勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全

文字の大きさ
29 / 36
第一章

第25話:勇者ガブリエルたちは⑥

しおりを挟む
 聖歴1216年2月19日:ルイーズ視点

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、わたくしこそが勇者にふさわしいのよ。
 召喚聖者ルイーズの生まれ変わりであるわたくしこそ勇者なのよ」

 そもそも、あの品のないガブリエルが勇者名乗っていた事がおかしいのよ
 最初から召喚聖者の生まれ変わりであるわたくしが勇者でよかったのよ。
 スキルや称号が勇者であろうと、品のない者に勇者など務まらないのよ。
 密かに殺してしまえば、スキルや称号が勇者だった事など誰にも分からないのに、お父様も度胸がないのだから、こまったものね。

「なに逃げているのよ、臆病者。
 盾役に選ばれたのなら、死んでも盾になりなさい。
 心配しなくても、死んでも勇者であるわたくしに役に立ててさせてあげますわ」

 わたくしの信徒ならば、よろこんで盾になって死になさいよ、役に立たないわね。
 生きているよりも、死んだ方が使い勝手がいいのよ、それくらい分かりなさい。
 今までは使う事を反対されていましたが、ようやく使う事を許された死霊術。
 死霊術さえ自由に使えるなら、わたくしは無敵なのよ。
 人間だけでなく、モンスターすらあやつる事ができるのよ。

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、蘇りなさい、モンスターども
 しかたないわね、信徒も蘇る事を許してあげますわ。
 さあ、わたくしの手足となってダンジョンを制覇しなさい」

「ギャアアアアア」
「ゆるしてください、もうゆるしてください」
「死にたくない、死にたくない、助けてください」
「邪神だ、お前なんか勇者じゃない、お前こそ邪神だ」

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、本当に愚かな事。
 邪神を斃すためには手段を選んでおられませんのよ、おわかりになって。 
 それに、高貴な者の為に卑しい身分の者が死ぬのは当然の事なのよ。
 さあ、さっさと死んでわたくしの死霊になりなさい」

「おお、なんと神々しい技でしょう、貴女こそ本当の勇者です」

 わたくしに気付かれることなく近づくなんて、油断なりませんわ。
 あら、なんて男前なんでしょう。
 教団にいる醜い男たちとはまったく違いますわ。

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、少しは見る眼があるようね。
 何なら貴男もわたくしの役に立つように死霊にして差し上げましょうか?」

 歳をとると醜くなるから、美しいまま死霊にしてしまおうかしら?

「ありがたきお言葉ではございますが、わたくしごときが本当の勇者である貴女様の死霊になるのは、あまりにも畏れ多い事でございます。
 そんな事よりも、もっと貴女様の役に立てることがございます」

 男前なだけでなく、とても上品だわ。
 醜く下品なガブリエルとは大違いね。
 ちょっとくらい話を聞いて差し上げてもいいわね。

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、そこまで言うのなら話しを聞いてあげましょう。
 本当の勇者であるわたくしの役に立てる方法とは何なのです」

「実は、このダンジョンの奥深くに属性竜の死体があるのです。
 その死体を支配下に置く事ができれば、貴女様は無敵でございます。
 偽者の勇者であるガブリエルも、真の勇者だと言い張るエドゥアルも、魔術師教会が勇者だと言っているクロエも敵ではありません」

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、よく教えてくれました、ほめてあげます。
 名前を聞いてあげますから、光栄に思いなさい」

「名前を聞いていただき光栄でございます。
 私は冒険商人のナザニエルと申します、お見知りおきください」

 あら、ちょっとほめただけで図に乗って来ましたわね。
 これからの事もありますから、躾けておかなければなりません。

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、この程度の情報で思い上がるのではないわ。
 わたくしに覚えておいてほしければ、もっと役に立つのよ」

「では、属性竜の死体を支配下に置くための死霊呪文を教えて差し上げましょう。
 ただ、この呪文には大きな制限があるのです。
 1000人の人間を生贄に捧げなければいけないのです。
 それも、心から召喚聖者を敬っている者たちです。
 勇者や召喚聖者の生まれ変わりを敬っている信徒ではダメなのです」

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、簡単な事だわ。
 ルイーズ教団と敵対する教団の信徒を集めればいいだけよ。
 わたくしの事を非難するようなモノに生きている権利はないわ」

「素晴らしい決断でございます。
 召喚聖者の生まれ変わりであり本当の勇者でもあるルイーズ様。
 心から尊敬し、支援させていただきます」

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、そこまで言うのなら、貴男の支援を受けて差し上げてもいいけれど、何を支援すると言うのかしら」

「この巨大な漆黒の魔宝石を貴女様に捧げさせていただきます。
 この漆黒の魔宝石に蓄えられた魔力ならば、今まで以上に死霊術の効果が高くなり、多くの死霊を操る事ができます。
 1000の死霊とアンデッドドラゴンを同時に操る事ができるでしょう」

