181 / 355
隣国へ
180:女神の力と愛
しおりを挟む空が明るくなってきて、
私はレオと別れた。
泉のおかげか、
ディランとマイクに愛されたおかげか
心も体も、とても満たされていたし、
水に浸かって遊び過ぎたので
程よい疲れもある。
もしかしたら泉で
女神ちゃんの力を取り込み過ぎたのかもしれない。
どんなに美味しくて好きなケーキでも
食べ過ぎたら胃もたれするのと
同じように、女神ちゃんの力も
吸収しても消化するのに時間がかかるのかも。
私はそっと大広間に戻ると
まだ寝ている二人の間に入った。
毛布に潜って、そっとガラス戸を見ると
明るくなっていく空にはまだ
白い大きな月が見えた。
月。
女神ちゃんの力を感じる月。
もしかしたら女神ちゃんが
私を見守ってくれていたのだろうか。
私が抜け出しても、
ディランやマイクが気が付かないなんて
不思議だと、心のどこかで感じていた。
私はレオと遊んでいるうちに
二人が迎えに来てくれると
心のどこかで思っていたのだ。
けれど二人は来なかった。
もしかしたら女神ちゃんのせいかも?
私とレオがゆっくり泉で
遊べるようにしてくれたのかな。
女神ちゃんもこの世界に降りてきて
一緒に遊べたらいいのにね。
そんなことを思いながら私は目を閉じる。
心の奥が、ぽかぽかしている。
なんだろう。
女神ちゃんの『力』?
それとも、注がれた<愛>?
『器』が無くなって、
体を巡る『力』や<愛>を
感じることができるようになった。
その『力』の使い方も
わかってきたような気がする。
そして。
ここまできて私は、
『力』と<愛>が混じり合い、
集結し、送り出される場所があることに気が付いた。
心臓のような場所、とでも言えばいいのだろうか。
静脈と動脈がまとまる心臓と同じように、
私の中にも、『力』と<愛>が
まとまる場所がある。
ただ、力を溜めていただけの『器』ではない、
私の体に『力』を循環させるために
ポンプのような力強い脈動を感じさせる場所。
けれどきっと『力』を使う時には
そこから『力』を引き出すのだろうと
思えるような、場所。
そして、感じる。
その場所で混ざり合う『力』と<愛>が
どのようなバランスで混ざり合っているのかもわかる。
今は、どちらも同じぐらいの量で
混ざりあっているけれど、
これから私が力を使っていくことで
女神ちゃんの『力』が濃くなったり
<愛>が少なくなったりするのだろう。
『力』と<愛>の違いも理解していないので
今後、それがどう作用していくのかは
不安要素の一つだけれど。
そんな不安も、マイクとディランの間に
挟まれていると、薄れていく。
二人がいたら、大丈夫だって思える。
それに、私には金聖騎士団の皆もいる。
私が誰かを。
他人を頼りに思う日が来るなんて
思わなかった。
でも、そんな自分が、
ちょっぴり嬉しくも思う。
この世界に来てよかった。
ふと、そう思った。
だって私がこの世界に来たからこそ
私を愛してくれる人たちの、
私が大好きな人たちの世界を
救うことができるのだから。
昨日は、村長さんの魂?に
愚痴を随分と言ってしまったけれど。
私は今の状況を受け入れているし、
良かった、って思っている。
私は無理やりこの世界に来たけれど、
無理やりこの世界を救おうと
しているわけじゃない。
女神ちゃんをほっとけないとか
色々理由を挙げたけど、
結局私は、私が大好きな人たちを
守りたいって思ってるんだ。
私は両脇にいるディランとマイクの
手をそっと握る。
二人は目が覚める気配がないので
そのまま私は目を閉じた。
誰かと手を繋いで眠るなんて
もちろん、初めてだ。
幼いころ、施設で勇くんと一緒に
眠ったことはあるけれど、
私が小学校を卒業するころには
そんなことも無くなった。
誰かの体温を感じて眠る幸せなんて
私には一生、味わえないと思っていたのに。
私は二人の手を取り、
両頬に押し当てる。
大きな二人の手は安心する。
自然に、ふふ、と笑みが漏れる。
「そばにいてね。
二人のそばは安心するの」
大好き、と小さくつぶやくと
「俺もだ」
「光栄です」
と、二人の声が急にする。
「え?! 起きてたの?」
驚いて二人の手を離したけれど
その手はすぐに二人に掴まれた。
「ユウの嬉しい言葉に目が覚めた」
「ユウさまのあたたかな力が
手のひらから伝わってきたのです」
私が手を繋いだせいで
二人を起こしてしまったらしい。
窓を見るといつの間にか日は昇り、
白い月は見えなくなっていた。
私は二人に抱きしめられる。
深呼吸したら、二人から
あったかいもの……たぶん、
<愛>だと思う。
触れあっている場所から
私に流れてくるのがわかった。
嬉しい。
でも、これ、私が吸い取ってるわけじゃないよね?
このせいで二人が体調不良になるとか
そんなことないよね?
そんなことを思いつつ、
私は二人を抱き返す。
だって、二人の腕の中は心地いい。
まだ朝は早いから。
もう少しだけ、二人の体温を感じて眠りたい。
「もうちょっとだけ、
こうしててね」
そう言って目を閉じると
自然に眠気が襲ってくる。
優しく髪を撫でてくれるのはマイクだろうか。
頬に唇が押し当てられた気がするけど
ディランの唇だろうか。
うつらうつらと、眠気を受け入れつつ
私は思う。
そして私は。
二人が私の髪や頬や手の平や指先など
色々な場所に競うように
唇を落としていたことにも気が付かず、
そのまま眠りに落ちてしまった。
そして、次に目を覚ました時に、
私は驚くこととなる。
二人が今にも喧嘩しそうなほど
険悪な空気で、私の両脇を陣取っていて。
どちらが多く私に口づけたか、
なんて子供のような理由で喧嘩しているなんて。
私はそれすらも嬉しいと感じる自分に呆れながらも、
二人の頬に口づけることで私は
その場を収めることにしたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!
ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。
らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。
なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる