殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

文字の大きさ
121 / 121
《おまけ3》殿下、温泉旅行ですか??

7 ジークの呟き

しおりを挟む
 ――――けれど、それから少し経った王城では。

 二人の帰りを待つ、レオナルドの両親であるカレンとアイザックは、遅めのブランチを同じテーブルで取っていた。しかし二人の話題といえば、勿論三男坊夫夫の事で……。

「カレン、セスとレオナルドはそろそろ戻ってくる時間か?」
「ええ、ようやくよ! レオナルドってばセスの誕生日を独り占めしたいからってセスを温泉旅行に連れ出すんだから!」

 カレンはぷりっと怒りながら手にしていたティーカップをソーサーに音を立てて置いた。そして怒っている妻を前にアイザックは優しく宥める。

「まあまあ、いいじゃないか。二人はまだ新婚なんだし」
「そうかもしれませんけど、私だってセスの誕生日を当日に祝いたかったのに!」
「カレンは本当にセスが好きだな」
「だってセスってば可愛いんですもの! 貴方だってわかるでしょう?」
「うーん、まあそれはなぁ」

『へいかぁ、こんにちわぁー』と可愛らしい声で挨拶をしていた小さい頃のセスを思い出して、アイザックは思わず同意してしまう。それに最近も『陛下、あんまり無理しないでくださいね』と心配げに、腰に貼る薬科湿布を持ってきてくれた。

 一方、実の息子達と言えば腰の痛みを訴えても『歳じゃないですか?』というぐらいあっさりとしていて。なおかつ、三人の息子達は可愛いと言うより自分に似て逞しいという言葉の方が合っている。

 ……長男のアレクサンダーは真面目だが寡黙だし。次男のランスはお調子者で。三男坊のレオナルドは計り知れないしなぁ。……確かに息子達に比べるとセスは可愛い。

 なので、カレンが言う事もついついわかってしまうアイザック。

「それにセスってば、もう本当に健気なんですのよっ!? レオナルドにプレゼントしたいからって、一生懸命ハンカチに刺繍をして。何度指に針を刺しても、めげずに一針一針心を込めて縫って……あー、もう早く帰ってこないかしら! 誕生会の準備も終わってるし、セスに着せたいドレスも見繕ったのに!」

 最後の不穏な言葉にアイザックは困惑しつつも、そこへ使用人がやって来て彼らが待っていた言葉を発する。

「陛下、王妃様、レオナルド殿下とセス様がお戻りです!」

 その言葉を聞いてカレンは椅子からパッと立ち上がると王妃らしからぬ身の早さで部屋を出て行き、その後ろ姿をやれやれと見送りながらもアイザックも遅れてゆっくりと席を立った。

「さて、私も二人を出迎えるか」

 ……私だって『おめでとう』と祝いたいし、プレゼントも用意しているからな。

 カレンになんだかんだ言っておきながらも、結局は可愛い義理の息子を溺愛しているアイザックであった。




 ――――そしてその後、カレン主催のセス誕生会が開かれ、その誕生会には国王夫妻は当然、アレクサンダー家族や自国にいたランス、薬科室のメンバーやセスと関わりのある人達が集まり、ちょっとしたパーティーになるのだが、それはまだ帰って来たばかりのセスは知らないのだった。





 ◇◇◇◇




 ――――しかし時間は少し巻き戻り。
 セスの誕生日当日には、こんな会話があったり……。


「ねー、じーくぅ、今日ね、えちゅの誕生日なの。会いに行ってもいーい?」

 一人では行動しないように言われているフェニは朝食を作るジークに尋ねた。しかしジークはベーコンを焼きながら引き留める。

「城に行ってもセスならいないぞ、温泉旅行に行くって言ってたからな」
「え、しょなのっ?!」

 知らなかったフェニは驚いた顔で聞き返す。

「ああ。まあ温泉旅行って事だから、サーツ領の温泉街にでも行ってるんだろ。……まあ俺達なら軽く飛んでいけるし、お前なら迎え入れるだろうが……今日は止めとけ。レオナルドの機嫌を損ねるぞ」
「れおの??」
「あいつ、見たところセスへの執着心が凄そうだからな。セスの誕生日は独り占めしたいなんて思ってるんじゃないか? だからこその温泉旅行なんだろ。そんな日に行ったら顔には出さないだろうが、レオナルドに邪険にされるぞ」

