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クリスマスには
2 懐かしの場所で
しおりを挟む――――それからあっという間に時間が経ち、クリスマス当日。
街中はどこもかしこもイルミネーションで飾られ、クリスマスソングが流れている。
そんな中、俺と京助さんはタクシーであるホテルへと来ていた。
「前と変わらないな、ここは」
京助さんはタクシーを降りるなり、ホテルを見上げて呟いた。なにせ俺達がやって来たホテルは、三年前俺の誕生日に来たホテルだったからだ。
そして三年前のクリスマスデートのリベンジを兼ねて、俺はここでのクリスマスデートを計画をし、今日やってきた。だけど……。
「京助さん」
「ん、どうした?」
俺の呼びかけに振り返る京助さんを見て、俺はため息を吐く。
……三年前にも思ったけど、本当にこの人は自分の見た目がどんなだかわかってないのかな?
俺はそう思いながら京助さんを改めて見る。そこにはロングコートの下にスーツを着こなし、前髪を上げている京助さんがいた。
……あーもう、格好いいな。俺なんか、ようやくスーツに着なれてきた感じなのに。
「夏生?」
「ううん、何でもない。早く行こう」
俺が誘うと京助さんは「ああ」と返事をして俺の隣を歩いた。
そして俺達はホテルの中に入り、前と同じようにエレベーターに乗り込んで最上階へと向かう。
最上階に着くと、レストランの受付。そうすればホールスタッフが席へと案内してくれた。以前とは違う席だけど、十分景色のいい席だった。
……席は違うけれど、あの頃に戻ったみたいだな。不思議な感じ。
俺はそう思いながら席に着くけれど、俺の前に座る京助さんは感慨深そうに呟いた。
「まさか、夏生とまたここに来ることになるとはな」
京助さんの言葉に俺は三年前の事を思い出す。
……あの後、京助さんは俺から離れたからな。俺は何も知らなかったけど、京助さんはあれが最後だとわかってた。一体、どんな気持ちでいたんだろうか。
俺は目の前に座る京助さんを見て思う。俺の為に身を引いた京助さんの気持ちを想って。
だが、考えに耽る俺に京助さんはメニュー表を見て声をかけた。
「夏生、ドリンクはどうする?」
「あ、ドリンク」
俺は我に返り、慌ててテーブルに置かれていたドリンクメニュー表を見る。
「俺は白ワインにしておくが、夏生は? またジンジャエールにしておくか?」
「あ、じゃあ、俺はそれで」
俺が答えると「畏まりました」とホールスタッフの人は答えて、メニュー表を受け取り去って行った。
……俺も白ワイン、って答えたいところだけど酔っぱらいそうだしな。お酒はこの後の楽しみに取っておこう。この後はバーに行くつもりだし。それに白ワインって言えば、お酒の力に頼って京助さんを誘惑したことを思い出すし。あの後大変だったもんなぁ……。
俺は頬を少しだけ赤らめながら思い出し、またもピンク色の思考になりそうだったので考えるのを止めた。そして思考を変えようと京助さんに話しかける。
「今回の料理、楽しみだね」
「ああ、そうだな。今回も美味しいといいな」
京助さんはそう言いつつテーブルに置かれたナプキンを取って膝の上に置いた。それに倣って俺もナプキンを手に取る。
でもそんな俺を京助さんはじっと見た。
「なに?」
「いや、まさか夏生にここへ連れてきてもらうとは夢にも思ってなかったから、不思議だと思ってな。初めて連れて来た時はあんなに緊張してたのに、今じゃ落ち着いてるし」
京助さんは三年前の事を思い出したのか、ふふっと笑った。そして、その時の事を俺も思い出して少し恥ずかしい気持ちになる。
……確かにあの時の俺、慣れない場所で落ち着きがなかったもんな。
「まあ、二回目だからね。それにあの時は、京助さんがいいところのレストランだって言う事しか教えてくれてなくて、連れてこられてビックリしたんだから!」
「それもそうだったな」
京助さんはくすくすっと笑いながら答えた。
でもそんな会話をしている内にドリンクが運ばれてきた。京助さんには白ワイン、俺にはジンジャエール。
「じゃあ、とりあえず乾杯するか」
京助さんはグラスを掲げ、三年前と同じように俺達は乾杯する。そして白ワインを口に運ぶ京助さんを見ながら、俺は何とも言えない気持ちが巡った。
……本当に不思議な気持ちだ。三年前と同じだけど同じじゃなくって。京助さんとこうして一緒にいられる未来がまた来るなんて。その上、京助さんは俺の恋人。
俺はどこか胸がほわほわした気持ちで京助さんを見つめる。
「夏生?」
京助さんに呼びかけられて俺はハッとし、「ううん、なんでもない」と答えてジンジャエールが入っているグラスを慌てて飲んだ。
そして他愛のない話をしつつ、次々と運ばれてくる料理を美味しく食べながら時間を過ごし、最後のデザートが運ばれてきた。
ティラミスと一緒に飾られたフルーツ達。見た目も味も美味しそうだ。
だから俺は『デザート、美味しそうだね』と声をかけようとした。
でもその時、俺は京助さんが小さく眉間に皺を寄せている事に気が付いた。
「……京助さん、どうかした?」
……京助さん、なんだか険しい顔をしてる? デザートが苦手だったとか? でも京助さんがティラミス嫌いって聞いた事ないよな。
俺は目の前にあるティラミスとフルーツが添えられたひとプレートを見て思う。けれど京助さんは別の事で険しい顔をしていたようだ。
「いや……少し後ろに座っている女性がお前を見ている気がしてな」
「え?」
俺は小さく驚いて、後ろを振り返ってみる。でも俺を見ている人はいない。
……というか、それって俺じゃなくて京助さんを見てたんじゃないの?
俺は京助さんに視線を戻して思う。だって京助さんは男の俺から見ても格好いい。
「それ、京助さんを見ていたんじゃないの?」
「いや、俺じゃない」
京助さんはそう断言するけれど、この席に案内されるまでもスタッフさんや席に着いていた女性達の視線を集めていた。だから全然説得力がない。
「京助さんってさ、今までかなりモテてきたでしょ」
「ん? いきなり何の話だ?」
京助さんは困惑した顔を見せたけど、否定しないってことはそう言う事だ。
……やっぱりそうだよね。これだけの人だもんな、モテない訳ない。今までだって、付き合ってきた人もきっと一人や二人じゃない筈。……昔、京助さんの部屋でえっちなDVDを見つけたことあるけど、それも前に付き合ってた人が置いていったやつだとか言ってたし。
そう思ったらなんだかムカムカしてきた。過去の事だから仕方のないことだけれど。
なので俺はムカムカを、甘くてちょっとほろ苦いティラミスを食べて中和する。それに何より、今は京助さんとのクリスマスデート中だ。
過去に嫉妬して、この楽しい時間をつまらないものにしたくない。
「夏生?」
「京助さん、デザートおいしいよ」
「そうか?」
京助さんは怪訝な顔をして答えつつ、俺と同じようにティラミスを口に運ぶ。
けれど、京助さんばかりを見ている俺は気が付いてなかった。俺を見ている視線にーーーー。
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