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十五話 興味と行動力
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教会の裏手、街の中心からは少し離れ、静かな場所がある。
ただし普通の人々は滅多に近寄らず、この場所を利用するのは浮浪児か獣人の子供が多い。
時折、神隠しがあるとの噂もあり、街の大人たちは『近寄ってはならない場所』だと教えていたのだ。
ミスラがそういった事情を知らないはずがない。
知っていたからこそ選んだ場所であり、ここならば誰が何をしても、そう問題になることは無いと考えたのだ。
そして当然、そんな場所でカリンの配信する映像を見る者など、誰もいやしなかった。
……たった一人の少女を除いて。
「な……なんなのよ、これ」
映し出されるカリンという名の獣人を見て、少女は驚く。
歳は14、ジョブを授かるにはまだ早く、身寄りのない彼女には日々教会の前に置かれるパンを一切れと野草を食べて生きるしかなかった。
少なくともあと数十日、こうして生きながらえることができたなら、彼女自身もジョブを授かって仕事ができるようになるかもしれないのだ。
そのための最低限の盗み、教会で従事する子供たちへのわずかな差し入れを奪っていく行為。
街のスラム街に棲む浮浪児の方が、まだマシな行動をとっているだろう。
買い物客に近寄って荷物運びを申し出たり、草むしりなんかで食料を恵んでもらう。
だが、獣人という枷が彼女をそうはできなくしていたのだ。
いい仕事は他の者が優先して持って行ってしまうから。
神隠しのある街のアンダーグラウンド。
ぼろ布に身を包んだこげ茶の丸い耳を持つラクーの少女。
身は泥で汚れ、種族特有のふわふわとした大きな尻尾は、つやもなくガサガサと荒れ放題である。
「睡眠薬で魔物を眠らせるなんて……」
これこそカリンの放送、第3回目にして訪れた、初めての視聴者の存在であった。
映像の向こうでは湖が広がり、時折剣を振るう男の姿も見えていたりする。
人が獣人と共にいることも珍しいのだが、それ以上にこの映像がどうやって映し出されているのか……
小一時間、夢中になりすぎて少女はうっかりしていた。
「おいっ、いつもパンをくすねていくのはお前だなっ!」
教会の子供たちが禊の時間を終えて掃除のために外に出てきたのだ。
いつもならすぐに隠れるのだが、今日はしっかりと姿を見られてしまっていた。
迂闊だった。こんなところに変な映像を映しだすからだ。
内心、ちょっとだけ怒りを感じながらも、少女は雑草の生えた木々の間を駆けていくのだった。
そんな動画配信を終えたミスラとカリンだが、実は再び街へと向かおうとしていた。
「せっかくだから、大きな毛布とか欲しいよね」
カリンはニコニコと笑いながら言う。
しばらくは街に行くつもりなどなかったのだが、どうやら配信動画の反応も気になるようで、手始めにと撮っていた『睡眠薬を使った魔物対策』の影響を知りたいようなのだ。
多分見ている人など誰もいないだろうから、突然睡眠薬がバカ売れし始めた、なんてことは無いと思うのだが。
俺がクリエイトしたカード化アイテムは販売できないが、素材である植物ならば大量に採取してある。
もしも街で睡眠薬需要が増えていれば、この植物だって高く買い取ってくれるかもしれないからと。
俺たちは軽装のまま、散歩のつもりで街まで歩いて行ったのだ。
森の中には相変わらずゴブリンがいて、それと戦う冒険者たちがいる。
あれ以来タックスたちの姿は見ないし、冒険者を引退でもしたのだろうか?
そして、俺みたいな遊び人や、カリンのような獣人がいなければ、あんな酷いパーティーは見ることがない。
どのパーティーも真剣に討伐に向かい、連携を取って怪我をすれば癒し合う。
そんな冒険者たちの姿も見れて、街に着くと少しだけ気分が落ち着いた俺だったが、カリンは不満があるようだった。
「なんで全く影響がないのよぉ……少しくらい話題になったっていいじゃないの」
「そんなこと言っても、まだ3日だけだろ?
こういうのは継続が大事だって言うからな。もう少し時間が経ってから様子を見に来ようぜ」
睡眠薬を作る素材は、普段よりも買いたたかれてしまったのだ。
そりゃあ一度に100本も200本も作れる量を持ってきては、供給量過多になって相場が落ちるのは当然だろう。
持って帰るのも手間なので、仕方なく売却して出来上がりの品を数本と引き換えた。
カード化されていなければカリンにも使えると、護身用に買っておいた数本だ。
教会裏の様子を見て、特に変化も無いことを確認すると、あとは毛布だけ見繕って湖に帰るだけである。
「うーん……冒険者といえば攻略動画だと思ったんだけど。
やっぱり主婦層とか子供をターゲットにした方がいいのかなぁ?」
ぶつぶつと考えながらカリンは歩く。
「お料理チャンネル、いや……異世界といったらマヨネーズか。
そういえばお酢みたいな調味料も売ってたし、作れるのかな?
