3 / 55
One
3
しおりを挟む『学校来んな、ブス。お前がやめろ』
わたしは、届いたメッセージを冷めた目で数秒眺めてから削除した。
SNSは知り合いにはバレないようなニックネームでやっているのに。それがわたしのものだという情報が、どこから漏れたのだろう。
流出原因は不明だが、ここ数日、くだらない嫌がらせDMが増えている。
送ってきているのは、おそらく同じ高校の生徒。わざわざ捨てアカを取ってまでこんな嫌がらせしてくるなんて、暇すぎる。
嫌がらせのDMが送られてくるようにきっかけは、誰かがメッセージアプリで学校中に広めた一枚の写真だった。
わたしが今日の放課後、生徒指導の三上先生に呼び止められて指導室に連行されそうになったのも、おせっかいな葛城先生に三十分以上も化学準備室でやんわりとしたお説教をされたのも、全てはその写真のせいだ。
どこの誰の嫌がらせかはわからないが、昨年度までうちの高校で数学教師をしていた桜田 健吾と一緒に歩いていたところを隠し撮りされたのだ。その写真には、桜田先生に腕を絡めて満面の笑みを浮かべる制服姿のわたしがはっきりと写っていた。
それだけならまだふざけていただけだと言い訳もできたのだが、撮影された時間帯は夜で、しかもいかがわしいホテルもあるような街中だったものだから、その写真とともに、わたしと桜田先生のウワサが、あることないこと広まってしまった。
わたしが桜田先生にしつこく迫っている、とか。お金をもらって抱かれてる、とか。桜田先生がわたしに手を出したことがバレて、うちの学校を辞職させられた、とか。
どれも、過大妄想が生み出したクソみたいな作り話ばかりだ。そんなクソみたいな噂を信じる生徒たちもバカだし、まともに取り合おうとする先生たちだってバカだと思う。
『消えろ、淫乱』
さっきとは違う別のアカウントから、また嫌がらせのDMが送られてくる。
淫乱どころか、わたし、まだそういう経験ないんだけど。苦笑いを浮かべながら、またメッセージを削除する。
こういう嫌がらせが送られてくるのは、昨年度までわたしの通う高校で働いていた桜田先生がそれなりに人気教師だったからだ。
30歳になったばかりの彼は、垂れ目で童顔で、笑うと可愛いし。教え方も上手いと生徒たちから評判がよかった。
女子生徒たちの中には、本気で彼に憧れを抱いていた子もいたと思う。実際に、彼は女子生徒からラブレターをもらったり、告白を受けたこともあったみたいだし、毎年バレンタインデーには、カバンから溢れるほどのチョコを持ち帰っていた。
だから、学校に広まった写真やウワサのせいで、桜田先生に憧れていた女子生徒からのやっかみを買ったとしてもムリはない。
ため息を吐きながら、スマホをカバンに入れようとすると、またDMを受信した。どうせ嫌がらせだろうな。
『桜田先生が、お前なんか本気で相手にするわけない』
DMを開くと同時に目に飛び込んできた文面を見つめて、唇を歪める。
どんな悪口を言われたって構わないけれど、こういう指摘がいちばん胸に堪える。
「そんなこと、わたしが一番よくわかってるよ」
一方的に責めてくる、顔の見えない相手に向かって言葉をぶつける。
一緒にいるところを隠し撮りされた桜田先生は、もちろん恋人なんかじゃない。
うちの高校の元数学教師だった彼は、わたしの母の再婚相手。わたしにとって、義理の父にあたる人だ。
写真を撮られたとき、わたしは義父である彼と、レストランで食事をしてきた帰りだった。看護師をしている母が夜勤で家を空けるので、学校帰りに待ち合わせをして、ふたりで外食をしたのだ。
彼とふたりで過ごす時間は、とても楽しかった。楽しくて浮かれすぎたわたしは、じゃれつくフリをして、彼に腕を絡めてくっついて歩いた。
彼はそれを、義理の父親へのスキンシップだと純粋に捉えて疑ってもいなかっただろうけど、それは違う。
わたしは、自分のことを少しでも女の子として意識してもらいたいという打算で、彼にくっついていた。
彼はわたしのことを義理の娘としか思っていないだろうけど、わたしは彼を父親だと思ったことは一度もない。
わたしは母が彼と再婚する前から、密かにずっと、桜田 健吾に恋焦がれている。
1
あなたにおすすめの小説
『大人の恋の歩き方』
設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日
―――――――
予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と
合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と
号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは
☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の
予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*
☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾書籍発売中
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
同窓会~あの日の恋をもう一度~
小田恒子
恋愛
短大を卒業して地元の税理事務所に勤める25歳の西田結衣。
結衣はある事がきっかけで、中学時代の友人と連絡を絶っていた。
そんなある日、唯一連絡を取り合っている由美から、卒業十周年記念の同窓会があると連絡があり、全員強制参加を言い渡される。
指定された日に会場である中学校へ行くと…。
*作品途中で過去の回想が入りますので現在→中学時代等、時系列がバラバラになります。
今回の作品には章にいつの話かは記載しておりません。
ご理解の程宜しくお願いします。
表紙絵は以前、まるぶち銀河様に描いて頂いたものです。
(エブリスタで以前公開していた作品の表紙絵として頂いた物を使わせて頂いております)
こちらの絵の著作権はまるぶち銀河様にある為、無断転載は固くお断りします。
*この作品は大山あかね名義で公開していた物です。
連載開始日 2019/10/15
本編完結日 2019/10/31
番外編完結日 2019/11/04
ベリーズカフェでも同時公開
その後 公開日2020/06/04
完結日 2020/06/15
*ベリーズカフェはR18仕様ではありません。
作品の無断転載はご遠慮ください。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―
コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー!
愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は?
――――――――
※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる