24 / 45
(5)
しおりを挟む会社を出て向かったのは、すぐ近くにあったハンバーガーショップだった。
夢丘が一時も早くシミュレーションをしたがったからだ。
「どういう順番で考えていけばいいですか?」
ハンバーガーを食べるのももどかしいというように夢丘が口火を切った。
「そうだね。大事なことは利益が出るかどうかということだから、収入と支出から始めればいいと思う」
わたしはバッグからメモ帳を取り出して、そこに線を引き、収入欄と支出欄を作成して、支出欄に賃料15万円/月と記入した。
もちろんこれ以外にも色々なものが見込まれるが、消耗品などは施術する人数によって変化するので、あとで考えることにした。
「次は収入面だけど、これは、客単価*人数*稼働日数になるから、それを教えてくれる?」
すると、客単価は今勤めているお店と同じにしたいという。
「カットとパーマとトリートメントで15,000円にしようと思っています」
カットとカラーとトリートメントの場合も同じ金額を考えているという。
「では、1日に施術できる人数だけど、何人くらい可能?」
「そうですね~、1人に2時間から2時間半くらいかかると思いますので、1日に3人から4人くらいでしょうか」
アシスタントがいればもっと捌けるが、1人ですべてをこなすとすると、これが限界だという。
「では、1日に3人として、月に何日働ける?」
「はい、休みを週に1日とすると、26日くらいは働けると思います」
「それって無理はない?」
「えっ?」
「頑張りすぎて病気になったら意味がないから、余裕を持った働き方を考えた方がいいんじゃないかと思うんだけど」
「でも、面貸しとは言え、開業するのですから頑張らないと」
「うん。それはわかるけど、施術だけではないんだよ。集客のための広告やホームページの開設と管理、それから、経理業務なんかがあるんだから、その時間も見ておかないと」
「そうか~」
「完全週休二日は無理としても、隔週二日は確保した方がいいと思うよ」
「そうですね、わかりました。では、営業日は24日間とします」
これで全部の条件がそろったので、計算式に数字を入れた。
15,000円*3人*24日=108万円
「わっ、凄い。100万円を超えた!」
瞳の中にピンクのバラが咲いたような声を出したので、思わずわたしは笑ってしまった。
「なんで笑うんですか?」
「いや、余りにもすごいリアクションだったから」
「だって……」
それがどうしていけないの、というふうに口を尖らせたので、もっといろんな試算をして、現実的な予測を立てなければいけないことを説明した。
そして、1日の来店客数や稼働日数に色々な数値を当てはめて、シミュレーションを繰り返した。
15,000円*2人*24日=72万円
15,000円*1人*24日=36万円
15,000円*1人*10日=15万円
10,000円*1人*10日=10万円
「これでわかるよね。毎日安定してお客様が来れば利益が出るけど、来ない日もあるだろうし、カットだけとかカラーだけというお客様もいるだろうし、色々なことを考えておかないといけないんだよ」
「そっか~」
バラの花が閉じて蕾に戻ったような声になった。
「とにかく、一喜一憂せずに続けようよ」
そして、施術することによって発生する費用について試算を始めた。
これは、夢丘もわからないというので、ネットで検索して、妥当そうな数値を探した。
すると、原価率10%が相場だという記事に辿り着いた。つまり、15,000円の施術の場合、シャンプーやトリートメント、カラー剤やパーマ剤の費用は1,500円となる。
更に水道光熱費が売り上げの10%、広告宣伝費が売り上げの10%、予約システムの手数料などが売り上げの4%と記載されていたので、売り上げに対する費用比率は34%となる。これを式に当てはめてみた。
15,000円*3人*24日=108万円-15万円-37万円=56万円
15,000円*2人*24日=72万円-15万円-25万円=32万円
15,000円*1人*24日=36万円-15万円-12万円=9万円
15,000円*1人*10日=15万円-15万円-5万円=▲5万円
10,000円*1人*10日=10万円-15万円-4万円=▲9万円
「わっ!」
夢丘は開いた口に慌てて手を遣った。
衝撃的だったからだろう。
無理もないが、これが現実なのだ。
世の中は甘くない。
でも、ガッカリさせるばかりではいけない。指針を示さないと。
「少なくとも毎日1人はお客様に来ていただくことが最低条件だということがわかるよね。先ずはそれができるかどうかが開業するために越えなければいけないハードルになる」
「でも、9万円では生活費が出ない……」
「そう。君が住んでいる家の家賃や光熱費や食費のことを考えると、毎日1人のお客さんでは厳しいよね。貯金を崩しながら生活していくことになる。だから、早期に1日2人のお客さんに来ていただけるようにしなければならない。それができるかどうかだね」
返事はなかった。
シミュレーションの式を睨むように見つめているだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
【完結】黒の花嫁/白の花嫁
あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。
だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。
しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。
それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。
そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。
秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。
絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。
「余りもの同士、仲良くやろうや」
彼もまた、龍神――黒龍だった。
★ザマァは軽めです!
★後半にバトル描写が若干あります!
★他サイト様にも投稿しています!
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
課長のケーキは甘い包囲網
花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。
えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。
×
沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。
実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。
大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。
面接官だった彼が上司となった。
しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。
彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。
心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる