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肩を並べて戦う者達
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ワイルドハント司令部にあるゲートルームには、ソルグランド専用のゲートが用意されている。メルヘンなドアというデザインがゲートのスタンダードだが、ソルグランド用のものは出自の関係から、高さ三メートルほどの石造りの鳥居となっている。
鳥居自体は円柱を組み合わせた至ってシンプルなデザインだ。鳥居の向こう側の空間は白い霧に包まれており、鳥居をくぐることで接続した空間へと跳躍できる造りである。
ゲートルームにはコクウもとい夜羽音の姿があった。別の惑星へと連れ去られたソルグランドとの接続を維持するべく、この場での待機をバルクラフトに願い出て、許可を得たのである。
他にも世界各地と繋がるゲートがあるのだが、夜羽音はいくつかのゲートの向こうから異なる体系の神々の気配を感じていた。魂のないマジカルドール達に乗り移ったのか、あるいはフェアリヘイムに居た波長の合う人間に力を貸し与えたのか……
「我々の言えた義理ではありませんが、皆さん、色々と手を出し始めておりますね。方針の違いで我々が争うような羽目にならなければよいのですが」
人間に対する干渉のスタンスの違いにより、神々が争うような事態に陥るのだけは避けなければなるまい。なまじ魔物との戦いに余裕が見え始めた影響で、余計な争いが起きるなど愚かにもほどがある。
もっとも、夜羽音にそこまで日本神話群の動向に口を出せる権限はない。彼はソルグランドひいてはヒノカミヒメ専属の導き手であり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
なにより今は窮地に陥ったソルグランドを、真上大我を助ける事こそが重要であるのに違いはない。こうしている間にも地球とあちらの星との接続を断つべく、何ものかが干渉してくるのを、夜羽音は弾き続けていた。
管制室に詰めているリリベル達も同じように、不安定になるソルグランドとのリンクを維持するべく、瞬きすら惜しんで必死に作業をしている。
魔物側の黒幕と間接的な対決を行っている、そう表現してよいだろう。少なくともこうした形での攻防が成り立つ相手だと分かったのも、副産物的な成果だ。
傍目には鳥居の前で立っているだけに見える夜羽音が、ゲートの一つが稼働してその向こうから姿を見せた魔法少女へ烏なりに笑みを浮かべて歓迎の意を述べる。
彼自身が戦えないことはないが、やはり専門家で無い以上、魔法少女の助けこそソルグランドには必要であるから。
「お待ちしておりました。やはりソルグランドさんを最初に助けるのは、貴女でしたか。おや、貴女達も? これは嬉しい誤算です」
一方のソルグランドは山脈の麓に広がる枯れ果てた森林地帯の中で、魔物達を相手に死闘を継続中であった。移動速度と攻撃方法の違いから、残る魔物の全てが一斉に襲い掛かってきているわけではない。
自立型神器として破断の鏡と破殺禍仁勾玉がソルグランドから離れて、少しでも魔物の数を減らし、行動を阻害するべく全力で稼働している。この二つの神器だけでも国家トップランカーの戦闘力に匹敵する活躍ぶりだ。
「忌むべき苦しみを持って誅せん! 忌苦弓矢!」
自分を目掛けて殺到する光の砲弾や炎の津波を避けながら、ソルグランドは毎分一千発超の速度で矢を放ち続ける。
かつて上空七千メートルに出現した五十メートル級の魔物を一撃で消滅させた矢は、狙い定めた敵を目掛けて空中で自在に軌道を曲げ、発射された七百六十本で六百九十二体の魔物の討伐に成功する。
安易に高度を取れば狙い撃ちにされると判断し、低空を滑るように移動しながら魔物への攻撃を継続するソルグランドは眼下の大地の震えに気付いた。地震? いや、地中から巨大な物体が高速で上昇してきている!
弓につがえた矢の向きを真下の地面に向けた時、直径三百メートルに達する巨大なミミズのような魔物が飛び出してきた。
先端の口を大きく開いて、ソルグランドを丸のみにしようとしている。口の中だけでなく体内にまでびっしりと牙が生えて、強力な溶解液が体内の粘膜から滲みだしている。
かつてゴビ砂漠に出現して討伐まで数か月を要した準特級魔物イレイザーワームだ。
「巨大ミミズかい!」
咄嗟に放った忌苦弓矢がイレイザーワームの口内に吸い込まれてゆき、あっという間に全長キロメートルの身体を貫く──はずだった。ソルグランドの瞳はイレイザーワームの体内に広がる異常に気付くが、その時には既にばくりと飲み込まれている。
「体内にワームホールを持っているんだったな。飲み込まれたが最後、牙でズタズタにされる、溶解液で溶かされる、あるいはどことも知れない空間に飛ばされる、この三つの末路が待っているって話なのを思い出したわ」
無数の牙と溶解液が迫る中、ソルグランドは冷静に対処法を検討する。かつてイレイザーワームと相対した魔法少女達は遠距離からの絨毯爆撃と飽和砲撃で片づけたが、この状況ではそれが出来ない。
迫りくる無数の牙と降り注いでくる溶解液、そしてイレイザーワームの奥底に感じられる空間の歪み。飛ばされた先の空間で起死回生の一手に恵まれる、というのがよくあるパターンだが、これからも戦いが続く以上、そんな賭けに出るわけにもゆかない。
「こういう時ゃ、中からぶっ壊すのが定番だろ。神韻縹渺の調べに魔性去るべし! 悪滅勅琴」
ソルグランドの手に握られた神器たる琴から奏でられた調べは、イレイザーワームを構成するプラーナ間の接続に干渉し、牙も溶解液も分解して見る間に巨体にも干渉し始める。
そうして音を浴びたイレイザーワームの巨体が最小単位まで分解され、ソルグランドは更に悪滅勅琴を高らかに爪弾く。
イレイザーワームの巨体が消滅する直前から、その周囲を固めていた魔物達からの攻撃が殺到していた。魔物側は既に味方ごとまとめて攻撃するのを厭わなくなっている。
それを予期したからこそ、ソルグランドは悪滅勅琴による悪鬼滅殺の演奏を継続し、迫る攻撃と魔物をまとめて消し飛ばす。
次々と生き残りの魔物達が消し飛んで行く中、風船に手足が生えたような魔物達がラッパを思わせる口から巨大な音を発し、悪滅勅琴の音と正面衝突して相殺し合う。
ソルグランドの多種多様な攻撃に対し、魔物もまた多くの種類が居ることで、お互いの打つ手を潰し合う戦いの連続だ。
「天覇魔鬼力、闘津禍剣!」
琴から剣へと持ち替えて、正面から魔物を引き連れて突っ込んでくるディザスターと背後から迫ってくるフォビドゥンを一瞥した。
シェイプレスはまだ回復に努めているとして、スタッバーがどこかに姿を潜めて、必殺の一撃を加えるタイミングを狙っているに違いない。
見るからに刀剣や槍に斧、鞭にハンマーと近接戦に特化した魔物もいれば、ミリ単位の小型の群れが無数に集まっている魔物、霧や煙といった気体、泥や水のような液体型の魔物まで、無数にうごめいている。
「六割は倒したか……。魔物少女が俺のことを恐れなくなったんなら、エネルギー源にならねえし、片づけちまおう」
口で言うほど簡単には出来ないと分かっていたが、ソルグランドはなんでもないさ、という口調のまま言葉にした。言葉には力があり、良い結果も悪い結果も引き寄せてしまう。
ソルグランドの境遇を考えれば、言葉に宿る力──言霊を軽視出来るわけもない。いまや真上大我の肉体は女神のものであり、口にする言葉は真上大我と女神双方のものとなるのだから。
フォビドゥンの全身の口と尻尾の先端から発射される砲撃を皮切りに、牽制となる攻撃が放たれる中、ソルグランドは真っ先にディザスターを斬り伏せることに決めた。
今もってなお、ソルグランドへ最も大きなダメージを与えるのは、ディザスターの攻撃だ。拳を貰った右肩は鈍い痛みを発しており、その所為で右腕は本来のパフォーマンスを発揮できない。
