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獣人の国
274:愛
しおりを挟む私とマイクは与えられた部屋に戻って来た。
「はーっ、良かった」
私はだらしなく、ソファーに寝そべる。
「緊張されていたのですね」
マイクが優しく言う。
「だって、これでこの国の問題が
無くなるかどうかが決まるんだもの。
責任重大でしょ」
そう言うと、マイクは少しだけ
表情を暗くした。
「マイク?」
私はマイクの顔色が優れないことに
気が付いて、ソファーに座るった。
「あ、いえ、申し訳ございません。
その、あやつのことをユウさまは
どうされるのかと思いまして」
「……ディランのこと?」
「はい。
この国が安定すればユウさまが
この国にいる必要はありません。
ですが、あやつは賢者殿に
気に入られているようですし……」
もしかして、パパ先生が
ディランをお泊りに誘ったことを言ってる?
「パパ先生はマイクのことだって大好きだよ」
と言ったけど、
マイクは、お礼の言葉を紡ぐだけで
表情は暗いままだ。
どうしよう。
本当のこと、言う?
まだ心の準備ができていないのに。
でも、マイクの表情が気になって、
私はマイクに声を掛けた。
「マイク、あのね。
パパ先生がディランに泊まるように
言ったのは、私とマイクを
二人っきりにさせるためなの」
思い切って言うと、
マイクがこれ以上ないほどに
目を見開いて私を見た。
「そ、それは……
どういう意味でしょうか」
「意味? 意味……。
えっと、私がマイクと二人で
話をしたかった……から?」
そうだよね?
と、何故か疑問形になってしまったけれど
マイクは物凄い勢いで私のそばまできて
ソファーに座る私の前に跪いた。
「それは……私を選んでくださったと
解釈をしても良いのでしょうか」
うん?
選ぶ?
わからなくて首を傾げると、
マイクは、そうですか、ですよね。
と、何やら一人で納得している。
「ではユウさまは私と
どのような話をされたかったのでしょう」
マイクは私の手を取り、
真剣な目で私を見つめる。
私は一瞬、うろたえた。
うろたえたけれど、ここまで来たら
隠すこともできないと思って、
考えていたことを全部吐き出した。
「最初にあやまっておくけど、
ごめん!」
と謝罪を入れて。
それから私は言葉を紡いだ。
マイクを勝手に私と同じように
帰る場所がないと思っていたこと。
だから振り回しても構わないと
無意識に感じていたこと。
金聖騎士団の皆や、ディランのように
家族や待っている人たちがいないのであれば
ずっと私と一緒にいて欲しいと
勝手に思っていたこと。
けれど、何の関係もない国のために
マイクが頑張ってくれているのを見て、
申しわけないと思うようになったこと。
早くマイクを隣国に……家族の元に
返してあげたいと思うけれど、
マイクがいなくなったら……。
ほんとは寂しいから、
ずっとそばにいて欲しいと思っていること。
マイクはソファーの前で跪いたまま、
私の手を取ったまま、
じっと話を聞いていた。
「ユウさま……そのお言葉は、
なんというか……私の良いように
解釈してしまいそうです」
良いように?
何が?と思ったけれど、
マイクの真剣な瞳に私は何も言えなくなった。
マイクは私の手を力を込めて握る。
「お慕いしております、ユウさま」
何度も言われた言葉だ。
けれど、マイクのこんな瞳を、
私は今までちゃんと見ていただろうか。
「私はずっと、ユウさまが
許して下さる限り、お傍におります」
熱い、瞳だった。
私は息を飲む。
この世界で私を好きだと言ってくれる人はいた。
金聖騎士団のヴァイオリンとカーティス、スタンリー。
そしてディランも。
でも、私は彼らの瞳を、
ちゃんと見ていただろうか。
どうせ『力』のせいだとか、
『祝福』があるから当たり前だとか。
そんなことを思って私は彼らと
向き合うこともせずに、
ただ彼らが与えてくれる愛情に
甘えていたのではないか。
今私が、マイクの愛情に
こうして甘えているように。
「マイクは……家族のところに
帰らなくていいの?」
「はい。
私には伴侶もおりませんし、
家を継ぐ者は別におります。
辺境の村に行くと言った際も、
そしてユウさまの旅に同行する旨を
伝えた際も、家族は反対しませんでしたし、
女神の愛し子であるユウさまを
お支えしろと、そう言われて家を出ました。
私をこの世界で縛ることができるのは
ユウさま、ただ一人なのです」
「家族よりも、私が大事?」
「はい」
家族がいない私を、
家族がいるマイクが選んでくれる?
「ずっとそばにいてくれる?」
「ユウさまが望む限り」
マイクの即答に、心が震えた。
私はずっと、心のどこかで
自分のことを【いらない子】だと思っていた。
親にまで捨てられた価値のない子だと。
でもそんな私を、
両親がいるマイクが、愛していると言う。
私が捨て子だとか、
施設育ちだとか、関係ない?
本当に?
望んでもいいのだろうか。
私も、人並みの幸せを。
パパ先生が言ってくれたような、
誰か一人を愛し、愛される人生を。
「マイクがこの国を助けてくれるのは
私のせい?」
「いえ、私がユウさまのご負担を
減らしたいと思い、勝手にさせていただいているのです」
なんでこんなに、
愛情を傾けてくれるのかわからない。
私はマイクには何も返せないのに。
そんな私の気持ちを汲んだのだろう。
マイクはゆっくりと言葉を紡いだ。
「ユウさまが誰か一人のものになれないことは
理解しております。
ですので、ユウさまが誰も選ばないのであれば
どうぞ、私をずっとお傍に」
「もし、もし私が誰かを選んだら?」
「……わかりません。
ユウさまのお傍にいることができないなど、
想像するだけで身を切られる思いです」
想像すらできないというマイクを
私は見つめた。
視線が、絡む。
でも『祝福』が発動する気配はない。
だけど。
だけど私は、そっと体を傾けた。
私の体を支えるようにマイクが抱き留める。
そんなマイクに、私は生まれて初めて
『祝福』など関係なく、自分の意志で、
自分からマイクに口づけた。
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