トラウマを抱えたDKがトイレに入れない話

こじらせた処女

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第四章

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「失礼します」
「おー時田…じゃなかった。どうした篠田?休みだろ」
「え、今日時田来るんですか?」
「ああ、進路相談でな」
「あれ、でも昨日も進路相談だって言って教室行きましたけど」
キンキンに冷えた教室、慣れたような口調で出すその名前。
「進路相談ってそんなに長いんですか?」
「まあ色々時間がかかるんだよ。で、篠田はそんな身の上話をしにきたのか?」
声色が変わる。頬の筋肉を上に上げただけの笑顔。
「先生、時田に何したんですか」
「何って…もう知ってるんじゃないのか?昨日、箱の中が空だったんだが」
「あれ、先生ですよね」
「そうだといったら?」
「なに、やってんだよ!あんたのやってること、犯罪だろが!」
「だろうね。あーあ、バレちゃった」
こいつ、イカれてる…自分が捕まるかもしれないのに、焦った表情もなく、他人事のように笑っている。
「で、それどうするの?別にそのまま持ってても良いよ。バックアップ取ってるから」
「そんなの、警察に突き出すに決まってるだろ!せいぜい豚箱にでも入っとけ!」
「ははっ…まあ良いよ。でもさ、ほんとに良いの?」
「…は?」
「時田は被害を俺にしか言ってない。犯人の俺にしか。」
「だから何だよ。時田にも言ってやる」
「時田な、最近やっとトイレで小便出来るようになりそうなんだ」
「…何が言いたいんだよ」
「ヤバかったんだって。目の前にトイレがあるのに入れずに漏らしたり。あー、気絶したときの体は中々にそそったなぁ…」
「…あいつが早退したときだろ」
最初の映像とは違う、もう一本の映像。ただ時田が寝かせられて乳首やら性器やらを弄られているだけの。胸くそが悪くて、全部見れなかった。
「そうそう。気絶してるのにさ、乳首をちょーっと弄っただけでアッアッって。かーわいい」
ゾクリと背中が跳ねる。頬を上気させて息が荒くなるその顔は、普段の爽やかさのかけらもない。
「話が逸れた。時田が今、どうやってトイレに入ってるか知ってる?」
「…知らねえよ」
「ベロチューだよ。フラッシュバックで過呼吸を起こすたびに。俺が全部受け止めてるんだ、苦しみも、やるせなさも、悔しさも。そんな俺が張本人だって知ったら彼はどうなる?トイレどころか、学校にも行けなくなるかもなぁ…」
「…あんた何がしたいんだよ。社会的地位を捨ててまで、人一人の生活めちゃくちゃにしてまで!!」
「そういうことが言えるお前はきっと正常なんだよな。大切にしろよ、その感覚。そろそろ時田が来る時間だ。お前が何しようと構わない。俺の人生、とっくに詰んでるんだから」


 左肩が重い。鞄の中に、例のブツが入っているからだ。

 早く、警察に突きだしてしまえばいい。何も間違ったことではない。

 でも、そうすることで本当に時田が立ち直れなくなったら?

 良いじゃないか、そもそも時田とはただのクラスメートだし。それに、俺がしたってバレないだろうし。

「あれ、篠田?どしたん」
「時田…や、ロッカーの教科書持って帰れって昨日電話きたから」
「あんだけ持って帰れって言われたのに懲りねえなぁ…篠田?何か顔色悪いけど…」
「あ、ううん…ちょっと腹壊してて…」
「大丈夫か?あんまり冷たいもの食うなよー」
「な、なあ時田!」
「ん?」
「お前は、また進路か?」
「あ、ああ…ちょっと他の学科も気になって…いっぱいありすぎて困るわぁ…」
 時田、知ってるよ。バツの悪そうな薄ら笑いを浮かべる理由。お前が行こうとしている教室に、進路の資料、一冊もないもんな。それどころか、お前の傷の癒やし方も、傷を作った張本人も知ってる。
「大学探し、楽しい?」
「…うん…」
さっきまでの硬い笑顔が少し、綻ぶ。紅潮した頬を目にして、いよいよ頭が真っ白になる。

誰か、教えてくれ。

 俺は証拠これをどうすればいい?








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