31 / 51
第五章
4
しおりを挟む
「ッヒグ、ちがう、おれ、」
「とりあえず落ち着け」
「う゛~~~…」
さっきとは全然違う、柔らかい声。吐いているときと同じように、背中を摩られる。
「ヒクッ…ヒクッ…」
「お前、酔っ払いみたいだな」
「ヒクッ、ぅ゛…フヒッ…」
「やっと笑った」
安心したような表情で、頭をわしゃわしゃと撫でられる。同い年、ましてや親交の深い人間にされて恥ずかしいはずなのに、やめてほしくない。
「キツく言いすぎたな。ただお前にはこれぐらい言わないと休んでくれないと思ったんだ」
「…ごめんなさい」
「エネルギーが入ってない状態で運動するのは危ない。分かるな?」
「うん…」
「それに、もしも俺がフラフラの状態で練習出てたらどう思う?」
「…心配する」
「そうだ」
一個一個、諭すような口調。
「俺らも同じ。そんな浮ついた気持ちで練習しても、何も身にならねえ。無理してるのに力にならないって嫌だろ?」
「いや…」
「じゃあ今することはなんだ?」
「ご飯食べて、休む…」
「だな。普段の篠田ならそうしてた。よっぽど余裕なかったってこと」
胸に頭を抱え込まれる。心臓の音、汗のにおい。凄く安心する。
「っ…う゛~…」
「また泣いてんのか?」
「ないでない゛!」
「はいはい。なあ、何に悩んでるんだ?」
「…」
「どうせ進路じゃねえんだろ?脳みそバスケ人間が寝れないほど悩むわけ、ないと思うんだわ」
「…バカにしてる?」
「ああ、ちょっと。でも、その分心配してる」
「…言えない…」
「ん、分かった。聞かない。でもいつでも相談乗るからさ、抱え込むなよ」
「…ありがと…」
「まあでも、3日は部活禁止だからな」
「え゛っ…でも、おれ、バスケバカだから…」
「関係ねえわそんなの。バスケは逃げねえ。きっちり生活整えてから来い」
「うぐっ…」
「ほら、もう寝ろ。最近寝れてないんだろ?」
「眠く、ない…」
「嘘つけ、声が寝てるぞ。寝るまでこうしててやるからさ」
我慢できないほどの眠気。久しぶりだ。
背中に感じる振動が気持ちよくて、温かい。
瞼が落ちるのに身を任せ、眠りの世界に微睡んだ。
「っっあ゛!」
目が覚めると、天井が白い。消毒液の匂いですぐに思い出す。俺は倒れて、ここで寝ていた、と。呼吸がうるさい。心臓がうるさい。さっきの夢も、全部覚えている。
「起きた?凄い声したけど」
養護教諭がカーテンを開けてこちらを心配そうに見ている。
「あ、いえ…」
ちらりと見えた時計は1時間も進んでいない。
「おうちの人に連絡してみたんだけど、誰も出なくて…あなたの担任の村山先生が送ってくださるらしいけど、どうする?」
1番聞きたくなかった人の名前。
「いえ、結構楽になったんで。帰ります」
「え、でも...」
「大丈夫ですから。じゃあ失礼します」
挨拶もそこそこに、保険室から出る。冗談じゃない。自ら体を壊すようなこと、誰がするか。
「あれ、篠田。もう起きたのか?はいこれ荷物」
部室へ行く道中、両手に荷物を抱えた三宅とかち合う。休憩中に持ってきてくれたのだろうか。
「あ、りがと…」
「もう帰るのか?」
「うん…」
「親御さんは?」
「連絡つかなかったから一人で帰る」
「え、大丈夫かよ。あと1時間待っててくれたら送っ…」
「あ、いたいた。篠田お前、送ってやるって言ってんのに。保険の先生、心配してたぞ」
「とりあえず落ち着け」
「う゛~~~…」
さっきとは全然違う、柔らかい声。吐いているときと同じように、背中を摩られる。
「ヒクッ…ヒクッ…」
「お前、酔っ払いみたいだな」
「ヒクッ、ぅ゛…フヒッ…」
「やっと笑った」
安心したような表情で、頭をわしゃわしゃと撫でられる。同い年、ましてや親交の深い人間にされて恥ずかしいはずなのに、やめてほしくない。
「キツく言いすぎたな。ただお前にはこれぐらい言わないと休んでくれないと思ったんだ」
「…ごめんなさい」
「エネルギーが入ってない状態で運動するのは危ない。分かるな?」
「うん…」
「それに、もしも俺がフラフラの状態で練習出てたらどう思う?」
「…心配する」
「そうだ」
一個一個、諭すような口調。
「俺らも同じ。そんな浮ついた気持ちで練習しても、何も身にならねえ。無理してるのに力にならないって嫌だろ?」
「いや…」
「じゃあ今することはなんだ?」
「ご飯食べて、休む…」
「だな。普段の篠田ならそうしてた。よっぽど余裕なかったってこと」
胸に頭を抱え込まれる。心臓の音、汗のにおい。凄く安心する。
「っ…う゛~…」
「また泣いてんのか?」
「ないでない゛!」
「はいはい。なあ、何に悩んでるんだ?」
「…」
「どうせ進路じゃねえんだろ?脳みそバスケ人間が寝れないほど悩むわけ、ないと思うんだわ」
「…バカにしてる?」
「ああ、ちょっと。でも、その分心配してる」
「…言えない…」
「ん、分かった。聞かない。でもいつでも相談乗るからさ、抱え込むなよ」
「…ありがと…」
「まあでも、3日は部活禁止だからな」
「え゛っ…でも、おれ、バスケバカだから…」
「関係ねえわそんなの。バスケは逃げねえ。きっちり生活整えてから来い」
「うぐっ…」
「ほら、もう寝ろ。最近寝れてないんだろ?」
「眠く、ない…」
「嘘つけ、声が寝てるぞ。寝るまでこうしててやるからさ」
我慢できないほどの眠気。久しぶりだ。
背中に感じる振動が気持ちよくて、温かい。
瞼が落ちるのに身を任せ、眠りの世界に微睡んだ。
「っっあ゛!」
目が覚めると、天井が白い。消毒液の匂いですぐに思い出す。俺は倒れて、ここで寝ていた、と。呼吸がうるさい。心臓がうるさい。さっきの夢も、全部覚えている。
「起きた?凄い声したけど」
養護教諭がカーテンを開けてこちらを心配そうに見ている。
「あ、いえ…」
ちらりと見えた時計は1時間も進んでいない。
「おうちの人に連絡してみたんだけど、誰も出なくて…あなたの担任の村山先生が送ってくださるらしいけど、どうする?」
1番聞きたくなかった人の名前。
「いえ、結構楽になったんで。帰ります」
「え、でも...」
「大丈夫ですから。じゃあ失礼します」
挨拶もそこそこに、保険室から出る。冗談じゃない。自ら体を壊すようなこと、誰がするか。
「あれ、篠田。もう起きたのか?はいこれ荷物」
部室へ行く道中、両手に荷物を抱えた三宅とかち合う。休憩中に持ってきてくれたのだろうか。
「あ、りがと…」
「もう帰るのか?」
「うん…」
「親御さんは?」
「連絡つかなかったから一人で帰る」
「え、大丈夫かよ。あと1時間待っててくれたら送っ…」
「あ、いたいた。篠田お前、送ってやるって言ってんのに。保険の先生、心配してたぞ」
11
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる