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獣人の国
287:国創りを始めよう
しおりを挟む翌朝、私はベットの上で唸った。
身体中が痛くて、動けなかったのだ。
マイクは平謝りしていたが、
私は眠くて、体が痛くて、
その言葉をほとんど聞いていなかった。
実際、昼前ぐらいまでウトウトしていて、
ディランが部屋に駆け込んで来るまでは
私はほとんど寝ていたと言ってもいいだろう。
「ユウ!」
部屋のノックも無く飛び込んできたディランに
マイクが顔をしかめた。
だが、
「貴様、ノックもせずに……」
と言うマイクの言葉を遮り、
ディランはベットで寝ている私に駆け寄ると
「大丈夫か!?」と私の手を取った。
意味が分からず首を傾げると、
ディランは、だって、という。
「朝からユウの姿が見えないって、
宮の者たちが言ってて。
しかも従者……コイツが
果物とか、そう言う物ばかり欲しがるから、
ユウが熱を出したんじゃないかって」
今までユウは体調を崩したことなかったから
心配したんだ!
と言われ、
そんなことになってたのかと驚いた。
確かに私は『祝福』があって無敵だったしね。
「大丈夫だよ、ディラン。
心配してくれてありがとう」
よしよし、と獣耳はないけれど
目の前のディランの頭を撫でる。
「ちょっと眠かっただけで大丈夫」
私は体を起こした。
眠って体が回復してきたせいか、
頭も働いてきた。
昨日は『祝福』が発動しなかったけれど
私の中の『力』が無くなったわけでは無い。
私は『力』で自分を癒せばよかったのだと
今更ながら気がついた。
今まで自分で自分を癒すなど
考えたことがなかったが、
そうする力を持っているのなら、
私だって、癒されて良い筈だ。
今までは、誰かに好かれたくて
常に誰かを優先させてきたけれど。
今の私は、自分で自分を優先しても
良いのだと思えるようになっていた。
きっと、女神ちゃんの思惑とは
全く関係ない状態で、沢山マイクに
愛されたからだと思う。
どんなに愛を囁かれても
抱かれても。
私は心の奥底で『祝福』があるから
私は愛されているのだと、
女神ちゃんの『力』があるから
まるで魅了の魔法を掛けたかのように
私は求められているのではないかと
そんな不安を持っていたのだ。
でも、昨日『祝福』が無い状態で
マイクに抱かれて、沢山愛されて、
私はこんなにも愛されているのだと
実感することができた。
そして愛してくれるマイクの為にも
自分を大事にしようと思えるようになったのだ。
私は体を巡る『力』を意図的に循環させる。
体の不調を治すように、ゆっくりと
『力』を発動させた。
すると私の体が、淡く輝き、
今までの身体のだるさや
痛みがあっという間に消え去った。
すぐそばで目を丸くしているディランに
私は笑って見せる。
「ね、大丈夫」
そう言うと、ディランは
不満そうな顔をしていたけれど
わかった、と頷いた。
「じゃあ、もし話ができるなら
兄貴が話をしたいって
言ってるんだ。
行けそうか?」
デビアンさんが?
私はすぐに頷く。
ディランは良かったと言うと、
私がベットから出るのを
手伝ってくれた。
マイクは心配そうな顔をしていたけれど
すぐに着替えの準備をしてくれて、
それから少しだけ、オレンジみたいな
少しすっぱい果実を食べた。
もちろん、マイクが丁寧に
皮を剥いてくれて、手が汚れないように
小さく切ってフォークに刺してくれた。
物凄く過保護だと思ったけれど、
その過保護が嬉しく感じるのだから
やはり昨夜のことは夢ではない。
自分の感情の変化に戸惑いつつも
果物を食べ終えると、
ディランが私を急に抱っこした。
「ディラン?」
「なんか、気に入らない」
拗ねたような顔で、ディランは言う。
「コイツと、ユウ。
なんかいつもと違う」
野生のカンだろうか。
一瞬、ドキっとしたけど、
私はいつもと同じだよ、と笑って見せる。
ディランは私を抱っこして、
ぐりぐりと頭を首筋にこすりつけて来た。
「なんか、コイツだけズルい」
「ズルくないよ、同じだよ」
私はディランの頭をなでなでする。
獣化するようになってから
ディランの性格が随分と可愛くなった。
子どもっぽいと言えばいいのだろうか。
ディランも私が『力』を
コントロールする練習を始めた時に、
一緒に感情をコントロールする練習を
始めたけれど、私の練習法ではうまくいかないらしく、
パパ先生も悩んでいるようだった。
私としては可愛いから
このままでも良いと思うんだけどね。
今までだったら、ディランが
過度に私に接していると
横から邪魔をしてきたマイクも、
昨夜のことがあるからだろう。
ディランが私を強引に抱っこしても
それを黙認している。
ディランが「ユウは俺が連れて行くぞ」と
威嚇するように言うが、
マイクは相手にしないので
さらにディランの顔が歪んだ。
「ユウ、やっぱりおかしい」
「そんなことないよ、大丈夫」
よしよし、と頭を撫でると
ディランは呻いた。
「仕方ない。また後で聞かせろよ」
ディランはそれ以上は聞かず、
私を抱っこしたまま部屋を移動した。
マイクも後ろからついて来る。
長い廊下を歩いて、
私たちはデビアンさんの執務室に来た。
私は立って部屋に入るつもりだったけど
ディランが私を下ろさないものだから
抱っこしたまま部屋に入ってしまう。
デビアンさんはそんな私と
抱っこして離さないディランを
苦笑しながら迎えてくれた。
昨日、マイクと一緒に説明した内容と、
今朝ディランがパパ先生のところから
持って帰って来た情報を擦り合わせて、
国を広げる日程を決めたらしい。
ディランと私、マイクがソファーに座ると
デビアンさんはテーブルに大きな地図を広げた。
「女神の力を使って一度にすべての方向に
領土を広げるか、それとも、東西南北と
4つの区域に分けて、4日間掛けて広げるか」
地図を指さしながらデビアンさんは言う。
正直私はどちらでもいいと思った。
むしろ、一気に終わらせてしまえば
後は楽かも、と思う。
でもマイクが口を挟む。
「領土を女神の力で広げる際、
住民はどうされるつもりでしょうか。
念のために避難をした方が良いかと思うのですが。
もし避難するのであれば、区画を分けておき、
広げる区域は立ち入り禁止にしておくべきかと」
なるほど!
避難か。
確かに、私が街を創っている時、
誰かいたら巻き込まれるかもしれないもんね。
さすが!って思ったら、
ディランが「俺だってそう思ってた!」と
頑張って主張している。
なんかディラン、どんどん可愛くなっていく気がする。
私は、ほのぼのした気分になって
ディランの頭をよしよししたが、
同じ様な顔でディランを見ているデビアンさんに
気が付いてしまった。
なんか、子どもみたいで
微笑ましいよね。
私が視線で訴えると、
デビアンさんも、苦笑して頷いてくれた。
やっぱりそう思うよね。
私もデビアンさんと視線を合わせて
笑ってしまった。
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