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隣国へ
190:異質なモノ
しおりを挟む寝ころび湯でどろどろになるまで二人に愛され、
私はマイクに抱っこされて
露天風呂に浸かった。
あったかい。
そして女神の泉の水が混じっているからか
疲れが癒されるような気もした。
ディランは喉が渇いたと言って
最初にお酒などを準備していたテーブルで
何やら飲んでいる。
しばらく湯を堪能していると、
ディランが水を持って戻って来た。
「飲むか?」
とカップを渡されたので、
私は素直にそれを受け取る。
ディランの手にはカップが二つ。
ディランは何も言わずにマイクにも
カップを差し出している。
私も、マイクも驚いた顔をしてしまったが、
マイクはそれを受け取った。
「ありがとうございます」
というマイクに、ディランは
何も言わなかったが、
照れているようにも見えた。
もしかして、仲良くなった、とか?
理由はわからないけど、
良いことのように思えた。
「食い物もまだ残ってるぜ、ユウ。
お腹空いてないか?」
と言われ、私はマイクを見た。
そんなに空いてないけれど、
マイクはお腹空いたかな?
「行きますか?」
マイクが私を見る。
私はカップの水を飲んで、
マイクの膝から下りた。
「ううん、ここで見てる」
「見る、ですか?」
「うん、マイクと、ディランが
あそこで食べてるところ」
私がテーブルを指さすと
マイクとディランが顔を見合わせた。
「二人が仲良くしているところを
見たいの」
二人はバツが悪そうな顔をしたけれど
嫌がることはなかった。
「では、少しお傍を離れます」
「うん、ここにいるから」
私は露天風呂の淵に肘を置き、
二人がテーブルに行くのを見た。
二人には会話がなかったけれど、
離れてみると、緊張してるのだろうか。
今までになかった空気が漂っている。
あ、ディランがマイクにお酒を渡した。
勧めてるんじゃなくて、渡した。
強引じゃないのかな。
でも受け取ってる。
会話は弾んでる様子はないけど
でも、おしゃべりしてる。
時折、ちらちらと二人の視線が
私に向けられていたけれど。
二人が仲良くしてくれるのは嬉しい。
一緒にいるんだもの。
それにね。
二人が会話をしている時は
二人ともすました顔をしているけれど、
そっと私を見る視線は、とても、優しい。
それが「特別だよ」って言われてるみたい。
幸せだなって思う。
愛されるのも、愛するのも、幸せ。
こんな気持ち、知らなかった。
だって誰かに愛されるなんて
今まで思ったこと無かったから。
誰かを愛したいなんて、
そんな気持ちになったことなかったから。
でも今は違う。
嬉しい、愛しい、幸せ。
色んな感情を知ることができた。
ふわふわした気分で、
私は二人を見る。
けれど。
私はそんな温かい感情の中に、
冷たいものを見つけた。
そんなもの、あるはずがないのに。
私は自分の中の感情を探る。
元の世界にいた時はできなかったけど
今は女神ちゃんの力がある。
『器』は壊れてしまったけれど、
体を巡る力がある。
だから、自分の意識を、
体を巡っている力に乗せた。
与えられた<愛>で満ち溢れる力に
何故、陰りがあるのか。
体を巡る血液のように、
力もまた私の体を巡っている。
それに沿って意識も巡る。
と、『器』があったと思われる場所に
何かを見つけた。
意識なので、触れることは叶わない。
けれど、どこか冷たく、固い雰囲気がした。
決して大きくはなかったけれど、
まるで鉄の塊のようにも感じる。
なんだろう。
私の意識の中のものだろうけど、
何が入っているのかを知るのがとても怖い。
「ユウ」
「ユウさま」
急に二人の声が聞こえてきて、
私は意識を戻した。
「大丈夫か?」
「のぼせてしまいましたか?」
「え、あ、うん、大丈夫」
私の様子に二人は心配して
来てくれたようだ。
「そろそろ終演にしましょうか」
マイクがそう言って手を差し出してくれたけど、
触れた指先は冷たかった。
「うん、じゃあ二人とも、
一緒に入って」
私はマイクの手を引く。
「二人の身体がぬくもったら、
一緒に出よう」
私はマイクの手を引いた。
「そうだな、じゃあ今度は
俺の膝に乗れよ、ユウ」
ディランは素早く湯に入ったかと思うと
マイクの手をまだ掴んでいた私の腰を持ち
あっという間に膝に座らせてしまった。
「強引ですね」
マイクは私がバランスを崩さないように
咄嗟に手を離してくれていた。
私の……というか、
ディランのそばで、
湯に浸かったマイクは
呆れたような声を出す。
「いいだろう、さっきは
お前がユウを抱っこしてたんだし」
なんだろう。
ディランの口調がやわらかくなってる?
拗ねたような、親しい人に向けるような
口調になっているような気がする。
いいな、こういうの。
うん。
さっきの冷たい塊は気になるけれど、
今は二人につつまれていたい。
私はディランの胸に頬ずりする。
「どうした?」
「眠くなってきた」
「いいぜ、寝ても。
連れて帰ってやる」
「うん」
優しく髪を撫でられる。
でも、この指の動きは、きっとマイクだ。
背中を優しくとんとんと叩かれる。
これは、ディランかな。
少しだけ、力が強い。
でもなぜか、心地よく感じてしまう。
あったかいし、嬉しいし、心地よい。
今はこのまま眠ってもいいよね?
私は体の力を抜いた。
「ユウさま、お傍におりますので
どうぞ、お休みください」
マイクの声がする。
私は二人の気配に安心して、
そのまま眠りの世界へと足を踏み入れた。
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