さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき

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26巻

26-2

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「今回は神々が祈りにお応えくださるのが明らかに早かった、効果がすぐにあらわれたなど、ありがたくはあるものの、不可解な事象があった事は神官方が確認しております。加えてドラグサキュバスの方々の多大なるご援助によって、兵達の士気を高く維持いじ出来て、また医療いりょうをはじめとして大きく助けていただいた。感謝の言葉しかありません」

 感謝の意をたっぷりと込めて告げるベアベに、リリエルティエルは柔らかに微笑み返す。

「かの塔の中ならばいざ知らず、一歩外に出れば我らドラグサキュバスといえど、さしたる力はふるえません。他の大いなる神々のごとき奇跡は起こせず、ささやかな助力しか叶わなかったとはいえ、我が同胞がお役に立ったのならば、同盟者としての面目めんもくも立つというもの。我らが主、ドラゴン様にも胸を張ってお伝え出来ます」

 ドランはここでリリエルティエルが自分に視線を向けなかったのを、後でめてあげようと思った。
 ドランをたましいの父とした神造魔獣しんぞうまじゅうの娘――レニーアあたりだったら、チラチラと見てくるところだろう。
 その間にもリリエルティエルは言葉を続けていた。真正の女神の言葉だ。誰もが真剣に聞き入っている。ベアべらにとっては、本物の女神がこの場に居る事の方が、ある意味では魔王軍よりも現実味がなかったかもしれない。

「我らドラグサキュバスは、古神竜ドラゴン様の眷属けんぞくとして魔王軍に属する偽竜達を見過ごせぬのもありますし、これからも貴国への助力を惜しみません。竜種の眷属としても、サキュバスとしても、ね」

 言葉の最後に垣間かいませた微笑はサキュバスを種族名に含むのに相応しい淫靡いんびなものだったが、出席者達がそれに心を奪われるよりも早く、リリエルティエルは再び口を開く。

「ああ、そういえば……神々の祈りに対する反応の早さですが、一因はですわ。かの塔の内部は神々の戦場すら含む、ちぐはぐにしてデタラメなツギハギの世界。塔の中から遥かな古代か、あるいは異なる世界、星空の彼方かなたの地で建立こんりゅうされた大地母神マイラールや、戦神アルデスの神殿が発見された事はご存じでしょう」

 古神竜ドラゴンを含む始原しげん七竜しちりゅうと、その宿敵終焉竜しゅうえんりゅうによる空前絶後の戦いの影響で神々が極限まで疲弊ひへいした為、現在地上世界では、神聖なる魔法──神の奇跡の効力がいちじるしく弱っている。
 しかし前回の魔王軍とのいくさでは、こうした魔法の恩恵を充分に受けられたお蔭もあって、奇跡的に死傷者の数を少なく抑えられた。
 リリエルティエルはそれが『カラヴィスタワー』の性質に関係していると、説明していた。
 彼女は自分の言葉が参加者の思考に行き渡ったのを確認してから、言葉を続ける。

「あそこでなら神々は本来持てる力と権利を、地上よりも強く行使する事が叶います。天界からこの地上世界へ、ではなく神代の名残なごりを内包する塔を経由する事によって、迅速な意思と奇跡の伝達が可能となっておりますの。塔から離れれば離れるほど、神々へ祈りは届き難くなり、いつもと変わらなくなります。もし暗黒の荒野の深部へ向かえば、今回のような都合のよい事態は生じなくなりましょう」

 言外げんがいに魔王軍を撃退したからといって、調子に乗って攻め返すなんて無謀むぼうな考えは抱かないようにと、くぎを刺しているとも解釈出来る発言である。

「なんと、かの塔にはそのような影響まであったとは。しかしながら、ムンドゥス・カーヌスへ攻め入る場合には恩恵を受けられぬわけですな。それはいささかもったいなくも感じられますが、暗黒の荒野に踏み込むとなると、逆に魔王軍は彼らの祖神の恩恵を受けられる可能性があるのでしょうか?」