乱戦の中でディザスターとスタッバーに隙を突かれて、致命傷を受けるのをソルグランドはなによりも危惧していた。
「かかって……」
こいやぁ!! と続けようとしたソルグランドの目の前で、ディザスターが上空から落下してきた人型の太陽に頭を上からぶん殴られて、地面に巨大なクレーターを作った。
同時にディザスターをぶん殴った人物から放射される膨大な熱量によって、周囲の木々は魔物ごと纏めて燃え上がり、大地は煮え立つマグマと化す。
ソルグランドを背後から狙い撃っていたフォビドゥンは、目の前に突如として出現した鳥居から飛び出してきた魔法少女が大太刀を振るうのと同時に、背後の魔物達とまとめて斬撃を受けた。
フォビドゥンこそ皮一枚を割かれる程度で済んだが、多くの魔物達は耐え切れずに血液代わりのプラーナを噴き出しながら、地面に倒れ伏してゆく。
ソルグランドを前後から襲っていた魔物達が一瞬でその数を減らした直後、遠巻きに囲んで逃亡を防ぎ、援護射撃をいつでも行えるように魔物達へも次々と新たな攻撃が加えられる。
それは無数のミサイルと銃弾、それに砲弾と鼓膜どころから全身を吹き飛ばすような爆音と雷、そして海水による水流と大渦だった。大熱量と斬撃に比べれば数段威力が劣るようで、倒せた魔物の数は少ないが、敵の気勢を削ぐのには十分だ。
「ソルグランドさん、遅くなりました! ソルブレイズ、到着です!!」
より煌びやかな装飾を纏い、プラーナ量を爆発的に増大させたソルブレイズがソルグランドの前を守り、クレーターの底でなんとか体を起こすディザスターを睨みつける。
「ソルグランド様のザンアキュート、推参いたしました」
両手に握る大太刀だけでなく、周囲に抜き身の大太刀を浮かべているザンアキュートはソルグランドの玉体を傷つけ、汚したフォビドゥン達に殺意のみの視線を向けている。
共に日本式強化フォーム『天の羽衣』に適応し、新たに圧倒的な戦闘能力を獲得した両者が、真っ先にソルグランドの救援に駆けつけたのである。
夜羽音にとってはこの二人が来る可能性が最も高い、と推測しており、まさにその通りだったのだが、一つだけ違うのはソルブレイズとザンアキュートだけでなく、強化アイテムを装備した三人の魔法少女達も、ほとんど時を同じくして姿を見せたことだった。
「これちょっと俺らは場違いじゃね? 恩返しの為にやってきたけど、すっげえ足手まといになりそーだぜ」
背中にプラーナバッテリーと推進器を内蔵した大型のバックパックと長方形のミサイルポッド二基、プラーナキャノン二門を追加装備したスカイガンナーは、実際の戦場についてから少し怖気づいてしまったらしい。
メインウェポンである重機関銃マーヴェリックの威力は上がり、彼女自身のプラーナを材料とする各種弾薬の火力もかなり増しているのだが、まだまだ力が足りていないと実感しているようだ。
「ここまで来ておいて何を今さーら。一級以上しかいないけど、邪魔くらいなら出来る出来る」
青森でソルグランドに助けられた魔法少女クリプティッドエヌは、周囲に猿や虎、狸、蛇の顔を模した可愛らしいスピーカーを浮かべ、増幅した咆哮で迫りくる魔物を牽制し、それなりのダメージを与えている。
かつて二十四時間に一度しか使えなかった『ミステリアス・ロア』は、彼女自身の成長と強化アイテムであるスピーカーのお陰で、威力を強化しつつ連射可能になっていた。
「ここまで来たんならやるっきゃないよね。スカイガンナーちゃんの気持ちも分かるけど、弱気になった方が危ない目に遭いそーじゃん。だから、強気でいっとこーよ」
そして都合五人目の助っ人は徳島を中心に活躍中のアワバリィプールだ。かつてソルグランドにラーメンを奢った魔法少女である。コミカルな衣装に大きな変化はないが、縁がギザギザになっている円盤──なるとの上に立っている。
彼女の操る渦潮はその規模と速度、精度を上げていて、今もアワバリィプールの手の動きに合わせてそれなりの数の魔物を翻弄している。
