124 / 159
第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の虎
第105話 荒野で牌製作
しおりを挟む「それで、どこで打つのかしら? ここには麻雀牌どころか、卓すらもなさそうだけど……」
「ああ、それなら大丈夫」
百爪はそう言うと、腰の手甲を装着した。
一瞬、私たちに緊張が走ったが、彼はそれを気にする様子もなく、明後日の方向へ歩き出した。
何をやっているのだろう、と思ったのもつかの間。
やがて地面から生えたような岩の前に立ち止まると――
一閃。
岩は豆腐のように切り裂かれ、四人が楽に座れる程度の卓へと変わった。
ご丁寧に、背もたれのある椅子まで作られてある。
さらに百爪は転がっていた岩を手に取ると、目にも留まらぬ速度で撫でていき、あっという間に牌を作った。
「おお……! やるのう、百爪とやら! そして、これがパイというヤツか!」
フェニ子が目をキラキラと輝かせながら、卓の上に散らばっている牌を摘まみ上げる。
そんな中、隣にいた紅月が小声で話しかけてきた。
「……真緒」
「うん」
「強いわね。あきらかに。……私の見立てだとおそらく、昨日の螭龍よりも」
本人のキャラこそあんな感じだが、彼の手さばきは尋常じゃない。
あんなものは人に向けていいものじゃない。
戦闘になんてなろうものなら、何羽分のフェニ子がなます切りにされるかわからない。
私はただ、彼と戦うような事態にならなかったことに、心底安堵した。
「……けど、さすがに絵柄までは無理みたいね」
いつの間にか、フェニ子の隣で同じように牌を摘まみながら紅月が呟く。
「さすがにそこまで緻密なやつはね。……悪いんだけど、ちょっと一緒に掘ってくれない?」
百爪はそう言うと椅子を引いてそこへ座り、早速、牌の表面をガリガリと削りはじめた。
どうやらこれは、私たちも手伝う流れのようだ。
あんな小さな岩に、手作業で模様を掘っていくのは面倒くさそうだが――
なに、戦闘に比べたらこちらのほうが百倍、気が楽でいい。
私も卓に着くと、百爪は手甲から爪を三本取り外し、私たちに寄越した。
爪は先端こそ鋭く尖っているものの、根元のほうはガッツリ握っても大丈夫なようになっている。
「気をつけてね。鋭いから」
「わかってる。見てたから。……でも、ここでやるの?」
ここへくる道中……とまではいかないが、ここも十分風が強い。
おまけに天井もないから、うっすらと陽光が当たって暑い。
「べつに無理やり玉に触ったりとかしないから、祠の中でやるのはダメなの?」
私がそう尋ねると、百爪は手を止めて私を見た。
「祠の中は神域だからね。オレみたいな半端モンが入ると、空気が壊れるんだよ」
「空気……?」
そういえば螭龍さんも祠の中には入ってこなかったっけ。
彼らには彼らなりに、ルールのようなものがあるのだろうか。
「だから外でやろうよ。風通しもいいしさ」
「いやまぁ、風通しが良すぎるから、屋内でやろうって話なんだけど……」
私が零した小さな愚痴は、誰の耳にも届くことなく、砂ぼこりとともに風にさらわれていった。
0
あなたにおすすめの小説
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム)
目を覚ますとそこは石畳の町だった
異世界の中世ヨーロッパの街並み
僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた
案の定この世界はステータスのある世界
村スキルというもの以外は平凡なステータス
終わったと思ったら村スキルがスタートする
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる