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第2章。第4皇子との帝位継承争いに勝利する
15話。モブ皇子、ガインの娘レナを助け出す
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「へへへっ、ル、ルーク皇子殿下。俺の子飼いの飛竜で、すぐに娘の元に案内しますぜ」
テイマーが媚を売るようにペコペコしてくる。
ヤツが口笛を吹くと、鞍が付いた飛竜が飛んできた。
少々驚いた。グリフォンだけじゃなく、移動手段として最上とされる飛竜までテイムしているとはな。
口調と態度は小物っぽいが、この男もかなりの実力者のようだ。
「これなら、ひとっ飛びで行けるな」
「はい、そりゃもう! この俺、ジャック自慢の飛竜ですから!」
俺が飛竜に興味を示すと、ジャックと名乗った男は手揉みしてすり寄ってきた。
「ガインの娘は、この森にある廃砦に監禁しております! 仕事が終わったら、そこにガインを案内して娘ともども罠にかけて始末するつもりでした」
「……用意周到なこったな」
助かりたい一心で計画をしゃべるジャックに、ガイン師匠が舌打ちした。
そんなことだろうと思ったが、やはりか。
「そこに敵は何人いるんだ?」
「ザイラスっていう、メイドの格好をした薄気味悪い女魔法使いが1人でさ」
「あいつか!? しかし、俺を罠に嵌めるにしても……たった1人でか?」
「おそらく、師匠の油断を誘うためでしょう。例えば、レナちゃんに近づいた途端、ふたりとも爆発で木っ端みじんとか。そういった魔法罠を仕掛けていることが考えられます」
ゲームでダンジョンに設置してあった魔法地雷という奴だ。
「そいつは厄介だな……」
ガイン師匠は呻いた。
「大丈夫です。魔法罠は、仕掛けた術者を倒せば発動しなくなります。俺の暗殺に成功したと思わせて、ザイラスを逆に罠に嵌めてやりましょう」
「なに? 具体的には、どうやってだ?」
「俺は死体袋に入って死体のフリをします。それで、奴に不意打ちを喰らわせるんです」
ガイン師匠は目を白黒させた。
「……ルークには驚かされてばかりだな。まったく、どちらが師匠だかわかりゃしねぇ。その知恵と度胸、熟練の冒険者も顔負けだぞ」
思わず苦笑してしまう。
魔力暴走のために、赤ん坊の頃から死と隣り合せだったおかげで、度胸だけは付いていた。
「ガイン師匠は、死体袋に入った俺を担いで、ジャックを先頭に砦に入ってください。それでザイラスを騙せる筈です」
「なるほど、わかった……危険な役を任せてしまって本当にすまない。礼を言う」
ガイン師匠は、感じ入ったように俺に頭を下げた。
「ジャック、【上位回復薬】だ。これで足の怪我を治療しろ。わかっていると思うが、砦に入っておかしなマネをしたら、命は無いと思え」
「は、はい! ありがとうございます、皇子殿下! 肝に銘じます!」
【上位回復薬】を渡してやると、ジャックは平身低頭で礼を述べた。
だが、俺はコイツをまったく信用していなかった。
こういった仲間を裏切る手合いは、状況が変わればすぐにこちらを裏切ってくる。前世でもそういう経験をした。
だから、前を歩かせ、もし裏切る素振りを見せたら、即、背中から斬り倒すつもりだ。
ジャックもそれを理解しているためか、恐怖に顔を引き攣らせていた。
飛竜に乗って移動しながら、ジャックからさらに詳しい話を聞く。
廃砦はザイラスが研究施設として使っている場所らしかった。
「……ザイラスは【冥界落とし】とかいう魔法の研究のために、村をまるごと実験場にするようなクソ外道だ。そいつにレナは巻き込まれたんだ!」
ガイン師匠が怒りを込めて、吐き捨てるように告げた。
「人間を昏睡状態にさせるヤバい魔法だ。油断できねぇぞルーク」
「【冥界落とし】? いや、それって、もしかして人間を即死させる魔法じゃないですか?」
「なんだと!?」
「へっ? お、皇子殿下、なぜそれを!?」
師匠とジャックが、あ然とする。
俺は考え込んだ。
「……なら、詠唱から発動には、時間がかかる筈です。俺の近くを離れなければ、ヤツが【冥界落とし】撃ってきても【魔断剣】で対処できます」
ザイラスが研究しているのは、ゲームで魔王軍が使っていた人間を殺すための魔法に間違いない。