この三人は元々、中堅から下位にランキングされる実力で、強化アイテムを入手してもランカーには及ばない戦力だが、とにもかくにもソルグランドの負担を減らすことを優先され、援軍として認められてこの場にいる。
なによりソルグランドに友愛や親愛、尊敬となどの感情を向ける存在が同じ戦場にいれば、その分だけソルグランドへ流れ込む力は大きくなる。ソルグランドの消耗を少しでも早く回復させる為でもあった。
魔物少女達は来るはずのない援軍、特に看過できないほど強大なプラーナを放つソルブレイズとザンアキュートの存在に、目に見えて動揺を示す。
動揺とはまた違った意味であるが、心を揺さぶられたのはソルグランドも同じだった。特にもっとも守りたいと願っている孫娘が助けに来たその姿には、情けなさと悔しさと同じくらいの喜びが混じり合い、自分でもどんな顔をすればいいのか分からなくなっている。
そんなソルグランドの隙を突くように、地中の隙間を通ってソルグランドの背後に飛び上がったスタッバーが後ろから首をかき斬ろうとし、稲妻の速さで振るわれた左肘に鳩尾を抉られてその場で崩れ落ちる。
「まいったね。俺もまだまだ頑張りが足りねえって気持ちと、背負った子供に教えられた気持ちの二つがあんな。でも、まあ、こうなったらもう俺達の勝ちで決まりだ。それとまずはお前さんで一体目。今度は誰も逃がさん」
崩れ落ちたスタッバーを振り返り、ソルグランドは左手をかざして淡々と呟く。
「太陽無き世界に光無し。禍岩戸」
両面両儀童子との戦いで用いた、広範囲内の光を完全に消し去る闇を齎す神業だが、それ加えて今回は闇を覆う巨大な岩も出現して即席の牢獄となった。
「内に籠った太陽神が自ら開ける以外、いかなる神でも開けられなかった岩戸だ。まがい物だが、魔物少女でも出られやしないだろう? すぐに他の姉妹もまとめて叩き込んでやるから、そこで大人しくしてな」
禍岩戸に背を向けて残る魔物少女と魔物達を見つめるソルグランドの顔には、勝利を確信した笑みがはっきりと浮かんでいた。
鳥居自体は円柱を組み合わせた至ってシンプルなデザインだ。鳥居の向こう側の空間は白い霧に包まれており、鳥居をくぐることで接続した空間へと跳躍できる造りである。
ゲートルームにはコクウもとい夜羽音の姿があった。別の惑星へと連れ去られたソルグランドとの接続を維持するべく、この場での待機をバルクラフトに願い出て、許可を得たのである。
他にも世界各地と繋がるゲートがあるのだが、夜羽音はいくつかのゲートの向こうから異なる体系の神々の気配を感じていた。魂のないマジカルドール達に乗り移ったのか、あるいはフェアリヘイムに居た波長の合う人間に力を貸し与えたのか……
「我々の言えた義理ではありませんが、皆さん、色々と手を出し始めておりますね。方針の違いで我々が争うような羽目にならなければよいのですが」
人間に対する干渉のスタンスの違いにより、神々が争うような事態に陥るのだけは避けなければなるまい。なまじ魔物との戦いに余裕が見え始めた影響で、余計な争いが起きるなど愚かにもほどがある。
もっとも、夜羽音にそこまで日本神話群の動向に口を出せる権限はない。彼はソルグランドひいてはヒノカミヒメ専属の導き手であり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
なにより今は窮地に陥ったソルグランドを、真上大我を助ける事こそが重要であるのに違いはない。こうしている間にも地球とあちらの星との接続を断つべく、何ものかが干渉してくるのを、夜羽音は弾き続けていた。
管制室に詰めているリリベル達も同じように、不安定になるソルグランドとのリンクを維持するべく、瞬きすら惜しんで必死に作業をしている。
魔物側の黒幕と間接的な対決を行っている、そう表現してよいだろう。少なくともこうした形での攻防が成り立つ相手だと分かったのも、副産物的な成果だ。
傍目には鳥居の前で立っているだけに見える夜羽音が、ゲートの一つが稼働してその向こうから姿を見せた魔法少女へ烏なりに笑みを浮かべて歓迎の意を述べる。
