婚約破棄から始まるジョブチェンジ〜私、悪役令嬢を卒業します!〜

空飛ぶパンダ

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8.だから、私の視力は2.0でしてよ?

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ローゼリアの放つ笑顔の魅了から立ち直るのが一番早かったのは、さすがこの国の王、ライオネルだった。

「…ローゼリア嬢、そなた、目が見えておらぬのか?報告では特に目が悪いなどとは無かったが…。まぁ、よい。
おい、フェル。そんな離れてエスコートしていては、危ないぞ。もう少し抱き寄せて、いや、お前たちは夫婦になるのだから、抱き上げて運んでやれ。立ち話は辛かろう。……おい、椅子を用意しろ!」

「はっ?いえ、へ、陛下!」

陛下の一声で騎士が慌てて玉座の前に椅子を二脚用意した。
その声に反応し、ようやく魅了から解放されたフェンリルは焦って否定の声を上げようとしたが、間に合わず。
あっという間に二人のための椅子が用意されてしまった。

「………。」

フェンリルは少し考えていたが、結局陛下に逆らわないことにしたのか、ローゼリアへ「リア、少し抱き上げるよ?」と声をかけてから横抱きにして椅子まで運んでくれた。

突然、その逞しい腕に抱き上げられたローゼリアは内心「きゃ~~~‼︎」と喜悦の悲鳴を上げていた。
そっと、ガラスを置くように優しく椅子に降ろされた時には、ローゼリアの頬は恥ずかしさにピンク色に染まり、目には薄ら涙が膜を張っていた。

そのウルウル目で見上げられ、恥じらいながら御礼を言われたフェンリルの胸はキュンキュン鳴りっぱなしであった。

(自分の嫁が可愛すぎて辛いっ!!!)

またもフェンリルは未来の嫁にメロメロにされかけたが、騎士団長としての威厳を損なわないよう、必死に自分を抑えた。ライオネルはローゼリアが椅子に腰掛ける前に王座へ腰掛けていたので、最後にフェンリルも用意された椅子に腰掛けた。

「……このたび、陛下の御心がけで隣国アルカディア王国より、マーガレット公爵家のローゼリア嬢が当家へお越しになられました。
ローゼリア嬢は長旅で体調を崩しておられ、最近まで床に伏せっておりました。そのため、ご報告が遅くなり大変申し訳ございません。」

「よいよい。それよりも体調はもう大丈夫なのか?我が国の願いを叶えるため、ローゼリア嬢には辛い思いをさせたな。」

ライオネルが強面の顔を心配気に歪めた。大型の肉食獣のような風貌の男が、シュンと落ち込んでいる様は、なんとも可愛らしく感じる。

……フェンリル様といい、ライオネル様といい、この国の男性は、私のをピンポイントで連打してきて、たまりませんわ‼︎

ローゼリアが内心激しく悶えているとも知らず、黙ったままの彼女を心配した男達の会話は続く。

「…陛下、先程から彼女を心配して頂きありがとうございます。しかし、彼女は健康で、視力に問題はありません。ですから、ご心配には及びません。」

フェンリルはいつになくキッパリとライオネルへ否定の言葉を告げた。

「…は?目が悪くない、だと?では、なぜ、わしらを見て態度が変わらぬのだ?フェルに愛称呼びまで許し、触られても厭うておらんようだったが……我慢、しておるのか?」

「………。」

フェンリルはライオネルの疑問に言葉が詰まる。している可能性……あり得る。
彼女は、王命で嫁いできた身。内心では我々を厭うていても、彼女も貴族としてそれを表に出さぬよう訓練を受けているだろう。
彼女が我慢して己と接してくれている……その可能性に気付かず浮かれていたさっきまでの自分を殴り倒したい。どれほどの苦痛を彼女に強いていたのか。彼女に会う前に誓った事を忘れ、彼女の優しさに甘えていた自分に呆れる。

フェンリルが後悔の渦に飲み込まれ落ち込み出した頃、ローゼリアは二人の会話を聞いて思った。そして、あまり頭で考えて発言するのが苦手なローゼリアは、そのまま思った事を言った。

「……発言をお許しください。」

「ん?ローゼリア嬢、どうした?楽にせよと先に言っただろう?許可など取らずとも遠慮なく申せ。」

「ありがとう存じます。あの、陛下。
私の視力は2.0ですわ。人並みによく見えております。それに、生まれてこの方病気にはかかったことがありません。旅の疲れで伏せっておりましたが、基本、健康体です。フェル様のおっしゃったとおり、ご心配には及びませんわ。

それと、なぜ、皆様を私が厭うのです?自分で言うのもなんですが、私こそ、皆様に厭われているのでは?
もしや、報告に無かったのでしょうか。

……私は自国で第一王子の婚約者でした。ですが自らの過ちの結果、婚約破棄された傷物です。本来ならば、高齢の貴族の後妻か、修道院に入るべき娘です。
…罰を受けるべき身ですのに、こちらの国へ嫁ぐよう命じられました。
ですが、愚かな私には、なにが罰なのか未だに分からないのです。

先程からお二人が心配されているのは、私が受けるべき罰について、お二人は何かご存知だからですか?
……私は本当に悪い人間でした。
ですから、どんな罰でも甘んじて受けるつもりです。

……私は一体どんな罰を受けるのですか?」


それは、汚れた肌の厭われた国の者に対して発するには、含みのない純粋な問いであった。

そんなローゼリアに、だとは、答えることができる者はこの場に一人もいなかった……
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