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クリスマスには
5 翌朝
しおりを挟む――――早朝。
目が覚めて、ゆっくりと瞼を開けるとすぐ傍に寝入っている京助の顔があった。
……京助、さん?
一瞬、ここがどこだかわからなくなる。けど、すぐにホテルに泊まったことを思い出した。そして昨晩の熱い夜も。
……そうだ。俺、京助さんと。
いつにも増して爛れた夜だったと振り返り、俺は一人悶える。けれど、そのおかげで悲しい思い出はすっかり楽しい思い出に塗り変わってしまった。
……やっぱりここに来て良かったな。
俺はしみじみと思い、そして眠る京助さんの頭をそっと撫でた。
シャワーを浴びたので、ワックスは落ち、いつもの柔らかい髪に戻っている。指を通る髪の感触に俺はほくそ笑む。
……格好いい京助さんも素敵だけど、俺はいつもの京助さんがやっぱり好きだな。まあ、だらしない格好してたって、それはそれで妙に色っぽいんだけど。
俺は執筆明けの京助さんを思い出すが、髪の感触を楽しんでいると京助さんの瞳がゆっくりと開いた。
「……ん?」
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
俺は慌てて撫でていた手を引っ込める。一方京助さんは寝起きの顔で俺を見た。
「いや……それより早起きだな」
「なんだか目が覚めちゃって」
「そうか。……腰は大丈夫か?」
俺は京助さんに言われて、すぐに昨日の自分の痴態といつも以上に積極的だった京助さんを思い出し、俺は頬が熱くなる。でも何とか返事をしておいた。
「う、ん……大丈夫」
「本当に大丈夫か?」
俺が曖昧に答えたからか、京助さんはもう一度心配げに聞いてくる。だから俺はハッキリと「大丈夫だよ」と答えた。
そうすると京助さんは「そうか」と返事をした。どうやら俺が本当に大丈夫だとわかったみたい。ま、正直言うとちょっと痛いけど。
……でもそんなこと言ったら京助さん、優しいから心配しちゃうし。また、あの積極的な京助さんを見たい。
だから俺は黙っていた。でも、そんな俺の髪を今度は京助さんが撫でる。しかも少し何か考えてる顔で。
「京助さん?」
「いや……昨日会ったあの子。逃がした魚はでかかったな、と思ってな」
「逃がした魚?」
何の事だろう? と思うけれど、その意味が俺自身と言う事にハッと気が付く。
「え、俺の事? 俺、別に大きくないけど」
「俺にとってはとんでもなく大きいよ」
京助さんに言われ、俺は褒められたみたいで少し照れくさくなる。
「俺なんて魚だったとしても、まだまだ小魚だよ。それに……それを言うなら京助さんの方が」
俺は大人になって社会人になった、でも目の前にいる男にはまだ程遠い。
けれど京助さんはおかしそうに笑った。
「俺は見せかけだけだ、夏生が思ってるほどじゃない。でもまあ、夏生にそう思われて嫌な気はしないけどな」
……見せかけだけじゃないのに。
俺は京助さんを見ながら思う。でも京助さんは「そうだ」と何かを思い出した様子で体を起こした。なので俺もつられて体を起こす。
「京助さん、どうしたの?」
俺が尋ねれば京助さんはベッド側に置ていた鞄から何かを取り出した。そして俺に差し出す。それは綺麗に包装された、手に乗るほどの大きさの小さな箱だった。
「これって」
「クリスマスプレゼント」
クリスマスプレゼントを貰えると思っていなかった俺は驚く。京助さんはこういう物を贈りあったりするのが苦手だと昔言っていたから。
「本当は昨日渡そうと思っていたんだが、渡すタイミングがなかったからな」
「ありがとう。でも俺、何も用意してないよ」
「何言ってんだ。昨日の食事もここの部屋も用意してくれただろ」
「それはっ、京助さんがいつも何かと払ってくれるから今回は俺でって事で」
……それに三年前のリベンジをしたかったからだし。
「まあ、いいじゃないか。それより開けないのか?」
京助さんに促され、俺は「開ける」と返事をして、一番外側につけられているリボンから外していく。
……中は一体なんだろう?
そうワクワクしながら。
そして包装紙も外して、中から出て来たしっかりとした箱をそっと開けると、そこには格好いい腕時計が入っていた。俺はその腕時計の格好良さに目を奪われる。
でもすぐに時計に刻まれた高級腕時計メーカーのブランド名に気が付いた。
「京助さん、これ!」
「気に入ってくれたか?」
「それは勿論! でも……これって高かったんじゃないの?」
値段はわからないけれど、入れ物の箱もしっかりしたものだ。安物ではないことは一目瞭然。
……一体、いくらしたんだろう。
俺はちょっと心配になってしまう。でも京助さんは「気にするな。俺がいいヤツをあげたかったんだ」と言うだけで。
これ、絶対高かったやつだ。と俺は察してしまう。
でも値段よりも何よりも、京助さんがくれたって事が何より嬉しい。だから俺は。
「京助さん、本当にありがとう。こんな素敵な腕時計を俺に選んでくれて。……俺、大事に使うね」
素直にお礼を言うと京助は目を細めて嬉しそうに笑った。
その優しい笑みが、なんだかとても愛しくて。
俺は京助さんの温かい体に寄り添い、そっと手を繋いだ。
「京助さん」
「ん?」
「ありがとう」
「それはさっき聞いたよ」
京助さんはくすっと笑って言った。でも違うんだ。
……違うよ、京助さん。いつもいつも俺に優しくしてくれて、ありがとう。
俺は心の中で小さく呟いた。
「ねぇ、京助さん。クリスマスだけじゃなくって、こうしてこれからも二人ででかけてデートしようね」
俺が提案すれば京助さんは「ああ」と答えた。
そして俺達は互いに見つめ合い、自然と顔を寄せ、唇を合わせて甘いキスをする。
でも唇をそっと離せば、京助さんの瞳にはまた熱が籠っていた。
「夏生、まだチェックアウトまでは時間があるから、昨日の続き、しようか」
京助さんに甘く耳元で囁かれて、俺は「ん」と少し顔を赤らめて答える。
俺も甘いキスだけでは物足りないと思っていたから。
そして俺達はチェックアウトの時間までベッドの上で過ごしたんだけど、ゆっくりしすぎて最後は慌てて出ることになってしまった。
けれど悲しい思い出はすっかり消えて――――思い出は楽しいものへと変わり、京助さんがくれた腕時計は俺の一番の宝物になった。
そして、それはずっと俺と共に時を刻み、俺がおじいちゃんになっても……ずっと俺の宝物だった。
おわり
******************
甘々なクリスマス話でした~(^-^)
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