
沢山あったんだと思うし、
もっと学びたいこともあったのかもしれない。
でもそんな中、あの闇の魔素にまみれた教会まで
私を助けに来てくれたのは嬉しい。
「では私も…」
と言いかけたマイクを私は止めた。
訓練をする必要がないのであれば
魔力をあまり使って欲しくないと思ったし
それよりもマイクには…
「マイクは、私のそばにいて?」
「ユウさま?」
「力加減がわからないから
もし、何かあったらマイクの防御魔法で
ディランや村を守って欲しいの」
大丈夫と信じたいけど
いきなり爆発とか起こったら怖いし。
「俺は守ってもらわなくても大丈夫だ」
ディランが不機嫌そうに言う。
「ユウさまが私を頼ってくださるのですから
あなたを守っても構いませんよ?」
マイクはわざとだろう。
丁寧な言葉でディランに言う。
丁寧な口調と不遜な態度が合っていない。
私はそんな二人をまぁまぁ、と宥める。
「でもまずは、散策に行こう」
まだお昼ごはんを食べたばかりだ。
夕方まで、この村の状態の確認と
温泉の場所をもう一度探してみたい。
私の提案に二人は頷いてくれた。
よし。
当面のタスクは決まった。
私は気合いを入れる。
「二人とも、よろしくね」
そう言うと、ディランもマイクも
わかっていると力強く頷いた。
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