 ジークが告げるとフェニは少し考えた後、納得するように「うーん、しょーかも」なんて答えた。なにせフェニは城に住んでいた時、一番傍で二人を見ていたのだ。誰よりもセスに対するレオナルドの執着度はわかっている。

「わかったなら、今日じゃなくて別の日にしろ。セスならいつだって喜んでくれるだろ?」

 ジークが言うとフェニは、いつだって笑顔で迎えて抱きしめてくれるセスを思い浮かべて、すぐに頷いた。

「うん、しょーするっ!」
「なら、今日は大人しくしておけ」

 そう言いつつジークは焼いたベーコンとパンが乗ったプレート皿をフェニに差し出した。

「ほら、朝飯だ」
「ありがと、ジーク。いただきまーす!」

 フェニはそう言うと子供用の小さなフォークを手にして、カリカリのベーコンをぱくっと元気よく食べ始め、ジークも向かいの席に座って同じように朝食を食べ始める。
 しかし、脳裏に浮かぶのはセスに渡したあのランジェリー。

 ……誰だって好きな奴が色っぽい下着を着ていたら喜ぶと思ってセスに渡したが……セスには悪い事をしたかな。

 ジークは何となくそう思う。歳の甲でレオナルドの付き合いが長くなくても数回会っただけで、レオナルドのセスに対する執着は誰よりも強いものだと感じていた。だからこそレオナルドが喜ぶであろうプレゼントをアドバイスしたのだが。

 ……アイツの事だ。味を占めて、セスを言いくるめてまた同じような下着を着せるかもしれないな。あんな顔してすけべそうだし。……やっぱ、セスに悪い事したかも。

 ジークはもぐもぐとパンを齧る。でも考え込むジークにフェニは声をかけた。

「ジーク、どしたの?」
「いや……なんでもない」

 ……今度セスに会ったら謝っておこう。

 そう思いながらジークはベーコンを一切れ食べ、歯切れの悪いジークにフェニは首を傾げたのだった。




 そしてジークの予想通り、セスは今後レオナルドに言いくるめられてえっちな下着を着せられることになるのだが……それはまた別のお話―――――。




 おわり



 ****************



 さて、今回のお話はいかがでしたか?
 まさかの両親との再会があったわけですが、ウィルは相変わらずセスにデレデレでしたね。しかし、ついに”お義父さん”呼びが解禁されてしまいました。ウィルは『フン(。-`ω-)』って感じですけど(笑)
 そして、セスもやっと自分の気持ちを伝えるようになってきました。まあでも、セス君はまだ21歳だし、のんびり屋さんなので、これからもどんどん自己主張するようになる……はず?

 ところで。

 前回の話『殿下、どうしましょう?』のエピローグのあとがきに続編の話をちょこっと書きました。(読んでみてね)ですが、この話とは全然違いますよね?
 前回のあとがきにも書きましたが、続編を書くと長編20話は超えるので未だ書き渋っていて。けれどセスとレオナルドのお話をちょっと書きたいなー、と思ったので、今回は番外編として書きました。
 ということで続編は……またまた気が向いたら(;^ω^)

次回はまた番外編か、はたまた続編が始まるかも?! な感じですが、気長にお待ちいただけたら幸いです。
そして『お気に入り』『いいね』『エール』を送って下さった方々、ありがとうございます~!(*'ω'*)/
しおりを挟む
感想 142

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(142件)

なぁ恋
2023.11.04 なぁ恋

ポチっ
途中まで読んでたの。浮上してきたので最初からまた読んでます。セスの可愛いこと!
面白いよー!!

2023.11.05 神谷レイン

ありがとうございます(^^)

解除
静葉
2022.08.14 静葉

私の夫   になってましたが
レオナルドが夫だから
私の妻   では?
それとも夫夫だから  夫?

解除
静葉
2021.10.31 静葉

大釜 になってましたが
大鎌 では?

解除

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。