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獣人の国
275:自分の意志で
しおりを挟む視線が絡んだのに、
『祝福』は発動しなかった。
でも、私はマイクをもっと感じたいと思った。
マイクの本気の想いを、もっと見たいと思ったのだ。
そして私は、マイクであれば私が何をしても
受け入れてもらえるという安心感もあった。
今まで他人の顔色を見て生きて来た私にとって
何をしても受け入れて貰えるなど、
この世界に来なければ決して思うことは無かっただろう。
でも私はそう思えるほどの愛情を貰っている。
だから、マイクに口づけたのだ。
勇気も必要だったけど、
勢いもあったと思う。
今まで私からこんなことをしたことがなかったし、
マイクは何も言わないので
少しだけ不安になって私はマイクから顔を離した。
そしてそっとマイクを盗み見ると、
マイクは目を見開いて固まっていた。
受け入れて貰える自信はあったけれど、
何も反応が無いと照れてきて、
私はマイクの腕の中から抜けだす。
けど、すぐにマイクに腕を掴まれ
抱きしめられた。
「ユウ……さま」
マイクの指が、私の頬に触れた。
驚いたことに、マイクの指先は震えている。
「このまま……触れても?」
私は頷く。
いつでもマイクになら触れられても良いし、
というか、触れていいよ、と伝えていたのに。
そんなことを考えていた私の唇に、
マイクが突然……荒々しく口付てきた。
ディランであれば驚かないけれど、
いつも優しく私に触れていたマイクでは
考えられないような行動だった。
何度も唇が重なり、
深く口づけられたかと思うと、
そのまま舌が口内に差し込まれた。
息苦しくなるほど舌を吸われ、
それがやがて痺れるような快感になっていく。
『祝福』。
私には快楽に流されやすくなる祝福や
唾液などの体液が媚薬になる祝福も持っている。
でも今の状況は『祝福』など関係ないと
私は思った。
この世界も、女神も関係なくて。
ただ私の意志で、マイクを感じたいと思った。
自分の意志でマイクにしがみつき、
もっと、と逞しい背中に腕を回す。
それに応えるようにマイクもさらに私を抱きしめた。
ずっと『祝福』に振り回されてきた。
だけど、こんなに簡単なことだったんだ。
『祝福』を押さえ込むなんて。
だって女神ちゃんは、人間の感情を操れない。
自分の意志さえしっかり持っていれば、
私が自分の意志でマイクを感じたいと、
欲しいと思っている今のような状態であれば、
女神ちゃんの力は、効かないのだ。
いや、もしかしたら少しぐらい影響は
あるのかもしれないけれど、
今の私にはわからない。
だって、マイクを感じたいと言う想いが
強すぎで『祝福』など気にならないからだ。
『祝福』なんて無くても、
身体はマイクの舌でほぐれてきているし、
それどころか、もっと触れて欲しいとまで思っている。
この気持ちが、もし女神と関係なく
私自身の想いだとしたら。
私はこの気持ちに、
素直になってもいいだろうか。
この世界も、聖樹も、聖女も、女神も。
何もかも関係のない、私のためだけの想い。
私はマイクから腕を離して、
その瞳を見つめた。
「1つだけ、聞いていい?」
「なんなりと」
「もし私が……この世界を
救うことが出来なかったとしたら。
それでもマイクは一緒にいてくれる?」
その問いに、マイクはすぐに頭を下げた。
「この命が尽きるまで、
赦されるのであれば、命が尽きてもなお、
どうぞお傍に」
同じ言葉を、ヴァイオリンもカーティスも
スタンリーも。ううん、3人だけじゃない。
金聖騎士団の皆が言ってくれた。
物凄く嬉しかったし、
金聖騎士団のみんなの所が
『私の帰る場所だ』って思った。
でも、私は旅に出て、
ディランとマイクに出会った。
パパ先生が私の『帰る場所』に
なってくれると言ってくれた。
そして、気が付いたんだ。
金聖騎士団の皆は私を愛してくれるし、
私を『一番』だと言ってくれるけれど。
彼らには大切な家族や仲間や友人たちがいて、
その中に私が入ることはできないのだと。
むしろ、この世界ではイレギュラーな
私がいると、彼らはその大切な人たちと
別れることになるかもしれないのだと。
そう思ったら、怖くなった。
私が誰かの人生を狂わせるんじゃないかって
そんな気持ちになった。
だから私はマイクの存在に甘えたんだ。
マイクは私よりも大切な人はいないから。
仲間も友人も。
家族でさえ、二の次だ。
だから安心した。
これが愛なのか、甘えなのかわからない。
でも、少なくとも私はマイクと
離れたくないと思った。
ずっとそばにいて欲しいと思う。
それだけは、真実だ。
「私は……マイクに甘えてるんだと思う」
ごめんね、と私は言う。
「私は……マイクと同じ気持ちを
返せないかもしれない。
マイクにそばにいて欲しいと思うけれど、
この気持ちが何なのかわからない。
でも」
私は息を吸った。
嘘はつかない。
付きたくない。
だから、真実だけを告げる。
「マイクは私にとって特別……なの。
ヴァイオリンたち金聖騎士団の皆とも
ディランとも、パパ先生とも違うから」
マイクに真剣な瞳が、
じっと私の言葉を待っている。
マイクの頬が少し高揚しているように
見えるのは、気のせいだろうか。
「私が今、自分から触れたいと思うのは、
マイクだけ」
と言った瞬間、腕を引かれて
マイクの腕の中に抱きしめられた。
「もう……死んでも構わない」
いつもの丁寧な口調ではなく、
激しい口調でマイクはそう言うと、
強く、強く私を抱きしめた。
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