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Chapter 4
聖なる夜に初デートします ⑤
しおりを挟む将吾さんのくちびるが、わたしのくちびるに重なった。
すぐに離れるかと思ったら、角度を変えながらなかなか離れない。ル◯タンの華奢なヒールが、わたしのバランスを崩す。
「……あっ……」
わたしの腰に回った将吾さんの手に、ぐっと力がこもり、支えてくれた。わたしも縋るように、将吾さんの首の後ろに手を回して踏ん張る。
咄嗟に開いたくちびるの中に、将吾さんの舌が滑り込んできた。
次第に貪るように互いの舌を絡め合っていく……
——ここまでする意味、ある?
さすがの大橋さんも副社長室から出て行ったようだ。
わたしたちは見つめ合ったまま、くちびるを離した。
「……遅いっ!」
将吾さんは怒っていた。甘い雰囲気はこっぱみじんこに砕け散っている。
「……はぁ? 」
今のキスはなんだったんだろう?まぼろし?
——ワケわかんないっ。なんで、わたしが怒られなきゃなんないわけ?
「彩乃が早く来ないから、また大橋に襲われそうになったじゃねえかっ」
将吾さんは心底、イヤそうな顔をしていた。
「……あれっ、大橋さんは将吾さんの愛人じゃないの?」
わたしが不思議に思って訊くと、
「ふざけんなっ。そんなふうに思ってたのか!? だれがあんな女、相手にするか!取引先との関係で無下にできねえんだよっ!!」
将吾さんは鬼の形相で怒鳴った。
——確かに、大橋さんは大橋コーポレーションの社長令嬢だもんね。
だけど、あまりの言いように、ほんのちょっぴり大橋さんに同情しそうだ。
「それに、まだ結婚もしてないのに、なんで『愛人』なんだよっ」
——そこは、まぁ、雰囲気で。
「大橋さんも出て行ったことだし、早くブシ◯ロンへ行きましょうよ」
わたしが将吾さんからキャリーバッグを引き取ろうとすると……
「先刻まで着てたスーツが入ってんだろ?シワになるからワードローブに掛けとけよ」
——えっ?
「早くしろ。時間ないぞ」
将吾さんがブライ◯リングを見た。
わたしはあわてて、キャリーバッグから自分のブル◯クスブラザーズのスーツを取り出し、プライベートルームのワードローブの中にある将吾さんのヒュー◯・ボスのスーツの隣に掛けた。
そして、わたしたちはようやく会社を出ることになった。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
わたしたちは副社長である将吾さんの社用車、メル◯デス・マイバッハS600に乗り込み、後部座席に並んで座った。
まるでビジネスクラスの機内のような車内で隣に座る将吾さんをふと見ると、くちびるが紅い。
わたしはルビー色のボリードからティッシュを一枚取り出して渡した。
「はい、ついてるわよ」
将吾さんはきょとんとした顔をしている。
わたしは自分のくちびるを指した。
「……おっ、Thanks.」
将吾さんは自分のくちびるをティッシュで擦る。
「……とれたか?」
「とれてない。……落ちない口紅だからかなぁ」
わたしはまたボリードの中を探った。
「おまえ、そんな口紅塗るなよ。どうすんだよ」
将吾さんはふてくされた顔をしている。
「そっちが突然してきたんだから、自業自得でしょ?」
わたしは見つけたウェットティッシュを差し出し、一枚引き抜かせた。
また彼がくちびるを擦る。今度はうまくとれたようだ。
なんだか、運転手さんの肩がぷるぷるぶる…と小刻みに震えていたように見えたけど、気のせいだろう。
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