発動に時間がかかり、射程は詠唱の聴こえる範囲と短いが、これを撃たれると即死するので、手こずらされた。
俺は、この世界でいろいろな魔導書を読み漁ってきたが、【冥界落とし】についての記述は無かった。
まだ、この時代には【冥界落とし】は存在していないんだ。
なら、未来の悲劇を防ぐためにも、ここで叩き潰しておくのに限るな。
「お、お前、ホントに頼りになる男だな。カミラ皇妃のことを独自に調べていたのか?」
「……まあ、そんなところです」
ゲーム知識だとは言えないので、適当に誤魔化しておく。
それにしても、失敗すると昏睡状態になるということは、【冥界落とし】は【睡眠】の派生系なのかも知れないな。
そんなことを考えていると、やがて廃砦が見えてきた。
外壁が植物のツタに覆われた薄気味悪い建物だった。
俺が死体袋に入ると、ジャックは飛竜を門前に着地させた。
その瞬間、肌を刺すような嫌な感じがした。
術者の魔法効果を増幅する結界が、この廃砦を覆っているみたいだった。これは、わずかな油断もできないぞ。
「ザイラス、仕事を成功させて戻ったぞ!」
廃砦に足を踏み入れると、ジャックが叫んだ。
「……ご苦労。ルーク皇子の死体は? カミラ様のご要望通り、本人と判る程度の損壊に留めておいたか?」
ザイラスと思わしき若い女の声が響き、足音が近付いてくるのが、わかった。
口調は老人のようなのに不可解なヤツだ。
ザイラスはサン・ジェルマン伯爵の弟子で、不老不死の秘術を授けられている可能性もあると聞いた。
不老不死の秘術はゲーム未登場で、詳細がまったくわからないんだよな。
斬っても死なないなんてことが、もしかして有り得るのか……?
「もちろんだ、ガインに運ばせているコイツがそうだ」
「では、死体を確認させてもらおうか?」
「その前に、レナの魔法を解いて引き渡せ。じゃなきゃ、コイツは渡せねぇな」
ガイン師匠がドスの効いた声を出した。
ザイラスを倒すのは、レナちゃんの身柄を確保──最低でも確認してからでないと駄目だ。
最悪、ジャックが嘘をついており、ここにレナちゃんが居ないことだって考えられる。そうなれば、レナちゃんは報復で殺されるだろう。
「この死体袋には油を染み込ませてある。嫌だってんなら、この場でコイツに火をつける。顔の判別は親にもできなくなるぜ?」
カミラ皇妃は、俺の死体を母さんとディアナの元に送りつけ、絶望を与えようとしているらしかった。まさに、ゴミ以下の女だ。
そのために俺だと確実にわかる死体を欲しがっており、そこに付け入る隙があった。
「……冒険者風情が。ふん、まあ、いいだろう」
ザイラスが指を鳴らすと、ゴゴゴゴッと何か大きなものがズレて動く音がした。
死体袋に入っている俺には確認できないが、おそらくレナちゃんを閉じ込めた部屋に通じる隠し扉があって、それが開いたのだと思う。
「レナ……!」
ガイン師匠が息を飲む声が聞こえてきた。
「では、その死体袋を開けて見せろ。ルーク皇子の死体だと確認できたら、この娘にかけられた【冥界落とし】の魔法は解いてやろう」
「わかった。なら、ようくおがめよ」
ガイン師匠が、俺が入った死体袋をテーブルのような場所に横たえた。
ザイラスが覗き込もうとやってくるのが、足音でわかる。
「これでカミラ様もお喜びになる。下賤な魔族女ごときが陛下の寵姫におさまり、カミラ様に意見するなど、思い上がりも甚だしい。次はディアナ皇女を……」
「【魔断剣】!」
俺はザイラスに向かって、【魔断剣】を突き刺した。これなら、どんな魔法で身を守っていようが無意味だ。
同時に死体袋を破って、外に飛び出す。
「き、貴様……!?」
俺の【魔断剣】はザイラスの胸を貫いていた。確実に致命傷だ。
「ディアをどうするだって?」
「バカな、この剣は……」
ドサッと音を立てて、ザイラスの身体が床に崩れる。
見た目は、不気味なほど白い肌をした娘の姿をしていた。
「ひっ、ひぃいい! あ、あのザイラスが一撃でぇ!?」
ジャックがひっくり返って悲鳴を上げた。
俺はザイラスの死体を油断なく見つめていたが、もはや動く気配は無かった。
「……不老不死の秘術を得ているというのは、ガセだったか?」
それとも、【魔断剣】は不老不死の秘術さえ、無効化してしまったのか?
