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二、
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「ハルちゃんとメガネさんはどこで知り合ったんですか?大学とか?」
パンケーキか生クリームかと問われれば、どちらかといえば生クリームですと説明が付きそうな皿をケータイで撮りながら亜里沙は尋ねる。
「おねーちゃんプレーンなの?上あげよっか?」と至ってマイペースな亜里沙は、二人が一瞬固まったのには気付いてないだろう。
「妹ちゃんのやつ超凄いな」
「どこで、かぁ…」
春夏は苺の乗ったパンケーキにナイフを入れながら懐古しようにも、側で目に入ったようだ。
「お前のも結構凄くないか?」と、修介の前に立ちはだかった苺やらなんやらの交互タワーを言及せざるを得なくなったらしい。
「ん?食う?」
「いいや」
「メガネさんの高ーい!撮って良いですか?」
「別に良いけど…」
確かにこれは、映えというやつかもしれない。
席を立ってカシャカシャと撮り始めた亜里沙に「お行儀悪いよ」と由紀子は嗜めた。
「懐かしいなぁメガネ」
「はぁ?」
そう、あれは高校二年の秋、文化祭後の放課後だった…。
校舎裏に呼び出しを食らったこいつが「おい、待てハル」女にビンタを食らっている場面に俺は遭遇した。
これは何か声を掛けてやるべきかと笑いを堪えていると、途端に俺を見た眼鏡から涙がボロボロ溢れ出し…もう、何を言っているってか叫んでいるかわからない。さながら有名な脱獄シーンの如く…。
いや、こいつはあんなに感動的じゃない。
その異様な姿に、俺の頭の中では「恐怖」という文字が急速に増殖していくのが自分でもわかったんだ。
怖い、怖すぎる。まるでホラーだ。ヒューマンドラマからスプラッタに様変わりした気がした。
これはいっそ見なかったことにして立ち去らなければと思うも、あまりに異様すぎて俺の足は動かない。
考えてみればそうだ、なんせ眼鏡がすっ飛ぶほどのビンタ。こんなのは消し去りたい黒歴史の堂々第一位に入るだろう。やっぱり声を……声を掛けてやるべきかもしれない、いや、男の情けでやめておくべきかとか、最早パニックになりそうだったとき、
「何を血迷った、いや血塗れのようなこいつは突然『づ、づぎあっでぐだざいいい』と俺に突進してきたんだ。現実は映画のようにはいかないな」
物語調は終了した。
ついつい聞きいってしまったが、あれ?なんか変だなと由紀子の手元がピタッと止まると「それ怖ぇよ普通に」と修介がツッコミを入れる。
「怖ぇよ?俺はその瞬間に貞操の危機だと」
「よく出てくんなっ、そんな壮大なマシマシ物語。微妙に臭ぇのが腹立つわ全く」
亜里沙もピタッと止まり「…へ?」と、まるで呆けて素が出てしまったようだった。
「…えっ、お二人って」
「そう今や愛し、いや呪いの」
「亜里沙、あんた信じたのこれ」
しんとした。
ぎこちなく「あはは、あはは……」と笑った亜里沙は急に早口で「全然マジ超素敵だと思いマスけど」とまるでぶっ壊れた機械のように様変わりした。
「俺そんなサイコパスじゃねぇよマジで」
「え、しゅうちゃんそこなのツッコミ」
「明らかに引いてるぞハル。お前の方がイカれてんだよ全く」
「え?