彼自身が戦えないことはないが、やはり専門家で無い以上、魔法少女の助けこそソルグランドには必要であるから。
「お待ちしておりました。やはりソルグランドさんを最初に助けるのは、貴女でしたか。おや、貴女達も? これは嬉しい誤算です」
一方のソルグランドは山脈の麓に広がる枯れ果てた森林地帯の中で、魔物達を相手に死闘を継続中であった。移動速度と攻撃方法の違いから、残る魔物の全てが一斉に襲い掛かってきているわけではない。
自立型神器として破断の鏡と破殺禍仁勾玉がソルグランドから離れて、少しでも魔物の数を減らし、行動を阻害するべく全力で稼働している。この二つの神器だけでも国家トップランカーの戦闘力に匹敵する活躍ぶりだ。
「忌むべき苦しみを持って誅せん! 忌苦弓矢!」
自分を目掛けて殺到する光の砲弾や炎の津波を避けながら、ソルグランドは毎分一千発超の速度で矢を放ち続ける。
かつて上空七千メートルに出現した五十メートル級の魔物を一撃で消滅させた矢は、狙い定めた敵を目掛けて空中で自在に軌道を曲げ、発射された七百六十本で六百九十二体の魔物の討伐に成功する。
安易に高度を取れば狙い撃ちにされると判断し、低空を滑るように移動しながら魔物への攻撃を継続するソルグランドは眼下の大地の震えに気付いた。地震? いや、地中から巨大な物体が高速で上昇してきている!
弓につがえた矢の向きを真下の地面に向けた時、直径三百メートルに達する巨大なミミズのような魔物が飛び出してきた。
先端の口を大きく開いて、ソルグランドを丸のみにしようとしている。口の中だけでなく体内にまでびっしりと牙が生えて、強力な溶解液が体内の粘膜から滲みだしている。
かつてゴビ砂漠に出現して討伐まで数か月を要した準特級魔物イレイザーワームだ。
「巨大ミミズかい!」
咄嗟に放った忌苦弓矢がイレイザーワームの口内に吸い込まれてゆき、あっという間に全長キロメートルの身体を貫く──はずだった。ソルグランドの瞳はイレイザーワームの体内に広がる異常に気付くが、その時には既にばくりと飲み込まれている。
「体内にワームホールを持っているんだったな。飲み込まれたが最後、牙でズタズタにされる、溶解液で溶かされる、あるいはどことも知れない空間に飛ばされる、この三つの末路が待っているって話なのを思い出したわ」
無数の牙と溶解液が迫る中、ソルグランドは冷静に対処法を検討する。かつてイレイザーワームと相対した魔法少女達は遠距離からの絨毯爆撃と飽和砲撃で片づけたが、この状況ではそれが出来ない。
迫りくる無数の牙と降り注いでくる溶解液、そしてイレイザーワームの奥底に感じられる空間の歪み。飛ばされた先の空間で起死回生の一手に恵まれる、というのがよくあるパターンだが、これからも戦いが続く以上、そんな賭けに出るわけにもゆかない。
「こういう時ゃ、中からぶっ壊すのが定番だろ。神韻縹渺の調べに魔性去るべし! 悪滅勅琴」
ソルグランドの手に握られた神器たる琴から奏でられた調べは、イレイザーワームを構成するプラーナ間の接続に干渉し、牙も溶解液も分解して見る間に巨体にも干渉し始める。
そうして音を浴びたイレイザーワームの巨体が最小単位まで分解され、ソルグランドは更に悪滅勅琴を高らかに爪弾く。
イレイザーワームの巨体が消滅する直前から、その周囲を固めていた魔物達からの攻撃が殺到していた。魔物側は既に味方ごとまとめて攻撃するのを厭わなくなっている。
それを予期したからこそ、ソルグランドは悪滅勅琴による悪鬼滅殺の演奏を継続し、迫る攻撃と魔物をまとめて消し飛ばす。
次々と生き残りの魔物達が消し飛んで行く中、風船に手足が生えたような魔物達がラッパを思わせる口から巨大な音を発し、悪滅勅琴の音と正面衝突して相殺し合う。
ソルグランドの多種多様な攻撃に対し、魔物もまた多くの種類が居ることで、お互いの打つ手を潰し合う戦いの連続だ。
「天覇魔鬼力、闘津禍剣!」
琴から剣へと持ち替えて、正面から魔物を引き連れて突っ込んでくるディザスターと背後から迫ってくるフォビドゥンを一瞥した。
