政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
77 / 128
Chapter 12

オンナの闘いは拒否します

しおりを挟む
 
 翌日、将吾さんの実家に戻った。

 明日から仕事があるし、母親とウェディングドレスを試着しに行くと言って出たまま、着替えもなにも持ってきてなかったからだ。

「ただいま戻りました」
 玄関に出てきた静枝さんとわかばちゃんに挨拶した。

 わかばちゃんは長い黒髪を、すっきりとポニーテールにしていた。
 チルデンニットの襟ぐりの空いた首元には、トップにクロスがあるネックレスが見えた。クロスの部分にダイヤモンドがついていて、きらきらと光り輝いていた。

 わかばちゃんがわたしを見る目が、昨日までと違っているのに気づいた。
 少し後ろめたい様子で背の高いわたしを見上げていたのが鳴りを潜め、目に強い意志を宿し、射るように見つめてきた。

 このネックレスは昨日買ってもらった、将吾さんからのプレゼントなのだろう。
   彼女が誇らしげに見える。

 ——宣戦布告、か。

 でも、ごめんね。わたしは、受けて立つ気はないの。
 そんなことはね。……もう、十年も前に「卒業」しているの。

 あなたのその顔、鏡で見てごらん。
 びっくりするくらい——醜いから。
 だれかに嫉妬して憎んでる顔なんて、ほんと酷いから……

 わたしはそんな顔を小学生の頃から別れるまで、ずっとしていたのよ。海洋に群がる女の子たちを、ずっとそんな目で見ていたの。

 あなたのいいところが、素直で純真でやさしいところが——きっと、将吾さんが大好きな……あなたのそんなところが——どんどん削がれていってしまうよ?

 わたしは海洋に恋する自分がどんどんイヤな女になっていくのに、耐えられなくなったの……

 いつの間にか、わたしは彼女を憐れむような表情をしていたのかもしれない。
 わかばちゃんは色をなして、わたしから目を逸らした。

 自分の部屋に行くために、わたしは階段の方へ向かった。

 ——だけど……それが、恋、なんだけどね。


 ゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 自分の部屋のクローゼットから衣服と下着を取り出し、隣のパウダールームに入って着替えた。

 そして、また自分の部屋に戻ったところで、間の扉が開き、将吾さんがつかつかと入ってきた。
 わたしの顔を見るなり、眉間にシワを寄せる。

「……スマホの電源をなぜ切った?」

 彼の問いかけに、わたしは平然と答えた。

「充電が切れたの」

 ——ウソだった。自分自身の意思で切ったのだ。

「充電器くらい、どっかで買えよ」
 将吾さんはやけにいらいらしていた。

「たった一日スマホが使えなくても、別に不自由しなかったわ」
 わたしはきっぱりと言った。

「……彩乃」
 将吾さんがわたしの腕をとって、引き寄せた。
 あっという間に、彼の腕の中だ。

「あんなLINE送ってくるなよ。……もう、帰ってこないんじゃないかと思った」
 ぎゅっ、とわたしを抱きしめる。

 わたしが送ったLINEの言葉は……

【実家に帰ります】

 どうやら、この一言は男の人にはこたえるらしい。

 ——あら、いいカン、してるじゃないの?

 わたしは顔を上げて、将吾さんの顔をまっすぐ見据えた。その瞬間、彼の身体からだが電流が走ったかのように、びくびくっ、と震えた。

「……今、初めて、結婚したヤツらの、自分の嫁が世界一怖い、って言ってた気持ちが、死ぬほどわかった」
 青い顔をして、将吾さんがつぶやいた。

 ——それは自分の身にやましいことがあるから、じゃないの?

 わたしは静かに微笑んだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~

麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。 夫「おブスは消えなさい。」 妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」 借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。

帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜

長月京子
恋愛
辺境の小国サイオンの王女スーは、ある日父親から「おまえは明日、帝国に嫁入りをする」と告げられる。 幼い頃から帝国クラウディアとの政略結婚には覚悟を決めていたが、「明日!?」という、あまりにも突然の知らせだった。 ろくな支度もできずに帝国へ旅立ったスーだったが、お相手である帝国の皇太子ルカに一目惚れしてしまう。 絶対におしどり夫婦になって見せると意気込むスーとは裏腹に、皇太子であるルカには何か思惑があるようで……?

山猿の皇妃

夏菜しの
恋愛
 ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。  祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。  嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。  子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。  一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……  それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。  帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。  行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。 ※恋愛成分は低め、内容はややダークです

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...