【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

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獣人の国

239:耳、はえる。

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 私はマイクから離れて
ディランのそばに行く。

扉がバン!と閉まって、
その大きな音に驚いたけれど。

それ以上に泣きそうなディランの顔に
私は驚きを隠せない。

獣人設定のせいか?
そうなのか?

私は焦りつつ、子どもの癇癪のように
なっているディランの手を引いて、
ソファーへと誘導した。

マイクはいつもと違うディランの様子に
顔をしかめたものの、
何も言わずにテーブルの上の食器を
片付けはじめる。

「はい、座って」

私はディランをソファーに座らせて、
その隣に座る。

「どうしたの? 大丈夫?」

私はさっきマイクにしたように
ディランの手を握った。

「私はここにいるよ」

ディランはそんな私の手をぎゅっと握る。

「マイクと手を繋いでた」

「ディランとも繋いでるよ」

「昨日は賢者の家に泊まった」

「だって、久しぶりの親子の再会だったんだもの。
ちょっと……父親に甘えたかったの」

そう言うと、ディランは黙った。

「父親、なんだよな」

「うん、そうだよ。
赤ちゃんの時から、育ててもらったの」

「赤ちゃん……そう、か」

ディランはようやく私を見る。

「俺とは違う?」

「違うよ。ディランは父親じゃないでしょ?」

そういうと、ディランは違う、と言う。

「じゃあ、あいつとは?」

ディランがマイクを見た。

「俺がいないとき、あいつとしたか?」

いったい、どうしたと言うのだろう。

「ディラン?」

私が顔を覗き込むと、
ディランの視線が揺れる。
 
いつもまっすぐに私を見るのに、
様子が変だ。

私は迷わずディランの腕を引き寄せた。

ディランは抵抗することなく
私の胸の中に頭をうずめる。

ただ、身体が斜めになったので、
ソファーの上に両手はついていたけれど。

私はディランの頭を撫でた。

施設にいたとき、
私は施設に来たばかりの弟妹達を
いつもこうやって、大丈夫、って抱きしめた。

理由があって親から引き離された子や
周囲を信じていない子もいた。

パパ先生の施設は色んな過去を
持った子供たちが集まった場所だけど
施設だけは大丈夫だと。

どんな過去があったとしても、
私が守ってあげるから大丈夫だと
そう弟妹達に教えてあげたかったからだ。

言葉では伝わらないことも、
抱きしめて、頭を撫でて、
「大切だよ、ここにいていいよ」って
抱きしめると、最初は反発していた子も
大人しくなって、抱きしめ返してくれていた。

だからディランも、同じように
大丈夫、って抱きしめる。

ディランだって、
この世界に生まれたばかりの
小さな子どもだ。

ディランだけじゃない。
この国の人たちは……王様や
デビアンさんだってそうだ。

だから、ちゃんと抱きしめて、
大丈夫だよって伝えないと。

この世界に生きて幸せになっていいんだよって。

今は混乱してるかもしれないけれど、
これから幸せになるんだよ、って。

「ユウ、俺……」

「うん」

「獣人って」

「うん」

「もう俺のこと、嫌いか?」

「う……ん? 
どういうこと?」

頭を撫でる手を止めると、
ディランが顔を上げた。

蒼い目が丸くなって
すがるように私を見ている。

「だって、俺!」

大声を出したディランが
体勢を崩して、ソファーから転げ落ちた。

慌ててマイクがそばにきて
何故か私を抱き上げる。

この場合、助けるのはディランの方だと思うけど。

「ユウ、おれ……」

ディランはうなだれたまま、
のろのろと顔を上げる。

と、私とマイクは一瞬、固まった。

じっと見つめていたからか、
ディランは私と、私を抱っこしたマイクを見て
嫌そうに……いや、悲しそうな顔をした。

「マイク、大丈夫だから下ろして」

「いえ、ですが、あれ……は」

「大丈夫」

「かしこまりました」

私はマイクにもう一度ソファーの上に下してもらう。

目の前には床でうなだれたディランがいる。

そしてその短い群青色の髪からは、
可愛い、三角の犬のような耳がのぞいていた。

本人は気づいていないに違いない。

だって、ソファーから転げ落ちた途端、
頭にそれが生まれたのだもの。

ちょっと触ってみたい。
でも、今はダメだ。

私は我慢して、
「ディラン」と呼ぶ。

そして、嫌ってないよ、と言おうとして
「大好き」と言葉を変えた。

その方が伝わると思って。

すると、ディランは本当に犬のように
ソファーに座る私にしがみつくように
抱きついてきた。

私の頬に、可愛い耳が触れる。

ちゃんと体温があり、本物だと実感する。

「いきなり獣人だと言われても怖いよね?
びっくりしたよね?
でも大丈夫。
ディランは獣人でも人間でも、
私が大好きなディランだよ」

背中を抱きしめると、耳がふるふると震える。
なんか、可愛い。

もしかして、しっぽとか生えてくるのかな?
それはそれで可愛いと思う。

触らせてくれるかな?
いや、まずこの耳、触っていいかな。

さりげなく頬でディランの耳をすりすりした。
思ったよりも、柔らかくて、気持ちがいい。
これが女神ちゃんのいう、もふもふの魅力か。

もふもふは素晴らしいと言うフレーズは
元の世界では良く聞いていたし、
私も、もふもふは可愛いし大好きだ。

でも実際に触るのは初めてだった。

施設では動物は飼えなかったし、
一人暮らしを始めてからは
そんな余裕はまったくなかった。

だからディランには申し訳ないけど、
この状況をどこか喜んでいる私がいる。

これでは女神ちゃんのことを、
責めることはできないだろう。

でも、可愛い。

そう思って、ディランの耳を
頬で何度もすりすりしていたら、
ディランはようやく違和感に気が付いたらしい。

がば、っと顔を上げて、
両手で頭を触った。

「え? なんだ? 耳……?」

大きな手が、耳に触れた。

「み、耳ーっ!」

大きな声に驚いた私は、
ふたたびマイクに抱き上げられて、
部屋に端に避難させられた。

けれどディランはそれさえも気が付かず、
何度も耳を触っている。

「あれが獣人、なんですね」

冷静なマイクの声が
物凄く場違いに思えた。

「うん。可愛いね」

でも、その言葉の方が場違いだったようだ。
だって私がそう言った途端、
マイクの身体が固まり、
ディランが弾かれたように私を見たから。

まずかったかな。
あやまった方がいい?

二人の視線を感じる。

私はうろたえて、
マイクのシャツをぎゅっと握ってしまった。


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