 ただでさえ強敵である魔王軍がさらに強力になる可能性を指摘するベアベに、リリエルティエルは〝慧眼けいがんですわね〟と、一言呟いてから答えた。

「絶対にないとは言い切れません。ですがそれほどの影響はないでしょう。せいぜい、調子が良い程度に留まると考えています。サグラバース様の神意によるものであれば、恩恵は多々授けられているでしょうけれど、サグラバース様のめいによって起こされた戦いならば、神々の代理戦争として貴方あなたたちの信仰される神々も介入せざるを得なくなります。私は直接サグラバース様を存じ上げませんが、ドラゴン様いわく、そのような真似をする神ではなく、また今回は神の意思によって起こされた戦いではないと伝え聞いております」

 リリエルティエルの言葉を最後まで聞いてから、クリスティーナはこっそりと背後のドランを振り返る。信頼する補佐官が小さく首肯したのを見て、彼女は〝なるほど〟と、自分にだけ聞こえる声で呟いた。
 ドラグサキュバスの女神の言葉を前向きにとらえるかどうか、諸侯はざわざわと話していたが、不意にクリスティーナが発言の許可を求めた。

「ベアベ子爵、発言をしてもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろん。リリエルティエル様と最も縁が深く、今回の戦いでも勇躍ゆうやくなさった貴方の言葉とあれば、誰も軽んじはしません」

 さらりと称賛しょうさんを混ぜてくるベアベに、クリスティーナは照れくさくて思わずほおが緩みそうになったが、それでも頑張って表情を引き締め直して口を開いた。
 彼女が発言すると知って、途端とたんに諸侯らの視線が集中したが、それにもうめごえ一つ立てずに耐える。
 ヴェンギッタを相手に斬った張ったをしていた時の方が、精神的にはまだ楽だと考えてしまうあたり、クリスティーナの領主としての経験値はまだまだ不足している。
 その反面、ヴェンギッタを相手にそんな感想を抱くのは流石さすがの猛者ぶりだった。

「生意気を申し上げるようで恐縮ですが、リリエルティエル殿の言葉を要約すれば、あちらもこちらも神々の恩恵に目立った差異はない、という結論になります。条件は五分と五分」

 少し――いや、かなり生意気な言葉かもしれないが、とクリスティーナは息を呑んでから、自らの意見を全て言葉にする。

「神々によりもたらされる慈悲じひと奇跡は、我々にとって欠くべからざるものとはいえ、今回の戦は、地上に生きる者が同じく地上に生きる者を相手に起こした戦です。ならば、やはり戦の趨勢すうせいは神々ではなく、実際に戦う我らの手によって左右されると思うのですが……」

 最初から神を頼る前提にせずに、自分達の力で戦う事を忘れてはいけないと、言葉をにごして伝えるクリスティーナに、ベアベとジオルダが感心した視線を向ける。

「ベルン男爵の言う通りです。死ぬも生きるも、殺すも殺されるも、地上に生きる我らですからな。天上と魔界の神々にばかり思考をめぐらせては、目の前の戦で足をすくわれてしまいます」

 ふっふっふ、と子供の成長を喜ぶ父親のように笑うベアベにつられるように、リリエルティエルも無言のまま微笑んだ。
 天上の世界でも魔界でもなく、地上世界の特異な場所に居を置く女神は、クリスティーナの発言に気分を害した様子はない。
 女神たる彼女が信仰する古神竜がこの場にいるから猫を被っているというわけではなく、神に依らないかたを好もしく感じたのである。
 クリスティーナは、この際生意気ついでに言ってしまおうと腹をくくり、続けて喋り出す。

「仮にムンドゥス・カーヌスの本拠地への侵攻を目指すにしても、我々には敵に関する情報が不足しています。言うまでもありませんが、これまで守勢を強要されてきた我々が攻勢に転じる為には、まず情報、そしてさらなる戦力と兵站へいたんの確保が急務です。敵の侵攻を防ぐならまだしも、こちらから攻撃を仕掛けるのであれば、現状では不足している点が多すぎると判断いたします」
「ふむ、ベルン男爵の言われる通りでしょう。彼らはあの陸上戦艦を用いて、大軍を迅速に移動させますが、我々にあのような装備はない。まあ、ベルン男爵のところの自走する砦を千近く用意出来れば、話はまた別ですが」
「流石にあの砦をそれだけの数用意するのは、無理があります。王国からの増援は必須ですが、それに加えて他国との連携も必要になると私は考えています」

