京助さんと夏生

神谷レイン

文字の大きさ
24 / 29
クリスマスには

2 懐かしの場所で

しおりを挟む


 ――――それからあっという間に時間が経ち、クリスマス当日。
 街中はどこもかしこもイルミネーションで飾られ、クリスマスソングが流れている。
 そんな中、俺と京助さんはタクシーであるホテルへと来ていた。

「前と変わらないな、ここは」

 京助さんはタクシーを降りるなり、ホテルを見上げて呟いた。なにせ俺達がやって来たホテルは、三年前俺の誕生日に来たホテルだったからだ。
 そして三年前のクリスマスデートのリベンジを兼ねて、俺はここでのクリスマスデートを計画をし、今日やってきた。だけど……。

「京助さん」
「ん、どうした?」

 俺の呼びかけに振り返る京助さんを見て、俺はため息を吐く。

 ……三年前にも思ったけど、本当にこの人は自分の見た目がどんなだかわかってないのかな?

 俺はそう思いながら京助さんを改めて見る。そこにはロングコートの下にスーツを着こなし、前髪を上げている京助さんがいた。

 ……あーもう、格好いいな。俺なんか、ようやくスーツに着なれてきた感じなのに。

「夏生?」
「ううん、何でもない。早く行こう」

 俺が誘うと京助さんは「ああ」と返事をして俺の隣を歩いた。
 そして俺達はホテルの中に入り、前と同じようにエレベーターに乗り込んで最上階へと向かう。
 最上階に着くと、レストランの受付。そうすればホールスタッフが席へと案内してくれた。以前とは違う席だけど、十分景色のいい席だった。

 ……席は違うけれど、あの頃に戻ったみたいだな。不思議な感じ。

 俺はそう思いながら席に着くけれど、俺の前に座る京助さんは感慨深そうに呟いた。

「まさか、夏生とまたここに来ることになるとはな」

 京助さんの言葉に俺は三年前の事を思い出す。

 ……あの後、京助さんは俺から離れたからな。俺は何も知らなかったけど、京助さんはあれが最後だとわかってた。一体、どんな気持ちでいたんだろうか。

 俺は目の前に座る京助さんを見て思う。俺の為に身を引いた京助さんの気持ちを想って。
 だが、考えに耽る俺に京助さんはメニュー表を見て声をかけた。

「夏生、ドリンクはどうする?」
「あ、ドリンク」

 俺は我に返り、慌ててテーブルに置かれていたドリンクメニュー表を見る。

「俺は白ワインにしておくが、夏生は? またジンジャエールにしておくか?」
「あ、じゃあ、俺はそれで」

 俺が答えると「畏まりました」とホールスタッフの人は答えて、メニュー表を受け取り去って行った。

 ……俺も白ワイン、って答えたいところだけど酔っぱらいそうだしな。お酒はこの後の楽しみに取っておこう。この後はバーに行くつもりだし。それに白ワインって言えば、お酒の力に頼って京助さんを誘惑したことを思い出すし。あの後大変だったもんなぁ……。

 俺は頬を少しだけ赤らめながら思い出し、またもピンク色の思考になりそうだったので考えるのを止めた。そして思考を変えようと京助さんに話しかける。

「今回の料理、楽しみだね」
「ああ、そうだな。今回も美味しいといいな」

 京助さんはそう言いつつテーブルに置かれたナプキンを取って膝の上に置いた。それに倣って俺もナプキンを手に取る。
 でもそんな俺を京助さんはじっと見た。

「なに?」
「いや、まさか夏生にここへ連れてきてもらうとは夢にも思ってなかったから、不思議だと思ってな。初めて連れて来た時はあんなに緊張してたのに、今じゃ落ち着いてるし」

 京助さんは三年前の事を思い出したのか、ふふっと笑った。そして、その時の事を俺も思い出して少し恥ずかしい気持ちになる。

 ……確かにあの時の俺、慣れない場所で落ち着きがなかったもんな。

「まあ、二回目だからね。それにあの時は、京助さんがいいところのレストランだって言う事しか教えてくれてなくて、連れてこられてビックリしたんだから!」
「それもそうだったな」

 京助さんはくすくすっと笑いながら答えた。
 でもそんな会話をしている内にドリンクが運ばれてきた。京助さんには白ワイン、俺にはジンジャエール。

「じゃあ、とりあえず乾杯するか」

 京助さんはグラスを掲げ、三年前と同じように俺達は乾杯する。そして白ワインを口に運ぶ京助さんを見ながら、俺は何とも言えない気持ちが巡った。

 ……本当に不思議な気持ちだ。三年前と同じだけど同じじゃなくって。京助さんとこうして一緒にいられる未来がまた来るなんて。その上、京助さんは俺の恋人。

 俺はどこか胸がほわほわした気持ちで京助さんを見つめる。

「夏生?」

 京助さんに呼びかけられて俺はハッとし、「ううん、なんでもない」と答えてジンジャエールが入っているグラスを慌てて飲んだ。
 そして他愛のない話をしつつ、次々と運ばれてくる料理を美味しく食べながら時間を過ごし、最後のデザートが運ばれてきた。

 ティラミスと一緒に飾られたフルーツ達。見た目も味も美味しそうだ。
 だから俺は『デザート、美味しそうだね』と声をかけようとした。
 でもその時、俺は京助さんが小さく眉間に皺を寄せている事に気が付いた。

「……京助さん、どうかした?」

 ……京助さん、なんだか険しい顔をしてる? デザートが苦手だったとか? でも京助さんがティラミス嫌いって聞いた事ないよな。

 俺は目の前にあるティラミスとフルーツが添えられたひとプレートを見て思う。けれど京助さんは別の事で険しい顔をしていたようだ。

「いや……少し後ろに座っている女性がお前を見ている気がしてな」
「え?」

 俺は小さく驚いて、後ろを振り返ってみる。でも俺を見ている人はいない。

 ……というか、それって俺じゃなくて京助さんを見てたんじゃないの?

 俺は京助さんに視線を戻して思う。だって京助さんは男の俺から見ても格好いい。

「それ、京助さんを見ていたんじゃないの?」
「いや、俺じゃない」

 京助さんはそう断言するけれど、この席に案内されるまでもスタッフさんや席に着いていた女性達の視線を集めていた。だから全然説得力がない。

「京助さんってさ、今までかなりモテてきたでしょ」
「ん? いきなり何の話だ?」

 京助さんは困惑した顔を見せたけど、否定しないってことはそう言う事だ。

 ……やっぱりそうだよね。これだけの人だもんな、モテない訳ない。今までだって、付き合ってきた人もきっと一人や二人じゃない筈。……昔、京助さんの部屋でえっちなDVDを見つけたことあるけど、それも前に付き合ってた人が置いていったやつだとか言ってたし。

 そう思ったらなんだかムカムカしてきた。過去の事だから仕方のないことだけれど。
 なので俺はムカムカを、甘くてちょっとほろ苦いティラミスを食べて中和する。それに何より、今は京助さんとのクリスマスデート中だ。
 過去に嫉妬して、この楽しい時間をつまらないものにしたくない。

「夏生?」
「京助さん、デザートおいしいよ」
「そうか?」

 京助さんは怪訝な顔をして答えつつ、俺と同じようにティラミスを口に運ぶ。
 けれど、京助さんばかりを見ている俺は気が付いてなかった。俺を見ている視線にーーーー。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...