いや、1000年の時を生き、伝説的存在となっているサン・ジェルマンの秘術が、そんなチャチな筈は無いと思うが……
「レナ!」
ザイラスの死を確認したガイン師匠が、眠る可憐な少女──レナちゃんを抱き起こした。
魔法罠が発動する気配は無かった。やはりザイラスは死んだようだ。
「ルーク、頼む」
「任せてください」
俺は【魔断剣】の攻撃力を、ゼロまで低下させる調整を行う。
それでレナちゃんの胸を突いた。
レナちゃんの柔肌には傷一つ付かなかった。
しかし、彼女を目覚めぬ眠りに落としていた悪しき呪いは、【魔断剣】によって無効化される。
「……お、お父さん?」
目を開けたレナちゃんは、何が何だかわからない様子で、キョトンとしていた。
「心配させやがって……!」
ガイン師匠がレナちゃんを抱き締めた。
レナちゃんは、俺と同じ7歳らしい。こんな小さな娘が犠牲にならなくて本当に良かった。
俺も思わず目頭が熱くなるが……
「さすがはルーク皇子殿下! 協力したんですから、俺は見逃してくれますよね!?」
ジャックが何ともトンチンカンなことを言って、水を差してきた。
「そうだな、許してやっても良いぞ。お前が、カミラ皇妃を罪人として追い込むたの証言台に立つならな」
「へっ、なんですって……?」
「カミラ皇妃は、皇帝の命令に逆らって俺に手を下しただけじゃない。ザイラスを使って帝国法で禁止されている無許可の魔法実験を繰り返していたんだろ? この廃砦にその証拠となる記録がある筈だ」
皇帝アルヴァイスは特定の貴族が隠れて力を持つことを嫌い、新魔法の実験はすべて帝国政府への届け出が必要だと定めていた。
そんな帝国政府が、村をまるごと犠牲にするような危険な魔法実験を許可する筈もない。
つまり、ザイラスの【冥界落とし】の魔法研究は100%違法だ。
これが明るみに出れば、カミラ皇妃は皇帝に叛意有りと見なされて重罪。その実家、ルードヴィヒ公爵家にも確実に類が及ぶだろう。
「お、おおおお前! そんなことをしたら、カミラ様は!? そして、俺は……!」
「そう、破滅だな」
俺は冷然と言い放った。
カミラ皇妃とその一派が、1年後の母さんの暗殺に関わっている可能性もある。だから……
「俺は絶対に容赦しない。カミラ皇妃とその一派は、ここで完全に叩き潰す!」
テイマーが媚を売るようにペコペコしてくる。
ヤツが口笛を吹くと、鞍が付いた飛竜が飛んできた。
少々驚いた。グリフォンだけじゃなく、移動手段として最上とされる飛竜までテイムしているとはな。
口調と態度は小物っぽいが、この男もかなりの実力者のようだ。
「これなら、ひとっ飛びで行けるな」
「はい、そりゃもう! この俺、ジャック自慢の飛竜ですから!」
俺が飛竜に興味を示すと、ジャックと名乗った男は手揉みしてすり寄ってきた。
「ガインの娘は、この森にある廃砦に監禁しております! 仕事が終わったら、そこにガインを案内して娘ともども罠にかけて始末するつもりでした」
「……用意周到なこったな」
助かりたい一心で計画をしゃべるジャックに、ガイン師匠が舌打ちした。
そんなことだろうと思ったが、やはりか。
「そこに敵は何人いるんだ?」
「ザイラスっていう、メイドの格好をした薄気味悪い女魔法使いが1人でさ」
「あいつか!? しかし、俺を罠に嵌めるにしても……たった1人でか?」
「おそらく、師匠の油断を誘うためでしょう。例えば、レナちゃんに近づいた途端、ふたりとも爆発で木っ端みじんとか。そういった魔法罠を仕掛けていることが考えられます」
ゲームでダンジョンに設置してあった魔法地雷という奴だ。
「そいつは厄介だな……」
ガイン師匠は呻いた。
「大丈夫です。魔法罠は、仕掛けた術者を倒せば発動しなくなります。俺の暗殺に成功したと思わせて、ザイラスを逆に罠に嵌めてやりましょう」
「なに? 具体的には、どうやってだ?」
「俺は死体袋に入って死体のフリをします。それで、奴に不意打ちを喰らわせるんです」
