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第五章
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「だって俺、お前が電車乗るとこ見てたもん」
ドク、と心臓が跳ねる。
「それは…腹痛くなっただけだから…」
「恥ずかしくて言えなかった?」
「そ、そうだって、」
「嘘つけ、吐いてたんだろ」
「ちが、」
「じゃあ何で学校で何回も口ゆすいでたんだよ」
「歯、磨く時間なくて…」
「寝坊じゃないのに?」
「それは…寝坊はほんとでっ、」
「しょうもない嘘つくな。俺は本気で聞いてる。吐いたんだろ?」
声がさらに数トーン下がる。背筋がゾクリと震える。いつもの渇を入れる怒鳴り声に比べてはるかに静か。でも、それが逆に怖い。でも、肯定したくなくて、俺は黙り込んだ。
「先生いねえな…とりあえず熱、そんでこれ飲んどけ」
挟まれる体温計。それとさっき俺をおぶりながら自販機で買ってくれた、温かいお茶。キャップまで緩めてくれている。
「さんきゅ…」
入室表を記入してくれている後ろ姿に呟く。返事はない。凍った雰囲気に耐えられず、一気に煽った。
「体温でたよな?そこからでいい。言ってくれ。…篠田?」
無機質な機械音が右の脇から聞こえる。でも、見れない。両手で口を押さえているからだ。胃が、気持ち悪い。
吐きそうだ。
「ぅ゛!」
慌てて近寄ってきた三宅を押し分け、ベッドを出る。でも、少しでも動いたら吐いてしまいそうで、地面に蹲る。
「篠田!ここ!吐け!」
目の前に広がる袋。もう我慢出来なかった。
「ぅ゛…ぇ゛っ!!」
さっき飲んだお茶がそのまま出てくる。
「…わ゛りい…」
幸い吐いてしまえば気持ち悪さはなくなった。胃がキリキリとするだけ。
「お、まえ!昼も食ってないのか!?」
「え…いや…」
「バカか!飯も食えないやつが練習出んな!」
「…だって、」
「寝れない、食事もとれない、そんなやつがあのキツイ練習こなせるってよく思えたな」
「ちがっ、」
「何が違うんだよ、言ってみろ」
口がはくはくするだけで、言葉が出てこない。
「…熱はないみたいだな。先生呼んでくるからそこで大人しく寝とけ。あと明日も来るなよ。チームの士気が下がる」
呆れられた、見捨てられた、嫌われた。顔を伝うしょっぱい水は、涙なのか、汗なのか、分からない。
「ヒッグ…ちがう、ちがうちがうちがう!!」
「お、おい、急にどうした」
「う゛、う゛え゛え゛え゛え゛んっ!!ちがうも、ちがうもんんん!!」
「え、おい、わかった、何が違うんだ?」
自分でも何が言いたいのか分からない。でも、とんでもなく泣きたくて、誰かにぶつけたくて。これじゃあまるで、表現の仕方が分からない子供じゃないか。
ドク、と心臓が跳ねる。
「それは…腹痛くなっただけだから…」
「恥ずかしくて言えなかった?」
「そ、そうだって、」
「嘘つけ、吐いてたんだろ」
「ちが、」
「じゃあ何で学校で何回も口ゆすいでたんだよ」
「歯、磨く時間なくて…」
「寝坊じゃないのに?」
「それは…寝坊はほんとでっ、」
「しょうもない嘘つくな。俺は本気で聞いてる。吐いたんだろ?」
声がさらに数トーン下がる。背筋がゾクリと震える。いつもの渇を入れる怒鳴り声に比べてはるかに静か。でも、それが逆に怖い。でも、肯定したくなくて、俺は黙り込んだ。
「先生いねえな…とりあえず熱、そんでこれ飲んどけ」
挟まれる体温計。それとさっき俺をおぶりながら自販機で買ってくれた、温かいお茶。キャップまで緩めてくれている。
「さんきゅ…」
入室表を記入してくれている後ろ姿に呟く。返事はない。凍った雰囲気に耐えられず、一気に煽った。
「体温でたよな?そこからでいい。言ってくれ。…篠田?」
無機質な機械音が右の脇から聞こえる。でも、見れない。両手で口を押さえているからだ。胃が、気持ち悪い。
吐きそうだ。
「ぅ゛!」
慌てて近寄ってきた三宅を押し分け、ベッドを出る。でも、少しでも動いたら吐いてしまいそうで、地面に蹲る。
「篠田!ここ!吐け!」
目の前に広がる袋。もう我慢出来なかった。
「ぅ゛…ぇ゛っ!!」
さっき飲んだお茶がそのまま出てくる。
「…わ゛りい…」
幸い吐いてしまえば気持ち悪さはなくなった。胃がキリキリとするだけ。
「お、まえ!昼も食ってないのか!?」
「え…いや…」
「バカか!飯も食えないやつが練習出んな!」
「…だって、」
「寝れない、食事もとれない、そんなやつがあのキツイ練習こなせるってよく思えたな」
「ちがっ、」
「何が違うんだよ、言ってみろ」
口がはくはくするだけで、言葉が出てこない。
「…熱はないみたいだな。先生呼んでくるからそこで大人しく寝とけ。あと明日も来るなよ。チームの士気が下がる」
呆れられた、見捨てられた、嫌われた。顔を伝うしょっぱい水は、涙なのか、汗なのか、分からない。
「ヒッグ…ちがう、ちがうちがうちがう!!」
「お、おい、急にどうした」
「う゛、う゛え゛え゛え゛え゛んっ!!ちがうも、ちがうもんんん!!」
「え、おい、わかった、何が違うんだ?」
自分でも何が言いたいのか分からない。でも、とんでもなく泣きたくて、誰かにぶつけたくて。これじゃあまるで、表現の仕方が分からない子供じゃないか。
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