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Chapter 12
ヒミツの隠れ家に逃げます ④
しおりを挟むわたしはタクシーから降りて、とある煉瓦造りのマンションの前に立った。
リノベーションをしていて新しく見えるが、築年数はかなり経った閑静な住宅街に建つ低層マンションだ。
エントランスを抜けて入っていくと、ホテルのドアマンのような制服を着た、王子さま系のイケメンがいた。このマンションのコンシェルジュのようだ。
「朝比奈です」
わたしが名乗ると「朝比奈さま、どうぞ、こちらに」と言って、奥にあるエレベーターに案内された。
ドアが開いて中に乗り込むと、ドアが閉まって上がっていくまで、にこやかに見送られた。
四階に着いて、カードキーで一番奥の部屋へ入る。
——よかった、だれも使ってなくて。
ここは、朝比奈一族の駆け込み寺である「シェルター」だ。
かつて、一族の女たちがこの部屋に駆け込むたびに、この部屋は彼女たちを受けとめた。
慶人の母親である清香おばさまが、エスカレーター式で上がれる短大ではなく共学の四大へ進学したいと、松濤のおじいさま——うちのおじいさまの弟——に生まれて初めて反抗して、家を飛び出した夜。
大地の母親である紗香おばさまが、大地の父親である上條のおじさまとの結婚を、松濤のおじいさまから猛反対されて、家を飛び出した夜。
蓉子が、慶人が大学時代、当時つき合っていた彼女と四泊六日のハワイ旅行へ行ってしまったのを嘆き悲しんで家を飛び出した夜。
そして……
わたしが、どんな思いで別れる決意をしたかを知りもしないで、海洋がなかなか応じてくれず、毎日会いに来るもんだから、たまらなくなって家を飛び出した夜。
ほかにも、まだあるのかもしれないし、男の人たちがどんな使い方をしていたのかは不明だけど。(でも、松濤のおじいさまが目を光らせてるからいかがわしい使い方はできないけどね)
——今夜は、お世話になります。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
わたしは将吾さんにL◯NEを送った。
【実家に帰ります】
——ウソではない。
だって、ここは朝比奈一族の共有財産だから「実家の一部」みたいなもんだ。
そしてわたしは、既読確認する間もなく、速攻でスマホの電源を切った。
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