 捉え方次第では問題のあるクリスティーナの発言だが、今のところ、会議の出席者達は揚げ足を取るような事はしなかった。進行役のベアベとクリスティーナとの会話の流れを黙って聞いている。

「同じく魔王軍の脅威きょういさらされているロマル帝国ですか?」
「はい。かの国とは、互いに仮想敵国として水面下でにらっていた間柄あいだがらですが、今回の事態を考えれば、大公も皇女も我が国との共闘を受け入れる可能性は充分にあるかと」
「しかし、そう簡単に共闘関係を受け入れますかな? また、そこまでの大事となれば、まず陛下に上奏じょうそうするところから始めなければなりません」
「それはもちろんです。ただ、陛下や王太子殿下は聡明そうめいであらせられる。魔王軍との戦端せんたんが開く前から交渉を進められていたと、勝手に考えています。それにあちら側にも話の早い方がいると、風の噂で耳にしておりますから」

 クリスティーナは独自の情報網と王室との関係を匂わせる言葉を、意識せずさらりと発言した。その後ろで、風の噂の大元とも言えるドランは、現在ロマル帝国内で活動中の自らの分身の周囲の状況を考え、こっそり溜息をいた。




 第二章―――― ロマル帝国と共闘せよ




 ドランが常に意識をつなげている分身体――人間寄りのドラゴニアンの姿をしたグヴェンダン一行は、ロマル帝国西部の公都バロルディ城へと戻っていた。
 彼らが護衛として行動を共にしている先代皇帝の遺児アムリアは、双子の姉である皇女アステリアが進めている〝ある計画〟に手を貸しているところだ。
 そしてアステリアは現在、戦線を大きく後退させた魔王軍と反乱勢力の対応に奔走ほんそうしていた。
 そんな中で、特に顕著な変化と言えば、一行に新人ならぬ〝新神しんじん〟メイドが加わった事だろう。
 黒い髪と黄金の瞳を持つ楚々そそたる美女は、先輩メイドであるリビングゴーレムのリネット、ガンデウス、キルリンネの見ている前で、アムリアの居室の清掃をしていた。
 ロマルで帝国式メイド術を叩き込まれたリネット達三姉妹が、今度は審査する側に回っているのだ。
 一心不乱にベッドメイクにいそしむ新神メイドを囲むように見守っているリネット達のうち、ガンデウスがまず口を開いた。

「皺一つありませんね。丁寧な仕事です。グヴェンダン様の戦いに水を差した割に、仕事は出来ています」

 まさに真冬の氷雪ひょうせつの如く、実に冷たい声音こわねである。
 ぐさり、と見えない刃が新神メイドの心に突き刺さる音が、グヴェンダンには確かに聞こえた。
 それでもめげずに、新神メイドが軽めの香水を、枕を中心にふわりと最後に吹きかけるのを見て、今度はキルリンネがぽやぽやとした笑顔のまま評定を告げた。

「うんうん、緊張している事の多いアムリアさんの為にぃ、心を落ち着かせる効用のあるハーブを選んでるね~。この匂いはアムリアさんが好まれているものだから~、効果はばつぐ~ん。グヴェンダン様をあきれさせた空気の読めなさはどうしたんだろうねー?」

 容赦ようしゃのないキルリンネの言葉に、新神メイドはむような声を出した。ひょっとしたらそのまま吐血しそうなほど、精神的な苦痛を感じていたかもしれない。
 グヴェンダンはそれを、窓際まどぎわの椅子に腰かけて見守っていた。
 普段の彼なら、ガンデウスとキルリンネの言葉のナイフを止めるところだが、今回は新神メイドが甘んじて受け入れている事もある為、あえてそれをせずにいる。
 それにしても、ガンデウス達は〝彼女〟を相手に、よくもまあ、そこまで言えるなあ……と、呆れながら感心していたが。
 新神メイドは続けてベッド回りの花瓶の花を入れ換え、水差しの水を軽く檸檬レモンしぼった新鮮なものへと交換し、瑞々みずみずしい果物を盛った皿を用意した。
 テキパキと仕事を進める新神メイドのよどみない仕草を見て、グヴェンダンは〝冥界めいかいでニンフ達にでも教わったのだろうか〟と、不思議に感じて首を傾げた。
 あらかた作業が終われば、待っているのは最後の大難関であるリネットだ――おつぼねとか小姑こじゅうととか言ってはいけない。
 表向きはまし顔だが、内心では心臓が飛び出しそうになっている新神メイドは、リネット達三姉妹の正面に立ってスカートのすそまみげ、優雅ゆうがなカーテシーを行う。
 グヴェンダンが見事だと思うほどさまになっている。年季の違いだろうか?

