偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

佐倉 蘭

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決壊 ②

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「……稍、頼むから落ち着いてくれ。なに言うてんねん?おまえはセフレなんかやない」

   突っ伏す稍に、智史が真剣に語りかける。

「おまえは、おれにとって、今も昔も、おれのたった一人の『本命』や。今も昔も、おれが嫁にしたい女はおまえしかおらへん」

   そして、深ーいため息を一つ吐く。

「四月から派遣社員としてステーショナリーネットに来ることになったおまえを、おれがどれだけ楽しみにしてたか知らんやろ?本当ほんまは別の課に配属されるおまえを、和哉さんに直談判して、無理矢理おれのチームに入れてもらってんぞ。……せやのに、おまえはあんなへんてこりんな格好で現れやがって」

   自然と語尾には怒気が含まれていく。

「おまえがおれを避けとったんはわかってたけど、毎日一緒に仕事するようになって、やっぱりおまえを……また好きになっとった。一生おれのそばに置きたい、って思うくらいにな。それで、創立記念パーティのときに、今度は社長に直談判しておまえを嘱託社員にしてもろたんや。……社長からは逆に、今まで『御令嬢』との縁談を勧めて悪かったな、って言われたぞ」

   突っ伏した稍の背をやさしく撫でる。

   稍を気に入った山口には、入籍後なら「本当の稍」を見せても大丈夫だろうと思っていた。牽制の限りを尽くしたはずだが、甘かった。

   だが、この部屋を出て行く際に、しっかりと脅しておいた。

「全部、GWまでにお膳立てしてたことや。あとはおまえが婚姻届を書くだけやった。せやからGWにおまえを呼んで『偽装結婚』とまで言うて、書かせたんや。……まぁ、うちの親父とおまえのオカンに対する『復讐』は確かにしたかったけどな。こんなに長い間、おまえと引き離されてしもうたんやからな」

   稍をなだめるために言ってはみたが、婚姻届無効の申請なんて、智史はさらさらする気はなかった。

「それから、『本命女』っていう意味がようわからへんけど……おれはおまえに愛想あいそ尽かされたないし、おまえ以外の女に興味はないから、絶対に浮気なんかせぇへんぞ。渡辺もちゃんと切ったやろ?」

  智史は突っ伏した稍を抱え起こした。

「稍、観念しろ。もうおまえはおれのもんやからな。……もう一生、離さへんぞ」

  ぱったりとなにも言わなくなったと思ったら……稍は、はぁっ、はぁっ、と荒い息を繰り返していた。

 ——まずい。パニック症状がぶり返したな。

   智史は医師の松波を呼びに行こうかと思った。今ならまだ、このホテルのバーにいるかもしれない。

   だが、松波は先刻さっき、薬の出番はない、と言っていたではないか。それどころか、智史のことを『特効薬が駆けつけて来た』とも言っていた。

   智史はしっかりと稍を抱え直した。ここは「夫」としての力の見せ所かもしれない。

「……稍、おれがおるからな。大丈夫や。すぐにしんどいのも治るぞ」

   くるしそうな息で喘ぐ稍をあやすように、その髪をやさしく撫でながら、智史は抱きしめ続けた。


「ごめんな、稍。おれがおまえによう言わんのは、おまえから『イヤや』って拒まれるのが……死ぬほど怖いからや」

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