青春ヒロイズム

碧月あめり

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9.初恋を消せないままに

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 夕飯後にリビングのソファーに座ってスマホを見ると、ラインに新着のメッセージが届いていた。

 友達登録されていない相手からだったけれど、送信者の名前がアルファベットで「Kanaki」となっている。震える指でスマホをタップしてみると、やっぱり星野くんだった。


『星野です。足の調子どう? 病院行けた?』

 メッセージは一時間くらい前に届いていたらしい。私は星野くんが送ってきたラインの文面を何度も読み返しながら、どんな返事をしようかと悩みに悩んだ。

 お礼の文章のパターンをいろいろ考えてみたけど、長すぎたり、仰々しくなり過ぎたりして。結局、無難で簡潔な内容に落ち着いた。


『昨日はどうもありがとう。病院行ったよ。軽い捻挫だって。完治までは二週間くらいかかるみたい』

 緊張しながら送信ボタンを押すと、すぐにメッセージに既読がつく。

 もしかしたらまた星野くんが何か送ってきてくれるかも。そう思ったら、そわそわと落ち着かない気持ちになった。

 男の子と、それも好きな人とラインのやりとりをするなんて、初めての経験だ。

 スマホを持ったままだと、星野くんからの返信を無駄に期待をしてしまうから、一旦スマホを置いてテレビを点ける。

 適当にバラエティ番組にチャンネルを合わせたとき、スマホの受信音が鳴った。星野くんからだと思い込んですぐさまスマホをつかんだけれど、届いていたのは全く予想もしていなかった相手からのラインだった。

 まさかの相手から送られてきたラインの内容に、スマホをつかむ指先が、少しずつ冷たくなっていく。


『今日の夕方、地元の駅前で星野くんに会ったよ。花火大会のときは暗くてはっきりわからなかったけど、小学校のときよりかっこよくなってるじゃん』

 そんなメッセージを送ってきたのはナルだった。

 前の学校を辞めてから……、というより、そのずっと前から、ナルとラインでやり取りなんてしたこともなかった。それなのに、昨日の花火大会であんな再会をした直後に、こんなメッセージを送ってくるなんて。

 私の既読が付いたからか、続け様にナルからのラインが二件届く。

 一件は、私も馴染みのある地元の駅前のバーガーショップで撮った写真。そこに写っていたのは、お店の椅子に座ってスマホを弄っている星野くん。

 それだけでも私が受けた衝撃は相当なのに、合わせて届いたもう一件のメッセージに全身の血の気が引いた。

『友が今の学校に編入した理由、星野くんは何も知らなかったんだね』

 ナルから送られてきた意味深なメッセージはそれだけだった。

 彼女が星野くんに前の学校で私たちの間に起きた「あのこと」を話したかどうかや、彼の反応についてまでは書かれていない。

 でもナルは、花火大会で会ったときに私たちの前で「傷害事件」という言葉を口にしたり、こんなふうに星野くんと会ったことを報告して写真まで送りつけてくるような性格だ。こんなふうに星野くんの写真まで撮って、何も話していない、なんてことはあり得ないだろう。

 茫然とする私の手の中で、スマホが振動する。

 また、ナルから?

 思わず身構えたけれど、届いていたのは星野くんからのラインだった。

 何分か前までは星野くんからの返信を心待ちにしていたのに、ナルのメッセージを読んでしまった今は、彼からの返信を読むのが怖い。


『夏休み中に完治しそうでよかった。足が治ったら、深谷に話したいことがある。また連絡して』

 恐る恐る確認した星野くんからのラインには、そんなことが書かれていた。

 話したいことってなんだろう……。星野くんはやっぱり、ナルから何か聞いているのだろうか。

 ナルからのラインの直後に星野くんからラインが送られてきたことで、疑心暗鬼になってしまう。

 ケガが治ったら、星野くんは私に何を話すつもりなんだろう。

 想像してしまうのは、私に対する非難や否定の言葉ばかりだ。それと同時に、再会したばかりの頃の、私を見る星野くんの冷たい眼差しが蘇る。

 やっといろいろな誤解がとけて、星野くんと普通に話せるようになったところだったのに。ときどきではあるけど、優しく笑いかけてもらえるようにだってなったのに。

 私はまた、星野くんからの信頼を全部失うかもしれない。

 胸の奥が詰まって、痛くて苦しい。既読にした星野くんのメッセージに、私は何も返信できなかった。
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