政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
24 / 128
Chapter 4

聖なる夜に初デートします ⑤

しおりを挟む
 
 将吾さんのくちびるが、わたしのくちびるに重なった。

   すぐに離れるかと思ったら、角度を変えながらなかなか離れない。ル◯タンの華奢なヒールが、わたしのバランスを崩す。

「……あっ……」

 わたしの腰に回った将吾さんの手に、ぐっと力がこもり、支えてくれた。わたしもすがるように、将吾さんの首の後ろに手を回して踏ん張る。

 咄嗟とっさに開いたくちびるの中に、将吾さんの舌が滑り込んできた。
 次第に貪るように互いの舌を絡め合っていく……

  ——ここまでする意味、ある?

 さすがの大橋さんも副社長室から出て行ったようだ。


 わたしたちは見つめ合ったまま、くちびるを離した。

「……遅いっ!」

 将吾さんは怒っていた。甘い雰囲気はこっぱみじんこに砕け散っている。

「……はぁ? 」
 今のキスはなんだったんだろう?まぼろし?

 ——ワケわかんないっ。なんで、わたしが怒られなきゃなんないわけ?

「彩乃が早く来ないから、また大橋に襲われそうになったじゃねえかっ」
 将吾さんは心底、イヤそうな顔をしていた。

「……あれっ、大橋さんは将吾さんの愛人じゃないの?」
 わたしが不思議に思って訊くと、
「ふざけんなっ。そんなふうに思ってたのか!? だれがあんな女、相手にするか!取引先との関係で無下にできねえんだよっ!!」
 将吾さんは鬼の形相で怒鳴った。

 ——確かに、大橋さんは大橋コーポレーションの社長令嬢だもんね。

 だけど、あまりの言いように、ほんのちょっぴり大橋さんに同情しそうだ。

「それに、まだ結婚もしてないのに、なんで『愛人』なんだよっ」

 ——そこは、まぁ、雰囲気で。

「大橋さんも出て行ったことだし、早くブシ◯ロンへ行きましょうよ」
 わたしが将吾さんからキャリーバッグを引き取ろうとすると……

先刻さっきまで着てたスーツが入ってんだろ?シワになるからワードローブに掛けとけよ」

 ——えっ?

「早くしろ。時間ないぞ」
 将吾さんがブライ◯リングを見た。

 わたしはあわてて、キャリーバッグから自分のブル◯クスブラザーズのスーツを取り出し、プライベートルームのワードローブの中にある将吾さんのヒュー◯・ボスのスーツの隣に掛けた。

 そして、わたしたちはようやく会社を出ることになった。


   ゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 わたしたちは副社長である将吾さんの社用車、メル◯デス・マイバッハS600に乗り込み、後部座席リアシートに並んで座った。

 まるでビジネスクラスの機内のような車内で隣に座る将吾さんをふと見ると、くちびるがあかい。

 わたしはルビー色のボリードからティッシュを一枚取り出して渡した。
「はい、ついてるわよ」

 将吾さんはきょとんとした顔をしている。
 わたしは自分のくちびるを指した。

「……おっ、Thanks.」
 将吾さんは自分のくちびるをティッシュでこする。

「……とれたか?」
「とれてない。……落ちない口紅だからかなぁ」
 わたしはまたボリードの中を探った。

「おまえ、そんな口紅塗るなよ。どうすんだよ」
 将吾さんはふてくされた顔をしている。

「そっちが突然してきたんだから、自業自得でしょ?」
 わたしは見つけたウェットティッシュを差し出し、一枚引き抜かせた。

 また彼がくちびるを擦る。今度はうまくとれたようだ。

 なんだか、運転手さんの肩がぷるぷるぶる…と小刻みに震えていたように見えたけど、気のせいだろう。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~

麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。 夫「おブスは消えなさい。」 妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」 借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。

帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜

長月京子
恋愛
辺境の小国サイオンの王女スーは、ある日父親から「おまえは明日、帝国に嫁入りをする」と告げられる。 幼い頃から帝国クラウディアとの政略結婚には覚悟を決めていたが、「明日!?」という、あまりにも突然の知らせだった。 ろくな支度もできずに帝国へ旅立ったスーだったが、お相手である帝国の皇太子ルカに一目惚れしてしまう。 絶対におしどり夫婦になって見せると意気込むスーとは裏腹に、皇太子であるルカには何か思惑があるようで……?

山猿の皇妃

夏菜しの
恋愛
 ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。  祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。  嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。  子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。  一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……  それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。  帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。  行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。 ※恋愛成分は低め、内容はややダークです

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...