「まだまだ未熟なリネット達が、このように評価している事それ自体が烏滸おこがましくもあるのですが……貴方のメイドとしての技量に疑うところはありません。グヴェンダン様とアムリア達の身の回りのお世話をするのに、安心して仕事を任せられる基準、とリネットは断言いたします」

 長姉リネットの力強い発言に、ガンデウスとキルリンネは異を唱えず、ほっと胸をろす新神メイドに視線を向けたままだ。

「あとは自分の良いところを見せようとするあまり、視野狭窄しやきょうさくおちいって、グヴェンダン様の邪魔をする事のないように、くれぐれも、常々、いつでもそれを心と脳に刻んでおいてください。よいですね、女神タナトス」

 見守っているグヴェンダンの前で、新神メイドこと死をつかさどる大神タナトスは、見ている方が気の毒になるくらいしょんぼりと縮こまるのだった。

「心に刻みます、リネットメイド長、ガンデウス副メイド長、キルリンネ副メイド長。ふふふ……冥界の隅っこでちりほこりだけを食べて生きていたくなるような、ふふふ、情けない気分です。うふふふ」
「ほう? つかえる主人がいる前で自身の境遇をなげく言葉を口にするとは。流石は偉大なる死を司る冥府の女神たる御方です。リネット達にはとても真似出来ません」
「ももも、申し訳ありません、メイド長、口が滑りました」

 綺麗きれいに直角に腰を曲げて頭を下げるタナトスに対して、リネットの声音は変わらず冷たい。厳しくすらある。


「謝罪する相手が間違っているのでは?」

 ――と、リネット。
 なんともはや、グヴェンダンも聞いた覚えがないくらいに冷たい声だ。
 ガンデウスは無言のまま、キルリンネは笑っていない笑顔のまま、あわてふためく大神を見ている。
 当のタナトスはリネットの言葉の意味が分かったらしく、改めてグヴェンダンへと頭を下げる。
 謝罪すべきは監督役のリネットではなく、主人であるグヴェンダンなのだから。

「仕える者として数々の失態をお見せした事、心よりおび申し上げます。グヴェンダン様」

 本来ちっぽけなはずのリビングゴーレムに責め立てられているタナトスの姿を、疑問に思わずにはいられないグヴェンダンだった。
 ましてや、今このバロルディ城にはアムリアと会う為に、ロマル帝国の大重鎮だいじゅうちんハウルゼン大将軍が来ているというのに。


     †


 リネット達のタナトスちゃんいじりというか、イビリになりつつあるそれを、そろそろ止めるべきだろう。
 目の前で深々と頭を下げるメイド姿の大神タナトスを見て、今はドランの分身体グヴェンダンである私は判断した。
 私自身、タナトスちゃんが古ゴブリンのガリリウスとの戦いに介入した事に関しては思うところがあるのは事実だ。それに、リネット達が下手に不満を溜め込む方が後々面倒な事になると考え、見守る方向で通してきた。
 しかし、流石に止めるべき頃合いだ。
 私は死を司る大神の一角とはしんがたいほどしょぼくれているタナトスちゃんを前に、断崖の如く立つリネット達を止めるべく、椅子から立ち上がろうとした。
 だがその直前に、リネットがふう、と小さく息を吐く。
 さらなる叱責しっせきがあるのではと、タナトスちゃんがますます肩を落とした。

「女神タナトス」
「っ、はい」

 強引にでも割って入る覚悟を固めていた私だったが、リネットの口から出てきた言葉は、予想を大きくくつがえすものだった。

「これまで、ネチネチと小言を申し上げてまいりましたが、これ以上は申し上げません。御身おんみがグヴェンダン様のお世話をするメイドとして十二分な技能を体得した今日をもって、リネット達もまた御身と接する態度を改めます。ガンデウス、キルリンネ共々、御身へのこれまでの数々のご無礼を心よりお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした」

 リネットが深く腰を折って頭を下げるのに合わせて、ガンデウスとキルリンネもタナトスちゃんに向けて頭を下げた。
 つい先程まで新神メイドの失態を根に持ってチクチクと嫌味を言っていた姿は欠片かけらもなく、目の前に存在する偉大なる神への敬意を確かに抱いているように見える。
 てのひらを返したのにも等しいリネット達の態度の変化には、さしものタナトスちゃんもしばし理解が追い付かない様子だ。
 タナトスちゃんは一度大きく呼吸をして息を整えると、メイドらしくうやうやしい仕草で頭を下げ返した。
 リネット達が厳しく指導した成果と事前の自己学習により、実に様になっている。

「貴方がたの謝罪を受け入れます。リネットメイド長、ガンデウス副メイド長、キルリンネ副メイド長。私の方こそ、浮かれるあまりにグヴェンダン様のご活躍の場を奪う失態を演じた事を、改めてお詫び申し上げます。そしてこの場において、この身は女神の立場になく、グヴェンダン様にお仕えすべく参上した、ただのメイド。どうぞこれまでと変わらぬご指導ご鞭撻べんたつのほど、よろしくお願い申し上げます」

 おやまあ……
 私が何をするでもなく、三人と一柱――いや、タナトスちゃん曰くただのメイドだというのだから、四人としておこう――四人の関係は、こじれる前に自分達で修復出来たようだ。
 ガンデウスとキルリンネの様子を見るに、前からリネットと三人で態度を改める時機や条件なりを話し合って決めていたのだろう。
 この点に関しては、私が置いてけぼりにされても仕方ない。
 頭を上げた四人が互いにはにかむように微笑み、私はどうやらこれ以上彼女らの関係に気を揉まなくても良さそうだと実感した。

「それでは、私は正式にグヴェンダン様お付きのメイドに加えていただけると考えてもよろしいのでしょうか?」

 期待で胸を弾ませている様子のタナトスに、リネットは柔らかに微笑んでうなずかえす。
 それにしても見る度に思うが、お互いの外見年齢と立場が逆転しているな、ふむむん。

「もちろん。貴方の事情を考えれば、期限がいつまでとなるのか定かではありませんが、許される限りにおいて、共にグヴェンダン様のお役に立てるように尽力いたしましょう。ガンデウスとキルリンネも、それでよいですね?」
「はい。お姉様とキルリンネと相談の上で決めたのです。今更、異を唱えなどしませんとも」
「私も~ガンちゃんと同じ意見だよ。タナトス様にはもう充分言いたい事を言ったし、グヴェンダン様のお役に立とうっていう熱意と技術は本物だってよく分かったもん」

 二人の反応を確認したリネットは、タナトスに向き直る。

「では改めて、よろしくお願いします、女神タナトス。とはいえ余人の前で貴方を女神の名で呼ぶわけにはまいりませんね。神々にあやかった名を持つのは、少なくともリネットの知る限り珍しい話ではありませんが、念には念を入れるべきでしょう。何か案はございますか?」

 アルデスやアミアス、マイラールといった神々も、地上で活動する際には別の名を名乗っていたし、当然の流れか。
 私はここでようやく四人のやり取りに口を挟んだ。いやはや、我ながら頼りにならない主人であるものだ。

「タナトスちゃんは私の下で働くつもりだったのだから、案の一つや二つくらいはあるのだろう?」
「それはもちろんでございます。兄上やニンフ達に協力をあおぎ、地上で通す名を考えてまいりました。聖上せいじょう閻魔えんまさま無間様むげんさまの他、冥府の神々や住人達とは関連のなき名となるよう、随分ずいぶんと意見を出し合ったものでございます」

 そう言ってタナトスちゃんは冥界での日々をなつかしむように、うんうんと頷く。
 ニンフ達は世話焼きな娘さんが多かったと記憶しているから、タナトスちゃんからの相談にこころよく、そして野次馬気分も含めて応じたのだろうな。


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