ガイン師匠は目を白黒させた。
「……ルークには驚かされてばかりだな。まったく、どちらが師匠だかわかりゃしねぇ。その知恵と度胸、熟練の冒険者も顔負けだぞ」
思わず苦笑してしまう。
魔力暴走のために、赤ん坊の頃から死と隣り合せだったおかげで、度胸だけは付いていた。
「ガイン師匠は、死体袋に入った俺を担いで、ジャックを先頭に砦に入ってください。それでザイラスを騙せる筈です」
「なるほど、わかった……危険な役を任せてしまって本当にすまない。礼を言う」
ガイン師匠は、感じ入ったように俺に頭を下げた。
「ジャック、【上位回復薬】だ。これで足の怪我を治療しろ。わかっていると思うが、砦に入っておかしなマネをしたら、命は無いと思え」
「は、はい! ありがとうございます、皇子殿下! 肝に銘じます!」
【上位回復薬】を渡してやると、ジャックは平身低頭で礼を述べた。
だが、俺はコイツをまったく信用していなかった。
こういった仲間を裏切る手合いは、状況が変わればすぐにこちらを裏切ってくる。前世でもそういう経験をした。
だから、前を歩かせ、もし裏切る素振りを見せたら、即、背中から斬り倒すつもりだ。
ジャックもそれを理解しているためか、恐怖に顔を引き攣らせていた。
飛竜に乗って移動しながら、ジャックからさらに詳しい話を聞く。
廃砦はザイラスが研究施設として使っている場所らしかった。
「……ザイラスは【冥界落とし】とかいう魔法の研究のために、村をまるごと実験場にするようなクソ外道だ。そいつにレナは巻き込まれたんだ!」
ガイン師匠が怒りを込めて、吐き捨てるように告げた。
「人間を昏睡状態にさせるヤバい魔法だ。油断できねぇぞルーク」
「【冥界落とし】? いや、それって、もしかして人間を即死させる魔法じゃないですか?」
「なんだと!?」
「へっ? お、皇子殿下、なぜそれを!?」
師匠とジャックが、あ然とする。
俺は考え込んだ。
「……なら、詠唱から発動には、時間がかかる筈です。俺の近くを離れなければ、ヤツが【冥界落とし】撃ってきても【魔断剣】で対処できます」
ザイラスが研究しているのは、ゲームで魔王軍が使っていた人間を殺すための魔法に間違いない。
発動に時間がかかり、射程は詠唱の聴こえる範囲と短いが、これを撃たれると即死するので、手こずらされた。
俺は、この世界でいろいろな魔導書を読み漁ってきたが、【冥界落とし】についての記述は無かった。
まだ、この時代には【冥界落とし】は存在していないんだ。
なら、未来の悲劇を防ぐためにも、ここで叩き潰しておくのに限るな。
「お、お前、ホントに頼りになる男だな。カミラ皇妃のことを独自に調べていたのか?」
「……まあ、そんなところです」
ゲーム知識だとは言えないので、適当に誤魔化しておく。
それにしても、失敗すると昏睡状態になるということは、【冥界落とし】は【睡眠】の派生系なのかも知れないな。
そんなことを考えていると、やがて廃砦が見えてきた。
外壁が植物のツタに覆われた薄気味悪い建物だった。
俺が死体袋に入ると、ジャックは飛竜を門前に着地させた。
その瞬間、肌を刺すような嫌な感じがした。
術者の魔法効果を増幅する結界が、この廃砦を覆っているみたいだった。これは、わずかな油断もできないぞ。
「ザイラス、仕事を成功させて戻ったぞ!」
廃砦に足を踏み入れると、ジャックが叫んだ。
「……ご苦労。ルーク皇子の死体は? カミラ様のご要望通り、本人と判る程度の損壊に留めておいたか?」
ザイラスと思わしき若い女の声が響き、足音が近付いてくるのが、わかった。
口調は老人のようなのに不可解なヤツだ。
ザイラスはサン・ジェルマン伯爵の弟子で、不老不死の秘術を授けられている可能性もあると聞いた。
不老不死の秘術はゲーム未登場で、詳細がまったくわからないんだよな。
斬っても死なないなんてことが、もしかして有り得るのか……?
