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Five
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しおりを挟む「わたしのほうこそ、写真見ちゃって。哀しいこと思い出させてごめんなさい」
小さく鼻を啜ると、那央くんがふっ、と、息を漏らした。
「いや。もう、五年も前のことだから」
那央くんが今付き合っているのは、夕夏さんの妹で。那央くんは恋人を、彼女は姉を亡くした悲しみを共有して支え合ううちに、自然と惹かれあって、二年前から付き合うようになったそうだ。
那央くんは夕夏さんのことを過去として割り切ろうとしているみたいだけど、どう見たって言葉と表情が伴っていない。那央くんにとって夕夏さんは、今もずっと忘れられない人なんだろう。
わたしが気付くんだから、駅のロータリーでヒステリックに怒っていた今の彼女だって、そのことに気付いているはずだ。
「岩瀬が前に言ってただろ。どうして、好きになった人が自分を好きになってくれる可能性は、みんなに平等じゃないのか、って。でも、たとえ好きになった人が自分を好きになってくれたとしても、それが永遠に続くかどうかなんて、わからないんだよ」
那央くんの言葉が、グサリと胸に刺さる。那央くんのことを何も知らなかったわたしは、これまできっと彼のことを何度も傷付けていただろう。
自分の気持ちが健吾くんに受け入れてもらえないことを憂いて、母のことを妬んで駄々を捏ねて。不公平な世界で自分だけが傷付いていると思っていたことが恥ずかしい。
「そういえば、桜田先輩ってまだ帰ってきてないの?」
飲み残したココアのカップを両手でぎゅっと握りしめといると、那央くんが突然、そんなふうに訊いてきた。
「うん。わたしが健吾くんと家族になるって決めるまでは、絶対に戻らないつもりなんだと思う」
「早く、迎えに行ってあげればいいのに。岩瀬の中では、もう答えは出てるんだろ?」
小さく頷くと、那央くんが笑う。
「岩瀬には、お母さんがサラッと桜田先輩との再婚を決めたみたいに見えてるのかもしれないけど……。お父さんのことを吹っ切るまでに、いろんな葛藤があったと思うよ。亡くなった人を想ってるお母さんのことを七年も支えてきた桜田先輩だって、いつも笑ってるけど、本当は辛い悲しい思いもいっぱいしてきたと思う。岩瀬のお母さんも桜田先輩も、そういうの全部ひっくるめて、お互いをパートナーに選んだんでしょ。もちろん、岩瀬のことも考えて」
那央くんに言われて、父が亡くなったあと、母がしばらくのあいだものすごく落ち込んでいたことを思い出した。
食欲が出ないと言って、ろくにごはんも食べずに毎日仕事に出ていたような気がする。やつれて倒れそうになっていた母に気付いて、そばに付いていてくれたのは、母の幼なじみだった健吾くん。健吾くんがいなかったら、きっと母とわたしの今はない。
「わたし、健吾くんと家族になるよ。ちゃんと、受け入れる」
「そっか」
那央くんが、決意を言葉にしたわたしの頭をグシャグシャと撫でてくれる。
「那央くんも、彼女と仲直りしてね」
「人の心配してるなんて、余裕だな」
目を細めた那央くんの顔が、笑っているはずなのに、何故か切ない。
このまま腕を伸ばして、彼のことを包んであげる権利がわたしにあればいいのに。
写真の中で笑っていた夕夏さんと、今の彼女の顔を思い浮かべながら、そんなふうに思ってしまった。
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