う、嘘なんですか?」
「嘘じゃないぞ、こいつは毎日あれから俺に」
「嘘だよ嘘っ!ど……なんでそんな嘘が出てくるかなお前はっ!」
……混線してる。
亜里沙が「あはは…面白いですねハルさん」と言うのも構わず「いや本当要素はあったはず」だの「眼鏡一回飛んでるじゃねぇか、眼鏡から溢れ出すってなんだ、」だの、なるほど…二人はこのマイペース妹に漸く適用したようだ…と由紀子は変に感心してしまった。
「…しゅうちゃん、一枚だけ上頂戴?」
「ん?あぁいいよ別に。食え食え育ち盛り」
「食べられるの?」
「量的には」
パンケーキの最上階を貰った由紀子も妹を気にしなくなっていたし、この話題は終わりそうだった。
「俺にもくれ」と勝手に交換しようとする春夏へも「ん、はい」と分け与える修介。タワーは普通になる。
由紀子がちらっと亜里沙を見ればなんというか、ペースが違うのかもしれない。そんな様子が伺えた。
「でも私も気になるんだけど二人の話」
いつの間にやら、いつもの調子。
「聞かない方がいいというか思い出したくないからマジで」
「そうだよなぁ、あんなところを」
「ハル、もーそれ引っ張れないからな。機嫌良いな全く」
「どんくらい切ろうかなぁ」と話を変えた春夏に「んー三つ編み2つ分にすれば」と雑な修介。
こんなもんかなと眺めていると、ポツリと亜里沙が「仲良いんですねぇ」と呟き、由紀子を眺めた。
何か含みがあるのかと、「食べる?」と聞けば「大丈夫」と断られる。
「なんかお姉ちゃん楽しそうだね」
「ん?」
「なんでもないけどさ」
確かに、意外性はあったのかもしれない。自分でもわかっている、家と二人の前とでは多分違うし、友達とも違っているだろう。
「亜里沙はどんなお友達がいるの?」
それは聞いても「うーん…」としか返ってこなかった。
「いっそ坊主にしてぇな」
「それ怖いなお前じゃ」
「あそう?三つ編み二つ分って何?」
「…セミくらいなもんなんですかね?あたしで何個分なんだろ…」
「亜里沙も伸びたよね髪。おろすと胸くらいなんだよ」
「いや、隠れるよ?
お姉ちゃんは伸びないね」
長ぇなぁ…と呟く春夏は髪を摘まんで眺めている。いっそ妹くらいにしちゃったらどうなんだろう?と肩あたりを眺めて思った。
パンケーキか生クリームかと問われれば、どちらかといえば生クリームですと説明が付きそうな皿をケータイで撮りながら亜里沙は尋ねる。
「おねーちゃんプレーンなの?上あげよっか?」と至ってマイペースな亜里沙は、二人が一瞬固まったのには気付いてないだろう。
「妹ちゃんのやつ超凄いな」
「どこで、かぁ…」
春夏は苺の乗ったパンケーキにナイフを入れながら懐古しようにも、側で目に入ったようだ。
「お前のも結構凄くないか?」と、修介の前に立ちはだかった苺やらなんやらの交互タワーを言及せざるを得なくなったらしい。
「ん?食う?」
「いいや」
「メガネさんの高ーい!撮って良いですか?」
「別に良いけど…」
確かにこれは、映えというやつかもしれない。
席を立ってカシャカシャと撮り始めた亜里沙に「お行儀悪いよ」と由紀子は嗜めた。
「懐かしいなぁメガネ」
「はぁ?」
そう、あれは高校二年の秋、文化祭後の放課後だった…。
校舎裏に呼び出しを食らったこいつが「おい、待てハル」女にビンタを食らっている場面に俺は遭遇した。
これは何か声を掛けてやるべきかと笑いを堪えていると、途端に俺を見た眼鏡から涙がボロボロ溢れ出し…もう、何を言っているってか叫んでいるかわからない。さながら有名な脱獄シーンの如く…。
いや、こいつはあんなに感動的じゃない。
その異様な姿に、俺の頭の中では「恐怖」という文字が急速に増殖していくのが自分でもわかったんだ。