シェイプレスはまだ回復に努めているとして、スタッバーがどこかに姿を潜めて、必殺の一撃を加えるタイミングを狙っているに違いない。
見るからに刀剣や槍に斧、鞭にハンマーと近接戦に特化した魔物もいれば、ミリ単位の小型の群れが無数に集まっている魔物、霧や煙といった気体、泥や水のような液体型の魔物まで、無数にうごめいている。
「六割は倒したか……。魔物少女が俺のことを恐れなくなったんなら、エネルギー源にならねえし、片づけちまおう」
口で言うほど簡単には出来ないと分かっていたが、ソルグランドはなんでもないさ、という口調のまま言葉にした。言葉には力があり、良い結果も悪い結果も引き寄せてしまう。
ソルグランドの境遇を考えれば、言葉に宿る力──言霊を軽視出来るわけもない。いまや真上大我の肉体は女神のものであり、口にする言葉は真上大我と女神双方のものとなるのだから。
フォビドゥンの全身の口と尻尾の先端から発射される砲撃を皮切りに、牽制となる攻撃が放たれる中、ソルグランドは真っ先にディザスターを斬り伏せることに決めた。
今もってなお、ソルグランドへ最も大きなダメージを与えるのは、ディザスターの攻撃だ。拳を貰った右肩は鈍い痛みを発しており、その所為で右腕は本来のパフォーマンスを発揮できない。
乱戦の中でディザスターとスタッバーに隙を突かれて、致命傷を受けるのをソルグランドはなによりも危惧していた。
「かかって……」
こいやぁ!! と続けようとしたソルグランドの目の前で、ディザスターが上空から落下してきた人型の太陽に頭を上からぶん殴られて、地面に巨大なクレーターを作った。
同時にディザスターをぶん殴った人物から放射される膨大な熱量によって、周囲の木々は魔物ごと纏めて燃え上がり、大地は煮え立つマグマと化す。
ソルグランドを背後から狙い撃っていたフォビドゥンは、目の前に突如として出現した鳥居から飛び出してきた魔法少女が大太刀を振るうのと同時に、背後の魔物達とまとめて斬撃を受けた。
フォビドゥンこそ皮一枚を割かれる程度で済んだが、多くの魔物達は耐え切れずに血液代わりのプラーナを噴き出しながら、地面に倒れ伏してゆく。
ソルグランドを前後から襲っていた魔物達が一瞬でその数を減らした直後、遠巻きに囲んで逃亡を防ぎ、援護射撃をいつでも行えるように魔物達へも次々と新たな攻撃が加えられる。
それは無数のミサイルと銃弾、それに砲弾と鼓膜どころから全身を吹き飛ばすような爆音と雷、そして海水による水流と大渦だった。大熱量と斬撃に比べれば数段威力が劣るようで、倒せた魔物の数は少ないが、敵の気勢を削ぐのには十分だ。
「ソルグランドさん、遅くなりました! ソルブレイズ、到着です!!」
より煌びやかな装飾を纏い、プラーナ量を爆発的に増大させたソルブレイズがソルグランドの前を守り、クレーターの底でなんとか体を起こすディザスターを睨みつける。
「ソルグランド様のザンアキュート、推参いたしました」
両手に握る大太刀だけでなく、周囲に抜き身の大太刀を浮かべているザンアキュートはソルグランドの玉体を傷つけ、汚したフォビドゥン達に殺意のみの視線を向けている。
共に日本式強化フォーム『天の羽衣』に適応し、新たに圧倒的な戦闘能力を獲得した両者が、真っ先にソルグランドの救援に駆けつけたのである。
夜羽音にとってはこの二人が来る可能性が最も高い、と推測しており、まさにその通りだったのだが、一つだけ違うのはソルブレイズとザンアキュートだけでなく、強化アイテムを装備した三人の魔法少女達も、ほとんど時を同じくして姿を見せたことだった。
「これちょっと俺らは場違いじゃね? 恩返しの為にやってきたけど、すっげえ足手まといになりそーだぜ」
背中にプラーナバッテリーと推進器を内蔵した大型のバックパックと長方形のミサイルポッド二基、プラーナキャノン二門を追加装備したスカイガンナーは、実際の戦場についてから少し怖気づいてしまったらしい。