……泡だて器もないのに、面倒くさそうだなぁ……」
面倒くさいと言う者が、動画を撮って配信しようなどとは思わないのではないか?
俺は隣で聞いていながら心の中でツッコミをいれていたのだった。
ただし普通の人々は滅多に近寄らず、この場所を利用するのは浮浪児か獣人の子供が多い。
時折、神隠しがあるとの噂もあり、街の大人たちは『近寄ってはならない場所』だと教えていたのだ。
ミスラがそういった事情を知らないはずがない。
知っていたからこそ選んだ場所であり、ここならば誰が何をしても、そう問題になることは無いと考えたのだ。
そして当然、そんな場所でカリンの配信する映像を見る者など、誰もいやしなかった。
……たった一人の少女を除いて。
「な……なんなのよ、これ」
映し出されるカリンという名の獣人を見て、少女は驚く。
歳は14、ジョブを授かるにはまだ早く、身寄りのない彼女には日々教会の前に置かれるパンを一切れと野草を食べて生きるしかなかった。
少なくともあと数十日、こうして生きながらえることができたなら、彼女自身もジョブを授かって仕事ができるようになるかもしれないのだ。
そのための最低限の盗み、教会で従事する子供たちへのわずかな差し入れを奪っていく行為。
街のスラム街に棲む浮浪児の方が、まだマシな行動をとっているだろう。
買い物客に近寄って荷物運びを申し出たり、草むしりなんかで食料を恵んでもらう。
だが、獣人という枷が彼女をそうはできなくしていたのだ。
いい仕事は他の者が優先して持って行ってしまうから。
神隠しのある街のアンダーグラウンド。
ぼろ布に身を包んだこげ茶の丸い耳を持つラクーの少女。
身は泥で汚れ、種族特有のふわふわとした大きな尻尾は、つやもなくガサガサと荒れ放題である。
「睡眠薬で魔物を眠らせるなんて……」
これこそカリンの放送、第3回目にして訪れた、初めての視聴者の存在であった。
映像の向こうでは湖が広がり、時折剣を振るう男の姿も見えていたりする。
人が獣人と共にいることも珍しいのだが、それ以上にこの映像がどうやって映し出されているのか……
小一時間、夢中になりすぎて少女はうっかりしていた。
「おいっ、いつもパンをくすねていくのはお前だなっ!」
教会の子供たちが禊の時間を終えて掃除のために外に出てきたのだ。
いつもならすぐに隠れるのだが、今日はしっかりと姿を見られてしまっていた。
迂闊だった。こんなところに変な映像を映しだすからだ。
内心、ちょっとだけ怒りを感じながらも、少女は雑草の生えた木々の間を駆けていくのだった。
そんな動画配信を終えたミスラとカリンだが、実は再び街へと向かおうとしていた。
「せっかくだから、大きな毛布とか欲しいよね」
カリンはニコニコと笑いながら言う。
しばらくは街に行くつもりなどなかったのだが、どうやら配信動画の反応も気になるようで、手始めにと撮っていた『睡眠薬を使った魔物対策』の影響を知りたいようなのだ。
多分見ている人など誰もいないだろうから、突然睡眠薬がバカ売れし始めた、なんてことは無いと思うのだが。
俺がクリエイトしたカード化アイテムは販売できないが、素材である植物ならば大量に採取してある。
もしも街で睡眠薬需要が増えていれば、この植物だって高く買い取ってくれるかもしれないからと。
俺たちは軽装のまま、散歩のつもりで街まで歩いて行ったのだ。
森の中には相変わらずゴブリンがいて、それと戦う冒険者たちがいる。
あれ以来タックスたちの姿は見ないし、冒険者を引退でもしたのだろうか?
そして、俺みたいな遊び人や、カリンのような獣人がいなければ、あんな酷いパーティーは見ることがない。
どのパーティーも真剣に討伐に向かい、連携を取って怪我をすれば癒し合う。
そんな冒険者たちの姿も見れて、街に着くと少しだけ気分が落ち着いた俺だったが、カリンは不満があるようだった。
「なんで全く影響がないのよぉ……少しくらい話題になったっていいじゃないの」
「そんなこと言っても、まだ3日だけだろ?
こういうのは継続が大事だって言うからな。もう少し時間が経ってから様子を見に来ようぜ」
睡眠薬を作る素材は、普段よりも買いたたかれてしまったのだ。
そりゃあ一度に100本も200本も作れる量を持ってきては、供給量過多になって相場が落ちるのは当然だろう。
持って帰るのも手間なので、仕方なく売却して出来上がりの品を数本と引き換えた。
カード化されていなければカリンにも使えると、護身用に買っておいた数本だ。
教会裏の様子を見て、特に変化も無いことを確認すると、あとは毛布だけ見繕って湖に帰るだけである。
「うーん……冒険者といえば攻略動画だと思ったんだけど。
やっぱり主婦層とか子供をターゲットにした方がいいのかなぁ?」
ぶつぶつと考えながらカリンは歩く。
「お料理チャンネル、いや……異世界といったらマヨネーズか。
そういえばお酢みたいな調味料も売ってたし、作れるのかな?
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