【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

文字の大きさ
12 / 76

12.おばあさまには逆らえない

しおりを挟む
「ようこそ、アーネスト王太子殿下。遠いところからよくぞいらっしゃいました。当主に代わり、歓迎いたします。わたくしはマーガレット・リンドン。レニオールの祖母でございます」

 おばあさまはこれ以上ないほど洗練されたカーテシーを見せ、俺達を歓迎した。
 そこには悪意なんてこれっぽっちも感じられず、心から訪問を喜んでくれているように見えるんだけど、いつものおばあさまを良く知る俺には、『よくもおめおめと顔を出せたモンね。先触れもなしで押しかけるなんて、どういう神経なのだか!よくも私のかわいいレニちゃんを散々虚仮にしてくれたわね』という副音声が聞こえてくる……気がする。

「お初にお目に掛かります、アーネスト・ハイランドです。この度は、先触れもなしに押しかけてしまい、申し訳ありません。かわいい婚約者と離れがたく、つい追って来てしまいました」

 アーネストは売られた喧嘩を買う気はなさそうで、ひとまず安心した。
 基本的に王族は目下の者に頭を下げたり謝罪することはしてはいけないんだけど、他国の元姫でかなりの年上、しかも一応は婚約者の身内ということで、アーネストはおばあさまに礼を尽くした形になる。
 おばあさまは扇子をパッと開いてにっこり笑って、またパチンと扇子を閉じた。あの動きに一体何の意味が。

「さあさ、堅苦しいのはこれまでにして、お茶にしましょう。そちらにお掛けになって」

 すごく和やかにお茶を勧められ、応接室のテーブルにアーネストと並んで腰を落ち着ける。
 テーブルには俺の好きなお菓子ばかりが山のように積まれていて、おばあさまが俺の訪問を心から楽しみにして下さっていたのが伺えた。


「それにしても、夏季休暇とは言え長期間城を留守にして、ご公務は大丈夫なの?」

「ええ、多少短期間に無茶をしましたが、手を付けられるものはあらかた済ませて参りましたので。帰ればまた仕事は山積みでしょうが、レニと旅行できるのだから、どうということはありません」

 二人が世間話をしている間、俺は大好きなマドレーヌに手を伸ばした。モグモグと頬張ると、バターと蜂蜜の香りが口いっぱいに広がる。うーん、しあわせ。
 紅茶で喉を潤して、今度はマカロンに手を伸ばし、齧りつく。

「あらまあ、やっぱり王太子ともなるとご公務もお忙しいのよねえ。10年以上もレニちゃんをデートにも誘えないぐらいですもの」

「ングッ」

 突然鳴らされたおばあさまのゴングに、俺はマカロンを詰まらせそうになった。
 やっぱり、おばあさまは相当お怒りだ!


「あ、あのですね、おばあさま。若気の至りで俺もいろいろ言いましたが、今はもう何とも思ってないので」

 慌ててフォローを入れようとするが、おばあさまの目は完全に据わっていて、ファイティングモードが解除される見込みがない。こうなったおばあさまは誰も止めることができないのだ。
 俺はあわわ、と震えながらなすすべもなく傍観することしかできない。

「いーえ!今日という今日は訊かせてもらうわ。わたくしのかわいいレニちゃんの、一体どこが気に入らないっていうのかしら?聞けばデートどころか、誕生日の贈り物もなければ、過酷な王妃教育でレニちゃんが体調を崩しても、お見舞いの花さえなし。公爵家への訪問も、二人きりでお茶を飲んでお喋りすることも、一度だってないと聞いているわ。6歳で婚約してから、一度も!」

 やめてくれおばあさま、その攻撃は俺にも刺さる!

「そんなにお気に召さないなら、レニちゃんを返してくださいな!かわりに又甥でも又姪でも、あなたのお気に召す子と婚約なさればいいわ。それで釣り合いは取れるでしょう!」

(おばあさまの又甥・又姪ってファンネの王子と姫ですよね!?そんな犬猫みたいに言わないで下さい!いくらファンネの国王陛下がおばあさまに弱いと言っても、流石に不敬では!?)