怖い、怖すぎる。まるでホラーだ。ヒューマンドラマからスプラッタに様変わりした気がした。
これはいっそ見なかったことにして立ち去らなければと思うも、あまりに異様すぎて俺の足は動かない。
考えてみればそうだ、なんせ眼鏡がすっ飛ぶほどのビンタ。こんなのは消し去りたい黒歴史の堂々第一位に入るだろう。やっぱり声を……声を掛けてやるべきかもしれない、いや、男の情けでやめておくべきかとか、最早パニックになりそうだったとき、
「何を血迷った、いや血塗れのようなこいつは突然『づ、づぎあっでぐだざいいい』と俺に突進してきたんだ。現実は映画のようにはいかないな」
物語調は終了した。
ついつい聞きいってしまったが、あれ?なんか変だなと由紀子の手元がピタッと止まると「それ怖ぇよ普通に」と修介がツッコミを入れる。
「怖ぇよ?俺はその瞬間に貞操の危機だと」
「よく出てくんなっ、そんな壮大なマシマシ物語。微妙に臭ぇのが腹立つわ全く」
亜里沙もピタッと止まり「…へ?」と、まるで呆けて素が出てしまったようだった。
「…えっ、お二人って」
「そう今や愛し、いや呪いの」
「亜里沙、あんた信じたのこれ」
しんとした。
ぎこちなく「あはは、あはは……」と笑った亜里沙は急に早口で「全然マジ超素敵だと思いマスけど」とまるでぶっ壊れた機械のように様変わりした。
「俺そんなサイコパスじゃねぇよマジで」
「え、しゅうちゃんそこなのツッコミ」
「明らかに引いてるぞハル。お前の方がイカれてんだよ全く」
「え?
う、嘘なんですか?」
「嘘じゃないぞ、こいつは毎日あれから俺に」
「嘘だよ嘘っ!ど……なんでそんな嘘が出てくるかなお前はっ!」
……混線してる。
亜里沙が「あはは…面白いですねハルさん」と言うのも構わず「いや本当要素はあったはず」だの「眼鏡一回飛んでるじゃねぇか、眼鏡から溢れ出すってなんだ、」だの、なるほど…二人はこのマイペース妹に漸く適用したようだ…と由紀子は変に感心してしまった。
「…しゅうちゃん、一枚だけ上頂戴?」
「ん?あぁいいよ別に。食え食え育ち盛り」
「食べられるの?」
「量的には」
パンケーキの最上階を貰った由紀子も妹を気にしなくなっていたし、この話題は終わりそうだった。
「俺にもくれ」と勝手に交換しようとする春夏へも「ん、はい」と分け与える修介。タワーは普通になる。
由紀子がちらっと亜里沙を見ればなんというか、ペースが違うのかもしれない。そんな様子が伺えた。
「でも私も気になるんだけど二人の話」
いつの間にやら、いつもの調子。
「聞かない方がいいというか思い出したくないからマジで」
「そうだよなぁ、あんなところを」
「ハル、もーそれ引っ張れないからな。機嫌良いな全く」
「どんくらい切ろうかなぁ」と話を変えた春夏に「んー三つ編み2つ分にすれば」と雑な修介。
こんなもんかなと眺めていると、ポツリと亜里沙が「仲良いんですねぇ」と呟き、由紀子を眺めた。
何か含みがあるのかと、「食べる?」と聞けば「大丈夫」と断られる。
「なんかお姉ちゃん楽しそうだね」
「ん?」
「なんでもないけどさ」
確かに、意外性はあったのかもしれない。自分でもわかっている、家と二人の前とでは多分違うし、友達とも違っているだろう。
「亜里沙はどんなお友達がいるの?」
それは聞いても「うーん…」としか返ってこなかった。
「いっそ坊主にしてぇな」
「それ怖いなお前じゃ」
「あそう?三つ編み二つ分って何?」
「…セミくらいなもんなんですかね?あたしで何個分なんだろ…」
「亜里沙も伸びたよね髪。おろすと胸くらいなんだよ」
「いや、隠れるよ?
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