「もちろんだ、ガインに運ばせているコイツがそうだ」
「では、死体を確認させてもらおうか?」
「その前に、レナの魔法を解いて引き渡せ。じゃなきゃ、コイツは渡せねぇな」
ガイン師匠がドスの効いた声を出した。
ザイラスを倒すのは、レナちゃんの身柄を確保──最低でも確認してからでないと駄目だ。
最悪、ジャックが嘘をついており、ここにレナちゃんが居ないことだって考えられる。そうなれば、レナちゃんは報復で殺されるだろう。
「この死体袋には油を染み込ませてある。嫌だってんなら、この場でコイツに火をつける。顔の判別は親にもできなくなるぜ?」
カミラ皇妃は、俺の死体を母さんとディアナの元に送りつけ、絶望を与えようとしているらしかった。まさに、ゴミ以下の女だ。
そのために俺だと確実にわかる死体を欲しがっており、そこに付け入る隙があった。
「……冒険者風情が。ふん、まあ、いいだろう」
ザイラスが指を鳴らすと、ゴゴゴゴッと何か大きなものがズレて動く音がした。
死体袋に入っている俺には確認できないが、おそらくレナちゃんを閉じ込めた部屋に通じる隠し扉があって、それが開いたのだと思う。
「レナ……!」
ガイン師匠が息を飲む声が聞こえてきた。
「では、その死体袋を開けて見せろ。ルーク皇子の死体だと確認できたら、この娘にかけられた【冥界落とし】の魔法は解いてやろう」
「わかった。なら、ようくおがめよ」
ガイン師匠が、俺が入った死体袋をテーブルのような場所に横たえた。
ザイラスが覗き込もうとやってくるのが、足音でわかる。
「これでカミラ様もお喜びになる。下賤な魔族女ごときが陛下の寵姫におさまり、カミラ様に意見するなど、思い上がりも甚だしい。次はディアナ皇女を……」
「【魔断剣】!」
俺はザイラスに向かって、【魔断剣】を突き刺した。これなら、どんな魔法で身を守っていようが無意味だ。
同時に死体袋を破って、外に飛び出す。
「き、貴様……!?」
俺の【魔断剣】はザイラスの胸を貫いていた。確実に致命傷だ。
「ディアをどうするだって?」
「バカな、この剣は……」
ドサッと音を立てて、ザイラスの身体が床に崩れる。
見た目は、不気味なほど白い肌をした娘の姿をしていた。
「ひっ、ひぃいい! あ、あのザイラスが一撃でぇ!?」
ジャックがひっくり返って悲鳴を上げた。
俺はザイラスの死体を油断なく見つめていたが、もはや動く気配は無かった。
「……不老不死の秘術を得ているというのは、ガセだったか?」
それとも、【魔断剣】は不老不死の秘術さえ、無効化してしまったのか?
いや、1000年の時を生き、伝説的存在となっているサン・ジェルマンの秘術が、そんなチャチな筈は無いと思うが……
「レナ!」
ザイラスの死を確認したガイン師匠が、眠る可憐な少女──レナちゃんを抱き起こした。
魔法罠が発動する気配は無かった。やはりザイラスは死んだようだ。
「ルーク、頼む」
「任せてください」
俺は【魔断剣】の攻撃力を、ゼロまで低下させる調整を行う。
それでレナちゃんの胸を突いた。
レナちゃんの柔肌には傷一つ付かなかった。
しかし、彼女を目覚めぬ眠りに落としていた悪しき呪いは、【魔断剣】によって無効化される。
「……お、お父さん?」
目を開けたレナちゃんは、何が何だかわからない様子で、キョトンとしていた。
「心配させやがって……!」
ガイン師匠がレナちゃんを抱き締めた。
レナちゃんは、俺と同じ7歳らしい。こんな小さな娘が犠牲にならなくて本当に良かった。
俺も思わず目頭が熱くなるが……
「さすがはルーク皇子殿下! 協力したんですから、俺は見逃してくれますよね!?」
ジャックが何ともトンチンカンなことを言って、水を差してきた。
「そうだな、許してやっても良いぞ。お前が、カミラ皇妃を罪人として追い込むたの証言台に立つならな」
「へっ、なんですって……?」
「カミラ皇妃は、皇帝の命令に逆らって俺に手を下しただけじゃない。ザイラスを使って帝国法で禁止されている無許可の魔法実験を繰り返していたんだろ? この廃砦にその証拠となる記録がある筈だ」
皇帝アルヴァイスは特定の貴族が隠れて力を持つことを嫌い、新魔法の実験はすべて帝国政府への届け出が必要だと定めていた。
そんな帝国政府が、村をまるごと犠牲にするような危険な魔法実験を許可する筈もない。
つまり、ザイラスの【冥界落とし】の魔法研究は100%違法だ。
これが明るみに出れば、カミラ皇妃は皇帝に叛意有りと見なされて重罪。その実家、ルードヴィヒ公爵家にも確実に類が及ぶだろう。
「お、おおおお前! そんなことをしたら、カミラ様は!? そして、俺は……!」
「そう、破滅だな」
俺は冷然と言い放った。
カミラ皇妃とその一派が、1年後の母さんの暗殺に関わっている可能性もある。だから……
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だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
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