【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

文字の大きさ
297 / 355
愛があるれる世界

296:女神の愛し子の行方【ヴァレリアンSIDE】

しおりを挟む


 俺は『大聖樹の宮』の
ユウの部屋で書類を見ていた。

ユウのために用意した座り心地が良い
ソファーに座り、書類を手にしている。

今この部屋には金聖騎士団全員が揃っていて、
少し重苦しい空気が漂っていた。

俺たちは手分けをして
ユウと隣国の情報を集めていたが
その情報を共有するために
全員が集まったのだ。

騎士団の建物には専用の執務室もあるが、
俺たちは時間があれば、
この部屋に集まっている。

仕事もこの部屋でしているし、
この部屋には俺たち以外、
誰も入ってくることは無い。

密談するにはもってこいの場所だった。


 ユウが俺たち金聖騎士団の前から
姿を消してもうすぐ1年になる。

ユウが『大聖樹の宮』から姿を消したのは
自分の意志だと言うことは理解している。

そして、それに手を貸したのは、
国王と、王弟である俺の親父だ。

そのころ俺は<闇の魔素>を操り
街を支配していた教会があった街を
ユウが浄化した後始末をしていた。

本当はユウと一緒に城に戻りたかったが
崩壊した街をそのままにしておくことはできない。

カーティスも一緒にいるし、
気に食わないが。

本当に気に入らないが
ユウには新しい仲間が二人も増えていた。

ユウを愛おしそうに見る二人に
俺は、いや俺たちはどれだけ苛立ったことか。

それでも二人はユウの護衛として
腕だけは確かのようだったから
俺はその二人とカーティスを付け
先に城にユウを戻したのだ。

なのに。
なのに俺たちが城に戻った時には
もうユウはいなかった。

『大聖樹の宮』にあるユウの部屋の扉を、
俺とスタンリーがようやく
ユウに会えると意気揚々と開けた時。

そこには、絶望したような顔の
カーティスが一人、ソファーに座っていた。

事情を聴くと、ユウはあの二人と
出て行ったらしい。

この警備の厳重な『大聖樹の宮』にいて
勝手に出ていけるわけがない。

そうカーティスに詰め寄ると、
内密だが、王からの勅命が出たと言う。

ユウのそばにいたあの神官に、
ユウと共に隣国に行けと。
そして必ず戻ってこい、と。

「私たちが隣国に行くような
危険な真似をしなくても
愛し子は必ず戻ってくるから
待っていればいい。

……そう言われたよ」

実の父とは言え、国王陛下の言葉に
カーティスは逆らえなかったのだろう。

そして今回の件には
俺の親父も関わっていると言われた。

あの二人が関わったのであれば
ユウはもう王都にはいないだろう。

いや、もうこの国にはいないかもしれない。

俺も、スタンリーも、声が出なかった。

その後、追いかけて来たバーナードや
ケインとエルヴィンも
落ち込む俺たちと、ユウがいない部屋を見て
状況を察したらしい。

扉を開けたまま固まったエルヴィンの
後ろから大きな体を見せたバーナードも
その陰から覗いたケインも。

扉を閉めることさえできずに
動けずにいる。

そんな無言で落ち込む金聖騎士団全員の姿に
扉の前で控えていた騎士も、
侍従も、誰も声を掛けなかった。

あの時の落ち込みと、
国王陛下、いや親父たちに対する怒りは
いまだに冷めやらない。

しかも『王命』だなんて!

優しいユウが、
あの神官を見捨てるなどありえない。

だから必ずユウはここに帰ってくる。

だが、あの神官の家族を人質にして
無理やりユウに従わせた国王を
ユウはどう思うだろうか。

命を懸けて守った国の王が
自国の民の命を人質にして
女神の愛し子を操ろうとしたのだ。

そのことを女神が知れば
どう思うか。

いや、女神だけでなく、
神官や国民たちだって
このことを知れば、
国王は愛し子を軽んじたと
そう思うに違いない。

もちろん、このことは
箝口令が敷かれているし、
知っているのは俺たち金聖騎士団と
国王と俺の親父だけだ。

だが、ユウが姿を消した時期と、
俺たち金聖騎士団が国王たちとの
交流をほぼ断絶していることを知る者は
何かしら勘づいているだろう。

とにかく俺たちは1年経っても
まだ国王陛下を、親父を
赦す気にはなれない。

ユウが帰ってくるまでは
俺たちは、日々の業務や訓練は
こなしているけれど、
特別な要請がない限りは
この『大聖樹の宮』に引きこもっている。

ここは神殿とも王家とも関係のない
どんな権力からも解放された場所だからだ。

「隊長、どうぞ」

ソファーに座って報告書を読んでいると
バーナードがお茶を淹れて
テーブルに置いた。

「あぁ、悪いな」

バーナードはもうすぐ結婚式だ。
ユウが戻ってくるまで式は挙げないと
言っていたが、さすがにこれ以上相手を
待たせるわけにはいかないと判断したらしい。

実家が商売をしているエルヴィンは
その伝手を使って隣国の情報を探っているが
全く掴めないらしい。

枢機卿の孫であるケインは
各地の教会に声を掛けていたし、
父親が宰相であるスタンリーは
地方貴族たちからの情報を得ようと
動いてくれてはいたが、
それらしい情報は何一つ入ってこなかった。

「だいたい、隣国、隣国と言うけど、
道すらないんだ。
いったい、どこからどう行けばいいのかわからない」

と、俺の隣で書類を見ながら呟くのは
第三王子のカーティスだ。

書類はこの国の端にある都市の教会や
商売などの組合から、
ついて、知っていることをすべて書かせたものだ。

だが、どの報告書も
になど行ったことがない。
という内容ばかりだ。

別の騎士団の人間にも
それとなく話を聞いてはみたが、
そもそも、この世界に、
この国以外に国があるなど
思ったことがない。

をわざわざ越えて
その先に行こうなどと思ったこともないし
考えたことも無いと言う。

そう言われれば、俺だってそうだ。

世界は広いだろうし、
この国以外にも多くの国があっても
おかしくはない。

頭ではそう理解していたが、
それでも俺はこの件があるまで
隣国のことなど考えもしなかったし、
何故か漠然と

思い込んでいた。

そもそもだって
明確に決まってはいない。

ただなんとなく、
無意識が理解していて、
そこから先に行く気にはならなかった。

この国の外は危険だからと漠然と思っていたが
だからと言って、魔獣や魔物が出るとか
そう言う話は聞いたことがない。

ユウがいなくなって初めて、
この国の外、という認識が生まれた。

不思議なことだが、
女神が関わっているのかもしれないと
スタンリーが言っているのを聞き、
そうかもしれないと納得した。

女神がなんらかの意図があり
俺たちから隣国の存在を隠していたと
するのなら、そういうこともあるだろう。

女神によって隠された国。

つまり俺たち人間には
どうすることもできないってことになる。

俺は持っていた書類をテーブルに置いた。

女神が隠しているのであれば
誰にどう探させても見つかるわけがない。

はっきり言って、
ユウを探しているものの
俺たちの間では諦めた空気が漂っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!

ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。 らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。 なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...