アデルの子

新子珠子

文字の大きさ
96 / 114
第三章 明日へ

96. 議論

しおりを挟む
 殿下の元へ通う事以外で、目まぐるしく環境が変わったのは中央医院への関わり方だ。息子が2人、アデルだった事で、僕はさらに深く研究に協力する様になっていた。

「やはりアデル本人が持つ魔力の保有量に関係なく、寄付や保護地区の訪問で宿った胎児の保有するアデルの魔力量がエバの魔力量に比べて少ない事が分かりました」

 まとめられた書類を配りながら、研究者の1人がそう言った。部屋にはセレダと、セレダと同じチームだった研究者たちが一堂に会している。もう何度も顔を突き合わせており、すでに彼らとも顔見知りだ。

「貴族や保護地区の家庭はどうだ?」
「貴族の方も訪問をされ、春を得ている方は同じ様な結果でした。しかし、一族にアデルがいる貴族家や、保護地区の家庭の胎児はアデルの魔力も充分に保有している割合が高かったです」
「アデル本人の魔力量はどうでした?」
「個人差がありました。やはり本人の魔力量は関係がないと思われます」

 僕は書類を眺めながらほう、と感嘆のため息をついた。アデルの魔力量だけではなく、妊娠中の胎児の魔力量まで徹底的に調査されている。これほどまで調査するには人手も時間も相当かかっただろう。
 研究者の1人が嬉しそうに頷く。
 
「これで仮説の証明ができますね」
「ええ……やはりアデルの出生率の低さは魔力量が関わっている可能性が高いです」
「では、胎児が持つアデルの魔力がどうして低いのかが分かれれば……」
「そうですね、今抱えてる問題を解決できるかもしれません」
 
 僕の疑問に答えたのはセレダではなく、一緒に資料を読んでいた医師だった。彼はこの研究室のリーダー的な存在だ。その言葉に他の研究者たちも表情を明るくしている。
 
「ティト様はおそらく胎児に充分な魔力を与えられてるのだと思います。どうしてそうなのか、色々な可能性の中から答えを導く必要があります。その為にもぜひ、お力添えください」
「それはもちろんです。僕にできることならなんでもやりますよ」
「ありがとうございます」
「ティト様だけではなく充分にアデルの魔力を持つ胎児の父親にも聞き取りをする必要がありますね」
「ああ、そうだな、まずは……」

 研究者たちの話し合いは熱を帯びていた。彼らの議論を聞きながら、僕は自分なりの考えをまとめていく。僕の考えが正しいかどうかは分からない。けれど、何かのきっかけになるかもしれない。そんな思いから僕は真剣に耳を傾けていた。

「あの」

 僕はおずおずと口を開いた。議論を白熱させていた研究者たちが一斉にこちらを向く。

「妊娠後の性行為は……魔力を供給する事になるんですか?」
「……妊娠後の性行為ですか」
「ええ、核に魔力を注ぐことになるのでどういう扱いになるのかと」

 僕の質問に研究者たちは腕を組んで考え始めた。

「その点についての研究は進んでいませんね」
「……ええ、でもそれは確かに気になります」
「もし魔力供給ができているのだとしたら、かなり重要な発見ですよ」

 セレダは少し戸惑いながらも口を開く。
 
「失礼ですが……ティト様は妊娠後の性行為をしていらっしゃるんでしょうか」
「……ああ、医師に問題ないと言われたのでしているよ」
「そうですか……これは実験をしてみる必要がありますね」

 セレダの言葉に、その場にいた全員が大きく頷く。そして、リーダー格の医師が僕の方をまっすぐ見据えた。

「この件に関しては私共の方で調べてもよろしいでしょうか」
「もちろんです。よろしくお願いします」

 何か大きな前進があると良い――そう願いながら僕たちは頷き合ったのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...