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第五章
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「…だ…のだ…」
「篠田!!」
いきなり聞こえた俺の名前。顔を上げると少しイラついた様子のチームメイト。
「…あ…んだよ三宅…」
「いや、何回も呼んだし。練習終わったらラーメン行こって園田と話してたんだけど、お前も行く?」
「あー…俺は良いや…ごめん…」
最近、体が怠い。何をするにしてもやる気が起こらない。大好きなバスケに対しても、だ。
「お前、大丈夫か?」
「え、何で?」
「前ならありえないミスするし、ボーッとしてるとき多いし」
「…ごめん…」
「や、責めてるわけじゃねーよ?ただ…」
スルリと目の下をなぞられる。
「隈、凄いから。ちゃんと寝れてるか?」
不眠症、ってやつなんだろう。シンプルで分かりやすい。どれだけ疲れていても寝れないっていうやつ。
「何か悩んでることでもあんの?」
「っ…いや、別に」
原因は分かっている。引き出しの奥の奥にしまった、あのカメラ。アレのことを考えると、心臓がぎゅぅぅって痛くなって、吐きそうになるのだ。
「わりい。ちょっと…将来のことで悩んでて…」
「…ふーん。あんまり思いつめるなよ」
時計の音が耳を刺す。真っ暗な電気。蛍光色に光る時計の短針は2を指している。練習でクタクタに疲れた体。前まではベッドに入った瞬間に目を開けてられないほどすぐに寝られたのに。
新学期になって時田は普通にトイレに行けるようになった。それでも手が震えてて、緊張したような面持ちは消えていない。夏休み、どんなカウンセリングを受けたんだろう。トラウマの張本人の、あいつから。
『やだぁ、やだ、怖いから、離してっ離して!』
パチュン、パチュンと聞こえるいやらしい音に混じる、悲痛な叫び。
『やらぁ、ぁ、ぁ、ぁ…や、め…』
「っっっ!!っあ…」
慌てて上半身を起こす。心臓の音がうるさくて、まだ、耳の奥で嫌な音が聞こえる。
「っはぁ、、っはぁ…」
呼吸を落ち着かせた時、再び時計を見ると、まだ3時にもなっていない。つうっと汗が背中を滑る。
早く、誰かに言わないと。時田に早く伝えてあの犯罪教師から離れさせないと、そう思うのに、行動に移せない。
『トイレだけじゃなく、学校にも行けなくなるかもね』
でも、もしも俺の行動で、あいつの傷が深くなってしまったら。俺のせいで、あいつの人生が狂ってしまったら。それを考えると、足に根が生えたみたいに、喉に粘土を詰められたみたいに体が動かなくなる。
何で、知ってしまったんだろう。
全部、全部、忘れたふりをしてしまいたい。
「篠田!!」
いきなり聞こえた俺の名前。顔を上げると少しイラついた様子のチームメイト。
「…あ…んだよ三宅…」
「いや、何回も呼んだし。練習終わったらラーメン行こって園田と話してたんだけど、お前も行く?」
「あー…俺は良いや…ごめん…」
最近、体が怠い。何をするにしてもやる気が起こらない。大好きなバスケに対しても、だ。
「お前、大丈夫か?」
「え、何で?」
「前ならありえないミスするし、ボーッとしてるとき多いし」
「…ごめん…」
「や、責めてるわけじゃねーよ?ただ…」
スルリと目の下をなぞられる。
「隈、凄いから。ちゃんと寝れてるか?」
不眠症、ってやつなんだろう。シンプルで分かりやすい。どれだけ疲れていても寝れないっていうやつ。
「何か悩んでることでもあんの?」
「っ…いや、別に」
原因は分かっている。引き出しの奥の奥にしまった、あのカメラ。アレのことを考えると、心臓がぎゅぅぅって痛くなって、吐きそうになるのだ。
「わりい。ちょっと…将来のことで悩んでて…」
「…ふーん。あんまり思いつめるなよ」
時計の音が耳を刺す。真っ暗な電気。蛍光色に光る時計の短針は2を指している。練習でクタクタに疲れた体。前まではベッドに入った瞬間に目を開けてられないほどすぐに寝られたのに。
新学期になって時田は普通にトイレに行けるようになった。それでも手が震えてて、緊張したような面持ちは消えていない。夏休み、どんなカウンセリングを受けたんだろう。トラウマの張本人の、あいつから。
『やだぁ、やだ、怖いから、離してっ離して!』
パチュン、パチュンと聞こえるいやらしい音に混じる、悲痛な叫び。
『やらぁ、ぁ、ぁ、ぁ…や、め…』
「っっっ!!っあ…」
慌てて上半身を起こす。心臓の音がうるさくて、まだ、耳の奥で嫌な音が聞こえる。
「っはぁ、、っはぁ…」
呼吸を落ち着かせた時、再び時計を見ると、まだ3時にもなっていない。つうっと汗が背中を滑る。
早く、誰かに言わないと。時田に早く伝えてあの犯罪教師から離れさせないと、そう思うのに、行動に移せない。
『トイレだけじゃなく、学校にも行けなくなるかもね』
でも、もしも俺の行動で、あいつの傷が深くなってしまったら。俺のせいで、あいつの人生が狂ってしまったら。それを考えると、足に根が生えたみたいに、喉に粘土を詰められたみたいに体が動かなくなる。
何で、知ってしまったんだろう。
全部、全部、忘れたふりをしてしまいたい。
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