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王妃様とお茶会

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 その日、私は王妃様に呼ばれた。

「よく来たわ。入って」

 案内されて入った部屋は王妃様のプライベートルームだった。

「貴女とは一度ゆっくり話したいと思っていたのよ。座って」

 そこには既に1人座っていて、よくよく見ればその人はバネッサ様だった。

「バネッサ様?」
「いらっしゃい。私は元々王妃様の侍女兼諜報部員だったのよ」
「そんな話を私になんてして良いのですか?」
「カゲロウ隊長がついているんだから、秘密にもならないわ!!」

 私は笑顔を作ると言った。

「カゲロウさんは勝手に情報を流すような信頼できない人物じゃありませんよ」
「隊長がつかえたくなる気持ちが良く解るわ」

 バネッサ様は苦笑いを浮かべた。

「本当にカーディナルは大人な考え方が出来て凄いわね!あそこでいじけてるアホ王子にも見習って欲しいわ!」

 見れば部屋の隅っこで王子が膝を抱えていた。
あいつどうした?

「貴女のお兄様に無視されて凹んでるのよ」

 お兄様はシスコン入ってるから、婚約式のあの態度にキレているんだろうな。

「お前のせいだ」
「いやいや、全部王子様のせいです」
「お前のせいでバーテミックには睨まれるし、母上にはアホ呼ばわりされるんだぞ!」
「お兄様の事は別として、アホ王子にアホ呼ばわりしてごめんなさい」

 無茶苦茶睨まれたよ。
 アホ王子は突然立ち上がると私に近寄ってきた。
 なんだやるか?

「これ………」

 アホ王子は小さな手を開いて私につきだした。
 その手の中には真っ赤なバラのバレッタが乗っていた。
 なかなか可愛い。

「お前の髪の毛じゃ目立たないけど……やる」
「………」
「バーテミックと髪の毛の色が違うと思ってなかったんだ。我慢しろ」

 私はツインテールにそのバレッタをつけてみた。

「どうでしょう?」
「………うん………思ったよりは似合ってるな」

 ああ、そうか!
 こいつ、お兄様と同じ髪色の女の子が来ると思ってバレッタを買ったんだ。
 そしたら、バレッタが全然目立たない髪色の私が来たからムカついてあんなことを言ったんだ。
 ツンデレかお前!

「あの、お兄様の所に私と一緒に謝りに行きませんか?」
「はぁ?俺は王子だぞ」
「悪いことをしたら謝る。うちではそれが当たり前です」
「………」
「うちの弟にも出来ることが貴方には出来ないのですか?」
「………」
「私も一緒に謝ってあげますから行きましょう」
「………解った」

 私と王子は一緒にお兄様が居ると思われる王宮図書館に向かった。


「ごめん」

 王子がお兄様に言いました。
 私は王子の頭を掴むと下げさせた。

「お前!」
「ごめん、じゃなくてごめんなさいでしょ?」
「………ごめんなさい」

 王子が頭を下げたからかなのか、お兄様は笑ってくれた。

「ごめんはカーディナルに言わないと駄目だろ?」
「それは………」
「大丈夫です。王子は私にプレゼントまでしてくれたのですよ!私、赤いバラが好きなのでとても嬉しかったんです。見てください!」

 私はお兄様に見えるように近寄った。

「ああ、可愛いね。カーディの髪の毛とよく似た色だね」
「はい!だから王子様、ありがとうございます」
「………カーディナル、ごめんなさい」

 王子が私に頭を下げてくれた。
 うん!王子はアホだが、ちゃんとかわれるアホだったようだ!
 おばちゃん、血統書付きのペルシャ猫がなついたような気持ちになったよ~!

「謝ってくださってありがとうございます」

 私は嬉しくて笑顔を作った。
 何故かお兄様にギュッと抱き締められました。

「ああ、カーナは可愛い。そんなに可愛い顔、外でしないでよ」
「ど、どんな顔でしょう?……苦しいですお兄様」

 私がそう言うとお兄様は手を離してくれた。

「カーナは今日なにしに王宮に来たんだい?」
「王妃様にお茶に呼ばれて………いけない、王子に気をとられている場合じゃなかった!」
「僕が王妃様に一緒に謝ってあげるね」
「ありがとうございますお兄様!」

 お兄様は私の手を握ると歩きだした。





 王妃様のお部屋に戻ると、そこにはブラウド様も一緒にお茶を飲んでいる最中だった。

「お帰りなさいカーディナルちゃん。ブラウドも一緒に良いかしら?」
「勿論です。あの、勝手に席をはずしてしまってすみませんでした」
「大丈夫よ。さあ、お茶会の続きをしましょ?バーテミックもこちらに」
「はい。王妃様」

 私達が席につくと何かを忘れている気がして振り返った。
 そう言えば王子が居ない。
 私はまた席から立つと言った。

「王子様が居ないので探してきてもよろしいですか?」

 それに答えたのはブラウド様だった。

「ジェイスは自分の事が苦手なので隠れてしまったのでしょう」

 あいつ、説教だ。
 私は皆様に頭を下げて王子を探しに部屋を出た。
 王子はドアの前に立っていた。

「何をなさってるの?」
「何って………叔父上が居るし………叔父上は呪われてるし………」

 私は王子のわき腹に蹴りを入れた。
 驚いた顔の王子に私は言った。

「呪いなんかじゃないわ!遺伝よ!ただの遺伝!!ブラウド様のお母様が黒髪黒目なんだから不思議でも何でもないでしょ?馬鹿なの?アホの上に馬鹿なの?そんな事で国王なんかになれるわけないでしょ!ブラウド様はそんな馬鹿みたいな話のせいで嫌な思いをしてるのよ!!それなのに国のために薬学で名を上げている立派な人だわ!それなのに血が繋がってる貴方がブラウド様の本質を見ないでどうするの?私からしたら周りに流されてる貴方の頭の方が呪われてるわ!」

 私、今なら小一時間ぐらい説教出来ます。

「バネッサ様には呪いとか言わないでしょ?」
「………うん」
「なら、貴方が苦手に思う必要は無い。でしょ?」
「……うん」
「じゃあ、ブラウド様にもごめんなさいが出来る?」
「………手を繋いでてくれるか?」

 このツンデレ………

「仕方ないですね。手を出しなさい」
「………」

 ツンデレ王子が私に手を差し出した。
 私はそれをゆっくり握るとブラウド様のもとへ向かった。




「叔父上、ごめんなさい」
「……ジェイスはもう自分の事は大丈夫なのですか?」
「………カーディナルが怖い人じゃないと教えてくれたから………」

 ツンデレ王子は何やらモジモジしながらブラウド様と話をしている。
 その間、私はツンデレ王子の手を握っていた。
 お兄様の方から殺気が飛んできます。
 痛いので止めてほしいです。
 王妃様からは生温かい視線を感じます。

「カーディナル」
「はい王子?」
「俺はお前が気に入った。婚約しよう!」
「嫌です」
「………」
「私はまだ、貴方の事をアホ王子だと思っているので願い下げですわ」
「………バーテミック、妹にどんな教育をしている?」

 笑いを堪えていたお兄様が爽やかな笑顔を作って言った。

「人として常識のあるように教育をうけているよ」

 私とお兄様はニコニコと笑いあった。
 その日のお茶会は少しだけ王子の事が解るお茶会だった気がした。
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