 ひえええ、と身を固くしたが、よくよく考えるとそれってアリなんじゃないか?
 ファンネの王族なら、アーネストとも家格の釣り合いが取れるし、容姿も教養も俺とは段違いにいい。政治派閥的にもウチとそんなに変わらないから、実質全てが俺の上位互換って感じだ。

「悪くないかも……」

 ポツリと呟くと、アーネストがバッと勢いよく横を向いて、俺の両肩を掴んだ。

「全然よくないよ!俺はレニたん以外と結婚するなんて絶対にイヤだ!婚約は破棄しないって言ったよね!?」

「いやでもさ、ファンネの王族だよ?俺なんかよりめちゃくちゃ条件いいよ?ルーリク王子とかステラ姫なんかは、ちょっと俺っぽい雰囲気もありつつ文句なしの美形だし、好みのタイプかもよ?会うだけ会ってから決めても遅くなっていうかさあ」

「絶対絶対絶対お断り!この話はこれでおしまい!婚約は破棄しない!俺はレニたんと結婚する!」

「えぇー……」

「これ以上言うなら、今すぐレニたんを城に連れて帰って、休みの間中俺の部屋で生活してもらうから」

 アーネストの目がめちゃくちゃマジだったので、俺はぴったりと口を閉じた。
 コイツの部屋に二週間以上監禁されて二人きりで過ごすなんて、恐怖以外の何物でもない。

「マーガレット様……」

 アーネストはゆらりと立ち上がると、おばあさまの前まで進み出る。
 止めようと手を伸ばした瞬間、アーネストはガバッと地面に両手、両膝をつき、そのまま頭を床に擦りつけた。

「ほんっっっっっっとうに、申し訳ありませんでした――――――――!!!!」

 えっ、ちょっとほんとなんなのそれ。何のポーズなの!?
 許しを請う時ってもっとこう、両膝を折って顔の前で指を組んだりするものだろ!?
 なんで手も頭も床につけて這い蹲ってるんだよ!?怖いよ!!!!

「マーガレット様のお怒りはもっともです!私自身、過去の自分は生きる価値もないクズだったと思います。レニたんの健気さも愛らしさも理解できない、阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐような愚かな人間でした!申し開きようもありません!」

 阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐってなんなんだよ。阿呆ってまさかお前じゃないよな?どんだけ鼻毛を伸ばしたら蜻蛉が結べるようになるんだよ。
 あと、言葉遣いはかろうじてまともだけど、ずっとレニたんになってるからな!!!!

「ですがっ!ようやく目が覚めました!レニたんは世界の至宝!天上から迷い落ちた天使!!!!これからは私の人生の全てをレニたんに捧げ、これまでの愚行の償いをさせて頂きます!ですから、どうか、どうか今一度挽回の機会を私にお与えください!」

 アーネストが一気に言い切ると、おばあさまはまたしても扇子を開いて、口元を隠した。
 そして、暫く考え込んだ後、「いいでしょう」と頷く。

「真に目が覚めたと言うのならば、その償いの姿とやらをわたくしに見せて頂きましょう」

「ありがとうございます!」

「とはいえ――――あなたがレニちゃんの生涯の伴侶として相応しいかどうか、それが判断できるのは、私ではありません。レニちゃん自身です」

 さすがおばあさま!いいこと言う!!!!
 俺は心の中でおばあさまに喝采を送った。やっぱりおばあさまは俺の一番の味方です!

「ですから、この屋敷に滞在する間、あなたにはその償いとやらを心ゆくまでやって頂きましょう。そして、この屋敷からハイランドに帰る日に、あなたと婚約を継続するか否か、レニちゃんに決めてもらいます!」

「えっ、ちょ、おばあさま?」

 そういう展開になります!?ていうか、その条件で行くと、俺はこの屋敷に滞在してる間、コイツの償いとやらから逃れられないってことなんでは?
 しかも、最終的に三行半を突き付けてコイツに恨まれるのも俺ですよね!?

「最終日にどうなるか、とくとこの目で拝ませていただくわ!」

 おほほほほほほ、と立ち去っていくおばあさまに、俺は何一つ意見できなかった。
 アーネストは感極まって涙を流し、いつの間にやら俺の横に来て、呆然としている俺の手を取り、これからの抱負をべらべらと垂れ流しているが、俺の耳には何一つ内容が入って来ない。



「レニたん、俺は頑張るからね!!!!!」




  ―――――ほんと、一体どうしてこうなった!!!!!?????






しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...