転生主人公な僕の推しの堅物騎士は悪役令息に恋してる

ゴルゴンゾーラ安井

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7.男爵令息の揺らぎ

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 事の起こりは、今週の水曜日のことだ。

 僕ってば顔は主人公だけあって可愛いし、結構男子生徒からも人気があるの。んで、同じぐらい色んな人から嫌われてもいるわけ。そりゃそうだよね、あんだけアーネストに馴れ馴れしく近付いた上、まんまと仲良くなってんだもん。面白いわけがない。

 で、僕の下駄箱の中はいつも手紙でいっぱい。
 中身はラブレターだったり、嫌がらせだったり、果てはカミソリとか物理的にやばいものが入ってたり、色々なんだけど、アーネスト狙いの僕にとってはどれも等しくゴミなわけで、大体いつもボッシュート。

 そりゃあさ、好意持ってくれてる人には悪いとは思うよ。
 だけど、毎日毎日下駄箱の中に50通近い手紙が入ってるんだよ?
 そんなの、開けて目を通すだけでめちゃくちゃ時間が掛かるし、返事なんてとてもムリ。誰か一人に返事書いたら、何で自分にはってなっちゃうでしょ?
 おまけに、僕は奨学生だから、勉強しなきゃなんだって。そんなくだらないことに割いてる時間なんて1秒もない。

 たまに『手紙読んでくれた?』って聞いてくる人もいるけど、その時は普通に理由を話して謝れば大抵収まりがつく。
 ……んだけど、その日はたまたまちょっと性質のよくない上級生に当たってしまってさ。
 手紙を受け取ったはずの1点張りで、すっごくしつこくて、果てはキレて暴力ふるって来そうになったわけ。


 そうしたら、なんとレニオールがやってきて、僕の前に立ち塞がったの。僕を背中に庇うんじゃなくて、いかにも自分が文句言いに来ましたって感じで、手を腰に当てて、小さな体で精一杯の仁王立ち。
 そんで、僕に花瓶の水をぶっかけた。

「僕の忠告を無視して、アーネスト様に近づくなんていい度胸だよね。さっさと消えてくれない?」

 ツンとした口調で言うレニオールに、僕も上級生も呆気に取られた。僕は頭から水を被って髪から水が滴ってる。
 割り込まれた上級生も、流石にノクティス公爵令息には文句が言えないみたいだ。

「毎日手紙を貰ってるからっていい気になってるの?あんなの全部お世辞なんだから、僕が捨ててあげたよ。ゴミを処分してあげたんだから、感謝してよね」

「なっ……」

 自分の手紙をゴミと言われて、先輩も流石に憤る。
 だけど、レニオールにチラッと視線を向けられると、ぐっと堪えて口を噤んだ。

「なに?君まさか、こんなやつのために本気で手紙を書いたわけじゃないよね?仮にも伯爵家の人間が」

「そ……それは……は、はい。まさかこんなやつ!からかっただけですよ!」

「そうだよね。それで、僕が手紙を捨てたのに、何か文句でもあるの?」

「あ、ありません!」

「だよね。どうせ嫌がらせの手紙だものね。……あれ?君、まだいたの?見苦しいからさっさと消えて」



 僕は今度こそ、走って寮に帰った。レニオールが直接あんな人前で僕に嫌がらせして来るのなんて初めてで、僕は何が何だかわからない。
 それに、さっきのはどう考えても僕を助けてくれたようにしか思えなかったから。

(なんで?一体なんで、レニオールが???)

 帰って僕は濡れた制服をハンガーに掛けて乾かし、頭を洗いに洗面所に行った。
 花瓶の水は綺麗だったから、乾けば問題なく着れる。

 みんなもしかしたら察してるかもしれないけど、髪を洗って戻ってきた僕の部屋の前には、新品の制服が一式置かれていた。シャツだけじゃなく、スラックスやブレザー、タイに至るまで。
 もうさ、僕は脱力するより他になかった。この一式、いくらだと思う?100G、日本円にして百万円だよ。
 おまけに、気遣いなのか風邪薬まで添えてある始末だよ。薬なんて、めっちゃ高いんだよ?

 僕は認めるしかなかった。レニオールは、いいやつだ。レニオールに僕を苛めて苦しめようという意思はない。
 それどころか、婚約者を奪い取ろうとする憎い恋敵の窮地を助けようとしたりする。
 ウィルフレッドの言葉が頭の中を駆け巡った。

(レオニール様は、たおやかで慎み深く王太子妃に相応しいお方、か……ほんとにそうかも)

 いくら家族のためとはいえ、人の婚約者を横取りしようとする僕なんかとは、人としての格が違う。さすが、僕の推しは人を見る目があるよ。僕がレニオールの友達だったら、僕だってそいつに文句言いに行くに決まってる。
 ていうか、アーネスト!いくらハートレスだからってあんな出来た婚約者に靡かないなんてどっかおかしいんじゃないの!?いや、おかしいからハートレスなんだけどさあ!!!!!


 
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