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Chapter 12
オンナの闘いは拒否します
しおりを挟む翌日、将吾さんの実家に戻った。
明日から仕事があるし、母親とウェディングドレスを試着しに行くと言って出たまま、着替えもなにも持ってきてなかったからだ。
「ただいま戻りました」
玄関に出てきた静枝さんとわかばちゃんに挨拶した。
わかばちゃんは長い黒髪を、すっきりとポニーテールにしていた。
チルデンニットの襟ぐりの空いた首元には、トップにクロスがあるネックレスが見えた。クロスの部分にダイヤモンドがついていて、きらきらと光り輝いていた。
わかばちゃんがわたしを見る目が、昨日までと違っているのに気づいた。
少し後ろめたい様子で背の高いわたしを見上げていたのが鳴りを潜め、目に強い意志を宿し、射るように見つめてきた。
このネックレスは昨日買ってもらった、将吾さんからのプレゼントなのだろう。
彼女が誇らしげに見える。
——宣戦布告、か。
でも、ごめんね。わたしは、受けて立つ気はないの。
そんなことはね。……もう、十年も前に「卒業」しているの。
あなたのその顔、鏡で見てごらん。
びっくりするくらい——醜いから。
だれかに嫉妬して憎んでる顔なんて、ほんと酷いから……
わたしはそんな顔を小学生の頃から別れるまで、ずっとしていたのよ。海洋に群がる女の子たちを、ずっとそんな目で見ていたの。
あなたのいいところが、素直で純真でやさしいところが——きっと、将吾さんが大好きな……あなたのそんなところが——どんどん削がれていってしまうよ?
わたしは海洋に恋する自分がどんどんイヤな女になっていくのに、耐えられなくなったの……
いつの間にか、わたしは彼女を憐れむような表情をしていたのかもしれない。
わかばちゃんは色をなして、わたしから目を逸らした。
自分の部屋に行くために、わたしは階段の方へ向かった。
——だけど……それが、恋、なんだけどね。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
自分の部屋のクローゼットから衣服と下着を取り出し、隣のパウダールームに入って着替えた。
そして、また自分の部屋に戻ったところで、間の扉が開き、将吾さんがつかつかと入ってきた。
わたしの顔を見るなり、眉間にシワを寄せる。
「……スマホの電源をなぜ切った?」
彼の問いかけに、わたしは平然と答えた。
「充電が切れたの」
——ウソだった。自分自身の意思で切ったのだ。
「充電器くらい、どっかで買えよ」
将吾さんはやけにいらいらしていた。
「たった一日スマホが使えなくても、別に不自由しなかったわ」
わたしはきっぱりと言った。
「……彩乃」
将吾さんがわたしの腕をとって、引き寄せた。
あっという間に、彼の腕の中だ。
「あんなLINE送ってくるなよ。……もう、帰ってこないんじゃないかと思った」
ぎゅっ、とわたしを抱きしめる。
わたしが送ったLINEの言葉は……
【実家に帰ります】
どうやら、この一言は男の人には堪えるらしい。
——あら、いいカン、してるじゃないの?
わたしは顔を上げて、将吾さんの顔をまっすぐ見据えた。その瞬間、彼の身体が電流が走ったかのように、びくびくっ、と震えた。
「……今、初めて、結婚したヤツらの、自分の嫁が世界一怖い、って言ってた気持ちが、死ぬほどわかった」
青い顔をして、将吾さんがつぶやいた。
——それは自分の身に疚しいことがあるから、じゃないの?
わたしは静かに微笑んだ。
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