【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

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獣人の国

251:本当に欲しかった未来

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 教会は広場の近くだったけど、
外見は教会というよりも、
学校みたいだった。

何故かと言うと、
子供たちが沢山いたからだ。

窓から覗くと、いろんな部屋で
子どもたちが勉強していて、
本を読みながら歩いている子もいる。

「ここが教会?」

「あぁ、学校も兼ねてるからな」

なんでも学びたい者は誰でも無料で
学ぶことができる制度になっているんだとか。

もちろん、大人も子供も、
年齢制限はない。

子どもだけでなく、
商家に勤めた者は算術ができれば重宝されるし、
仕事を始めてから学びの大切さを知る者も多い。

だからこそ、年齢制限もなく、
拘束時間もないらしい。

基本的な授業の時間割は公開していて
学びたい教科だけを選んで学ぶことも
できるそうだ。

すごい!

人手は沢山あるんだから、
学校もそうだけど『聖樹』の管理とか
体制さえ調えばすぐにでもできるようになるよね。

私はディランに連れられて
教会の奥にある礼拝堂みたいな場所まできた。

案内してくれた神父さんの話では、
『聖樹』は誰でも見れるような広場にあるのに、
礼拝堂は神聖な場所で、限られた人しか
入ることができないらしい。

前もって許可が必要だとかで、
しきりにディランに次からはちゃんと
許可を得てから来てください、と言っている。

でもディランが王子だとは知ってるらしくて
ちゃんと案内してくれるようだ。

良かった。

案内された女神像のある場所だけは
普通の礼拝堂だった。

私はディランの腕から下ろしてもらう。

案内してくれた神父さんと
ディラン、マイクは入口の扉付近で待っててもらった。

本当は外に出て欲しかったけど、
ディランとマイクは心配だから私を
一人にしたくないと言い、
神父さんは、部外者の私を一人にできないと言い、
結局、離れて見ていてもらうことで
なんとか同意を取り付けたのだ。

ただし、私が何をして、
どうなっても、黙って見ている、と言う条件で。

女神ちゃんとここで会話することになるのか、
あの白い世界に行くのかはわからない。

私の体が急に消えることもあるかもしれないので
それを踏まえてのお願いだった。

一応、もし私が姿を消しても
必ず戻ってくるから心配しなくてもいいと
それだけは何度も念押しした。

ものすごく心配されることだけは
わかっていたから。

私は二人と神父さんに
「絶対に動かないでくださいね」と
そう言って、女神像の前に行く。

女神像の上には、
ステンドグラスから明かりが差し込み、
とても綺麗だった。

女神像は、この世界は女性がいないのに
だから、どこか、男性的で
男装の麗人みたいな姿だ。

本物は可愛い女子高生みたいなんだけどね。

私は息を吸った。
そして女神像に手を当てて、
できるだけ大きな声が出るように
お腹から声を出す。

「女神ちゃん!
聞きたいことがあるから返事して」

私の声に、神父さんの非難するような
声が聞こえたような気がしたけれど、
それはすぐにかき消える。

目の前の女神像が一瞬、
まぶしいぐらいに光ったからだ。

『ユウ!
なかなか話し相手に来てくれないから
寂しかったぞ』

女神ちゃんの嬉しそうな声が響く。

「よかった。
私も女神ちゃんに言いたいことが
沢山あるんだ」

『うん?』

私の声に怒りの波動でも感じたのだろう。
女神ちゃんが戸惑うような声を出す。

『どうしたんじゃ?
賢者とは会えたのじゃろう?
ユウのために、頑張ったんじゃぞ』

あからさまに褒めて欲しそうな声だったけど
私はそれに気が付かないふりをする。

「そうだね。
パパ先生のことはそうだけど
それ以外に沢山、言いたいことと
教えてもらいたいことがあるの」

ピリピリとした空気に、
後ろから戸惑う気配がする。

でも無視だ。

「ここでこのまま話をしてもいい?」

『ま、待つんじゃ』

女神ちゃんの焦ったような声がして、
女神像がまた、まぶしく輝いた。

ただし今度は、その光はすぐに消えることはなく
礼拝堂自体を光で覆うように放たれる。

まぶしくて、とっさに目をつぶってしまう。

光が消えた感覚がして目を開けたら
私はあの白い空間にいた。

女神ちゃんの世界だ。

目の前には、おろおろした金髪の女子高生……
ではなく、女神ちゃんがいた。

服装は何故か、ゴスロリだった。
可愛いけど……なぜ?

『可愛いじゃろう?
最近はこういうのに目覚めたんじゃ』

……だから幼女とか言いだしたのか?
BLより幼女がしたいと思ったのは
ゴスロリの服に出会ったせいか?

思わずこめかみを押さえると、
女神ちゃんは、まぁ座れ、と指をくるりと回す。

すると白いテーブルとイスが出てきて、
テーブルの上には湯気の出る紅茶ポットと
ティーカップ。

そしてチョコレートケーキがあった。

私は素直に椅子に座る。

目の前にあるチョコレートケーキは
見たことがないものだった。

長方形のケーキで、
スポンジもクリームもきっと
チョコレートだろうけれど。

ケーキ全体をチョコレートで
コーティングしてある。

絶対に値段が高い高級チョコレートケーキだ。

私の記憶を読んでいるのか、
今まで女神ちゃんが私の前に出すケーキは
私がかつて食べていた量販店の
ぺこりんちゃんケーキだったのに。

『これはな。
勇が美味しいと言ってたケーキじゃ』

「勇くんが?」

それはぜひ食べたい。

『勇の話を聞きたいか?』

そう言われてうなずかないはずがない。

誤魔化されているような気はしたけれど、
私は頷く。

結婚したという勇くん。
仕事は相変わらず私が勤めていた工場と、
居酒屋バイトを続けているようだけど
居酒屋バイトは入る回数を減らしたらしい。

そして外に出ることを
極端に嫌っていたのに、今では
結婚した男性と休みの日は
カフェ巡りをしたり、
動物園に行ったりしているらしい。

『ほら。これが式の時の勇じゃ』

そう言って、一枚の写真……というか
ホログラム?

みたいなものが机の上に現れた。

それは勇くんの、というか
姿だけを見れば、私の結婚式の姿だった。

白いウエディングドレスを着て、
穏やかに笑うハンサムな男性と腕を組み、
幸せそうな顔で笑っている。

どくん、と心臓が鳴った。

その姿は
見つけた、幸せな私の姿だった。

私が欲しかった、ずっと欲しかった未来の姿。

あの時、勇くんを救い、
異世界に行くと決めた時に
私が捨てた、私の未来。

『ユウ?』

戸惑うような、心配するような
女神ちゃんの声が聞こえた。

けれど、私は返事ができない。

なんでもない、って笑わないとダメだと
思ったけれど。

思ったよりも現実が見えてきて。

愛される幸せだけでは満たされない理由を
目の前に突き付けられて。

なによりも、本当に欲しかった未来を
勇くんに譲ってしまった自分の後悔に
気が付いてしまって。

私は無言で涙を落とした。




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