ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.45

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 そんないい子でやってきた自分がこの歳になって初めて恥をさらさなければならない。

 それも何かを必死で頑張ったうえでの失敗とかではなく、聖夜への想いがこじれたせいで酒を飲みすぎて最悪の事態を招いてしまったのだ。

 こういう話に免疫のない母にそんなことを伝えるのは至難の業に思える。

 グダグダと考え込んでいるうちに一時間ほどが過ぎていた。



 着信の音にビクッとする…。

 まさかとは思うけれど…。

 画面に表示されているのは澄江の名前だった。



「嘘っ!和希さんもう連絡しちゃったの!?」

 母に何て伝えようなどと悩む必要はなくなった。

 しかし、なぜ早く言わなかったのだと血管がブチ切れそうになっている母の顔が思い浮かぶ。

 慶子はフルフルと震える腕を伸ばし、スマホの通話を押した。



「慶子…、今、三上和希さんから電話があったわ。何だか様子がおかしかったから…」

 想像とは違い母の口調はいたって冷静だった。

 よかった…逆上した母の声など聞きたくなかったから。

 それでもやはりどこらから話せばいいのか…。

 慶子の頭の中はパニックに陥る。



「詳しい話はいいわ。あと、今回のお見合いはハッキリお断りしましょう」

「えっ…」

 慶子はまだ一言も話していないのに…。



「あんな風に自分のことでいっぱいいっぱいの人に慶子を支えることなんて出来そうにありませんからね。お付き合いしても時間の無駄です」

「お母さん…」

「自分の身を呈してでも女性を守ってくれるような人じゃなきゃ、大切な娘の人生を託すわけにはいきませんからね」

「…うん、ありがとう」



「もちろんお相手のご両親には詳しい話はしません。ただご縁が無かったと伝えてそれで終わりにしましょ」

「お母さん…、本当にありがとう」

「いいのよ。あなたにもお父さんみたいに頼もしい人がきっと見つかるわ」



 ちゃっかりノロケられてしまったけれど、理解のある母であることをこの時ほど有難いと思ったことはない。

 ただでさえ落ち込んでいるところに、更なる追い打ちをかけられたらとても立ち直れない。

 自分に100%非がなかったとしても後味が悪い終わり方だ。

 しかも確実に自分にも非があるわけで…。



 母はああ言ってくれたけど、和希とはこんな風に出会いたくなかったと思ってしまう。

 だが、それもこれも今日で無事決着がついた。



 聖夜が最初に慶子のクリニックを訪れてから約半年が経とうとしていた。

 和希に会わなければ聖夜のことを思い出すこともなくなるだろう。

 慶子はやっと肩の荷が下りた気がしていた。

 聖夜に出会う前の日常が戻ってきた。
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