「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、もしそれが本当の事なら、名前を覚えるだけでなく、ほめて差し上げるわ」

「では、おほめ頂く時を心待ちにさせていただきます」

 聖歴1216年2月19日:クロエ視点

「キィイイイイ、なにをグズグズしているの、それでも高位魔術師なの。
 下級モンスターに過ぎないコボルトやスケルトンくらいさっさと斃しなさい。
 そんな事で魔術師が支配者の国を作れると思っているの。
 偽者の勇者に過ぎないガブリエルが馬上槍試合に登録したと言うのよ。
 もしかしたら王家がガブリエルと手を組んだのかもしれないのよ」

 はやく、できるだけ早くこのダンジョンを制覇しないといけないわ。
 ルイーズの後ろ盾になっている教団が人間狩りを始めたと聞いたわ。
 この前は300人生贄で失敗したから、今度はもっと多く集める気なのよ。
 ルイーズが先にマンドリエ・シュル・メール・ダンジョンを制覇してしまったら、私たちは滅ぼされてしまうかもしれないのよ。

「キィイイイイ、どうしてもっと盾役になる奴隷を集めてこなかったのよ」

「そんな事を言われましても、協会の資金ももう底をついておりまして……」

「キィイイイイ、魔術師ならお金くらい魔術を使って稼ぎなさいよ。
 もっとたくさんの強力な魔力回復薬があれば、ニースダンジョンなんて私の魔術で簡単に制覇できたのよ。
 全部お前たちが悪いのよ、私の魔術が未熟だからじゃないわ」

「その通りでございますとも、全部お付きの魔術師が未熟なせいです。
 クロエ様のような才能と美しさに恵まれた美少女魔術師が悪いわけがありません」

 だれ、いつの間に、私に近寄ってきたの?
 あれ、なんていい男なの。
 それも、私の事を美少女魔術師とほめたたえるなんて、わかっているじゃない。
 魔術師たちも、もっと私をほめたたえるべきなのよ。

「そうよ、そうよ、その通りよ。
 みんなお前たちが悪いのよ、私が未熟だからではないわ」

「ただ、お付きの魔術師の方々も、一生懸命クロエ様の力になろうと頑張られておられますから、道具が悪いせいかもしれません」

「キィイイイイ、道具、魔道具が悪かったのね。
 お前たちが資金をケチるからロクな魔道具がないのよ。
 全部お前たちが悪いのよ、私が未熟だからではないわ」

「才能と美しさに恵まれた美少女魔術師のクロエ様。
 恐れ多い事ではございますが、私にクロエ様を支援させてもらえませんか」

「……しえん、なんの見返りもなく私を支援すると言うの?!」

「いえ、いえ、私も冒険商人でございます。
 なんの見返りもなく支援するわけにはいきません」

「そうね、それでこそ信用できるわ。
 何を見返りに支援してくれると言うの」

「クロエ様がこの国の支配者となられたあかつきには、私をクロエ様の御用商人として頂きたいのです」

「……そうね、支援してくれるモノによっては考えてもいいわ」

「では、これをご覧ください、クロエ様」

「何の変哲もない、どこにでもある魔術杖じゃない。
 キィイイイイ、私の事をバカにしていたのね。
 殺してやる、火炎魔術で骨まで焼き尽くしてやる!」

「どうか落ち着いてください、才能と美しさに恵まれた美少女魔術師のクロエ様。
 この杖の先についている漆黒の魔宝石をご覧ください。
 この中には、邪神の使徒すら焼滅ぼす地獄の業火が蓄えられているのです」

「キィイイイイ、私の事をバカにしているの? バカにしているわね!
 炎の魔宝石は赤に決まっているじゃない、だまされないわよ!」

「才能と美しさに恵まれた美少女魔術師のクロエ様、お落ち着いてください。
 確かに一般的な炎の魔宝石は赤いです。
 ですが、炎の力が強くなるにしたがって青くなるのです。
 そして青が行きつくと、白くなるのです。
 この世界で創り出せる最も強い炎は白なのだと、火炎魔術が得意だった召喚聖者が書き残した書に記されているのです」

「キィイイイイ、だったら白い魔宝石が付いた魔術杖を寄こしなさいよ」

「もう少し話を聞いてください、才能と美しさに恵まれた美少女魔術師のクロエ様。
 炎の魔力の限界が白なのはこの世界の話です。
 邪神を滅ぼすために異世界で創られた魔宝石は黒いのです。
 もし私の話が信じられないのであれば、モンスターを相手に試せばいいのです。
 お付きの魔術師たち全員に黒の魔術杖を持たせれば、このニースダンジョンなど簡単に制覇できますよ。
 そうなれば、才能と美しさに恵まれた美少女魔術師のクロエ様が、ルイーズを押しのけて、召喚聖者たちのようにほめたたえられますよ」
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...