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第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の虎
第110話 こじつけの虎
しおりを挟むいち……にぃ……さん――
「あ、いける。じゃあこれ、リーチで」
私は百爪から、麻雀の模様を掘る時に借りていた爪を、リーチ棒に見立てて卓の中央へと置いた。
親は既に紅月から私に変わっているが、トップは未だ紅月。
この試練の勝利条件をまだ聞いていなかったが、あとは私とフェニ子がマイナスにならないように気をつけつつ、今の順位を維持すればいいのだろう。
とはいえ、このまま一度もアガらないというのも味気ない。
せっかく麻雀を打っているのだから、一度くらいはアガっておきたい。
そんなことを考えていると、また百爪が口を開いた。
「――麻雀ってさ、人生に似てるよね」
それに対して、紅月が静かにため息をつく。
「またそれ?」
「そのくだり、一体あと何回するつもりなんじゃ」
「……どんなに調子が良くて――」
二回目にして、早くもこの場にいる三人に飽きられているが、それでも百爪は続ける。
メンタルが強いのか、それともなにかしらのノルマがあるのか。
私の中でのこいつの印象が少し、可哀想なヤツに傾いてきた。
「高い手を狙ってても、流れればそれで終わり。あとには何も残らないんだ」
「流れ?」
「その局が終わってしまうってことだよ。欲張れば崩れるし、守りすぎれば手が死ぬ」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
リーチを宣言した後は手持ちの牌を変えることはできない。
普通に無視しようと思った手前あれだが、どうせ手持ち無沙汰だし、ここはすこし付き合ってあげよう。
「迷わないことだね。こうと決めたら、変えない、ブレない、省みない。迷いながら引いた牌は大体、裏目を引いてしまうのさ」
「裏目って?」
「簡単に言うと、捨てなきゃよかったってなる現象だね。ああすればよかった。こうすればよかった……みたいな」
「くだらないわ。迷信よ」
紅月が吐き捨てるように言う。
「それはただ、手痛く失敗した記憶が蓄積されているだけ。都度、相手の河を見ながら状況を判断しつつ、適切な牌を切るのが正解よ」
「河って?」
「貴女がさっきから牌を捨てている場所のこと。・……絶対に捨てられない牌を待つほど、間抜けな行為はないわ」
「そっか。じゃあオレのこの牌はどうなんだろうね」
百爪はそう言って、また意味ありげに牌を捨てた。
壱萬。
私のアガり牌だ。
紅月の時みたいに普通にロンと言えばいいのだろうか。
私はちらりと横目で彼女を見ると、ゆっくり頷いてくれた。
「――ロン」
私が牌を倒していくと、紅月がすかさず言う。
「リーチのみ。親だから2000点ね」
「に、にせ……なんか低くない?」
二人が見せたものと比べて、あからさまに低い点数。
私としてはもうちょっとあるのかなと思っていたけど――
「アガればいいのよ」
「アガればいいんだよ」
「……そこはカブるんだ」
やっぱり麻雀ってよくわからない。
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