メインウェポンである重機関銃マーヴェリックの威力は上がり、彼女自身のプラーナを材料とする各種弾薬の火力もかなり増しているのだが、まだまだ力が足りていないと実感しているようだ。
「ここまで来ておいて何を今さーら。一級以上しかいないけど、邪魔くらいなら出来る出来る」
青森でソルグランドに助けられた魔法少女クリプティッドエヌは、周囲に猿や虎、狸、蛇の顔を模した可愛らしいスピーカーを浮かべ、増幅した咆哮で迫りくる魔物を牽制し、それなりのダメージを与えている。
かつて二十四時間に一度しか使えなかった『ミステリアス・ロア』は、彼女自身の成長と強化アイテムであるスピーカーのお陰で、威力を強化しつつ連射可能になっていた。
「ここまで来たんならやるっきゃないよね。スカイガンナーちゃんの気持ちも分かるけど、弱気になった方が危ない目に遭いそーじゃん。だから、強気でいっとこーよ」
そして都合五人目の助っ人は徳島を中心に活躍中のアワバリィプールだ。かつてソルグランドにラーメンを奢った魔法少女である。コミカルな衣装に大きな変化はないが、縁がギザギザになっている円盤──なるとの上に立っている。
彼女の操る渦潮はその規模と速度、精度を上げていて、今もアワバリィプールの手の動きに合わせてそれなりの数の魔物を翻弄している。
この三人は元々、中堅から下位にランキングされる実力で、強化アイテムを入手してもランカーには及ばない戦力だが、とにもかくにもソルグランドの負担を減らすことを優先され、援軍として認められてこの場にいる。
なによりソルグランドに友愛や親愛、尊敬となどの感情を向ける存在が同じ戦場にいれば、その分だけソルグランドへ流れ込む力は大きくなる。ソルグランドの消耗を少しでも早く回復させる為でもあった。
魔物少女達は来るはずのない援軍、特に看過できないほど強大なプラーナを放つソルブレイズとザンアキュートの存在に、目に見えて動揺を示す。
動揺とはまた違った意味であるが、心を揺さぶられたのはソルグランドも同じだった。特にもっとも守りたいと願っている孫娘が助けに来たその姿には、情けなさと悔しさと同じくらいの喜びが混じり合い、自分でもどんな顔をすればいいのか分からなくなっている。
そんなソルグランドの隙を突くように、地中の隙間を通ってソルグランドの背後に飛び上がったスタッバーが後ろから首をかき斬ろうとし、稲妻の速さで振るわれた左肘に鳩尾を抉られてその場で崩れ落ちる。
「まいったね。俺もまだまだ頑張りが足りねえって気持ちと、背負った子供に教えられた気持ちの二つがあんな。でも、まあ、こうなったらもう俺達の勝ちで決まりだ。それとまずはお前さんで一体目。今度は誰も逃がさん」
崩れ落ちたスタッバーを振り返り、ソルグランドは左手をかざして淡々と呟く。
「太陽無き世界に光無し。禍岩戸」
両面両儀童子との戦いで用いた、広範囲内の光を完全に消し去る闇を齎す神業だが、それ加えて今回は闇を覆う巨大な岩も出現して即席の牢獄となった。
「内に籠った太陽神が自ら開ける以外、いかなる神でも開けられなかった岩戸だ。まがい物だが、魔物少女でも出られやしないだろう? すぐに他の姉妹もまとめて叩き込んでやるから、そこで大人しくしてな」
禍岩戸に背を向けて残る魔物少女と魔物達を見つめるソルグランドの顔には、勝利を確信した笑みがはっきりと浮かんでいた。
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【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
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貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
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