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第六章
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その日、教室は大騒ぎだった。
「え、嘘でしょ…」
「村先が…あたしちょっと好きだったのに…ショック…」
「てかホモだったんだな。手ぇ出した男子高校生って誰なんだ?」
あのSDカードを時田に渡した次の日、村山は逮捕され、このニュースがネットニュースでひっそりと流れた。全国的には小規模な出来事だが、やはり自分の学校のことは気になるようで、最近の話題の中心になっている。
その中で皆の注目の的となっているのは、被害に遭った男子高校生がだれなのか、ということ。俺も被害に遭ったうちの一人だが、親にも周りにも勘づかれることはなかった。
しかし…
「ねえ、時田くん、今日も来てないってー」
「もしかして、さ…」
しかし、あの日から一週間もの間、学校を休んでいる時田は違った。春からの体調不良の連続も相まって信憑性は確実に高まっていき、時田なのではないか、という根も葉もありまくる噂が蔓延してしまったのだ。
やっぱり俺があんな渡し方をしたから…?選択を間違ってしまったのではないか。
『お前は渡すだけでいい。大丈夫、俺でもそうする』
(だいじょうぶ…三宅だってそうするって言ってた…)
あの日、三宅に言われたのだ。俺にはどうにも出来ないことだ、と。そこから選ぶのは被害者自身だ、と。自分がすることの責任を委ねるなんて卑怯もいいところだ。でも、自分のせいだ、そう思うことがとてつもなく怖くて、背を向けてしまう。
送ったラインの既読はついていない。今日は部活も休み。
(見舞い、いこうかな…)
臨時担任にそのことを伝えると、今日の配布プリントと共に住所を渡された。
「もし出てこなかったらポストに入れておいてね。風邪が長引いているみたいなの」
いささかホッとした表情が、それが嘘だということを物語っていた。
「ここか…」
白い漆喰の壁。玄関までの石の道を通ってチャイムを押す。
「はーい」
甲高い声がドア越しに聞こえ、やがてエプロン姿の女性が現れる。
「あら、今日は先生じゃないのね。宗太郎の友達?」
「はい、篠田、篠田哲です」
「そう。ありがとうね。じゃあ」
「あ、あの!宗太郎くんの具合は…」
「ああ、あの子…」
忙しいのかも知れないけれど、あまりにもそっけない態度。せめて、時田の様子が知りたい、そんな思いで食い気味に尋ねる。
「あの子は風邪なの。うつると困るから今は会わせられないの。じゃあ。これ、ありがとうね。失礼するわ」
「あっ…」
乱雑に扉が閉められる。鍵をかける重々しい音は、強い拒絶を示しているようだった。
「…帰るか…」
駅に向かう道の角を一つ曲がった時、気づいた一通のメッセージ履歴。
『今日、時間あるか?』
時田宗太郎からだった。
「え、嘘でしょ…」
「村先が…あたしちょっと好きだったのに…ショック…」
「てかホモだったんだな。手ぇ出した男子高校生って誰なんだ?」
あのSDカードを時田に渡した次の日、村山は逮捕され、このニュースがネットニュースでひっそりと流れた。全国的には小規模な出来事だが、やはり自分の学校のことは気になるようで、最近の話題の中心になっている。
その中で皆の注目の的となっているのは、被害に遭った男子高校生がだれなのか、ということ。俺も被害に遭ったうちの一人だが、親にも周りにも勘づかれることはなかった。
しかし…
「ねえ、時田くん、今日も来てないってー」
「もしかして、さ…」
しかし、あの日から一週間もの間、学校を休んでいる時田は違った。春からの体調不良の連続も相まって信憑性は確実に高まっていき、時田なのではないか、という根も葉もありまくる噂が蔓延してしまったのだ。
やっぱり俺があんな渡し方をしたから…?選択を間違ってしまったのではないか。
『お前は渡すだけでいい。大丈夫、俺でもそうする』
(だいじょうぶ…三宅だってそうするって言ってた…)
あの日、三宅に言われたのだ。俺にはどうにも出来ないことだ、と。そこから選ぶのは被害者自身だ、と。自分がすることの責任を委ねるなんて卑怯もいいところだ。でも、自分のせいだ、そう思うことがとてつもなく怖くて、背を向けてしまう。
送ったラインの既読はついていない。今日は部活も休み。
(見舞い、いこうかな…)
臨時担任にそのことを伝えると、今日の配布プリントと共に住所を渡された。
「もし出てこなかったらポストに入れておいてね。風邪が長引いているみたいなの」
いささかホッとした表情が、それが嘘だということを物語っていた。
「ここか…」
白い漆喰の壁。玄関までの石の道を通ってチャイムを押す。
「はーい」
甲高い声がドア越しに聞こえ、やがてエプロン姿の女性が現れる。
「あら、今日は先生じゃないのね。宗太郎の友達?」
「はい、篠田、篠田哲です」
「そう。ありがとうね。じゃあ」
「あ、あの!宗太郎くんの具合は…」
「ああ、あの子…」
忙しいのかも知れないけれど、あまりにもそっけない態度。せめて、時田の様子が知りたい、そんな思いで食い気味に尋ねる。
「あの子は風邪なの。うつると困るから今は会わせられないの。じゃあ。これ、ありがとうね。失礼するわ」
「あっ…」
乱雑に扉が閉められる。鍵をかける重々しい音は、強い拒絶を示しているようだった。
「…帰るか…」
駅に向かう道の角を一つ曲がった時、気づいた一通のメッセージ履歴。
『今日、時間あるか?』
時田宗太郎からだった。
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