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Chapter 13
大地&亜湖さんの結婚式に行きます ①
しおりを挟む二月下旬の大安吉日。
再従兄妹同士という遠縁とはいえ、兄妹のように幼い頃から仲良くしてきた上條 大地と、彼と同じ会社に勤務する田中 亜湖さんの結婚式と披露宴が、あさひJPNグループが新年のパーティで毎年使っている、わが国を代表する一流の老舗ホテルで開かれる。
結婚式は神前式ということで——大地は亜湖さんが白無垢姿が似合うからと言っていたが、実は自分がチャペルで花嫁を待つ手持ち無沙汰な「マヌケな新郎」になりたくなかったからだと思う——今回は夕方の披露宴からの出席だ。
なので、セレクトショップで見つけたロイヤルブルーのセミイブニングドレスを着る。
ホルターネックで、身体のラインにぴったり沿ったマキシ丈のベルベットのドレスだ。すでに髪を夜会巻きにセットしてもらっていて、今日はなかなかセクシーな感じになっている。
大学の同窓だった慶人の結婚式とは違い、大地とは交流のない将吾さんは来ない。
——どうせ、なにかと「ご多忙」でしょうしね?
将吾さんの家を出る前にパウダールームでチェックをしていたら、将吾さんが入ってきた。
『……その背中、開きすぎてやしないか?』
彼が顔を顰める。大きなお世話だ。
『ショールを羽織るから』
ウソだ。ホテルではショールなんて羽織らない。背中は御開帳してやる。
——あっ、将吾さんのキスマーク、ついてないよね?
わたしは背中を鏡に映して確かめる。
『今日はおれがいないんだから、絶対に呑み過ぎるなよ』
将吾さんがそう言って、わたしを後ろから抱きしめようとする。キスマークをつける気だ。
わたしは彼を振り払った。
『わかってる。……遅れるから、もう行くね』
あれ以来、将吾さんとは同じベッドでは寝ているけれど「添い寝」状態だ。
ノーブラはやめてちゃんと就寝用のブラをきっちり着けることにしたし、キスマークがつくようなことはさせていない。
まぁ……起きたときに、たまたま抱き合ってたりすることがあるが、それは不可抗力だ。
それから、わたしが眠りにつく間際に、将吾さんがそっとやさしく、くちびるを重ねるのも……
——それは、不可抗力だ。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
披露宴が賑々しく始まった。
先月、親戚の慶人と蓉子も利用した、わが国を代表する老舗ホテルの、芸能人なんかの派手な結婚式でテレビ中継が入ったりする、美しい鳥の名がついた一番大きくて広い会場だ。
わたしと将吾さんも、今のところは、四月にこの会場で披露宴を行うことになっている。
そういえば、あのとき……
『いくつあるんだ、テーブル?まさか全部をキャンドルサービスで回るんじゃねえだろうな?』
って、将吾さんがずらりと並んだ丸いテーブルを見て、心底げんなりした顔をしていたっけ。
——なんだか、何年も前のような気がする。
わたしは知らず知らずのうちに、ため息をついていた。
「……ちょっと、彩乃っ。どうしたのよ?」
左隣の席の、再従妹の蓉子が訊いてきた。
「将吾さんが来てないから、テンションが上がらないんじゃねえの?」
右隣の席の、弟の裕太が余計なことを言う。
「僕と蓉子の披露宴だったのに、主役はどっちだ?っていうくらい、君たちには高砂席でイチャつかれたからね」
蓉子の隣にいる彼女の夫となった慶人が、にやりと笑う。
「彩乃、政略結婚って言ってたくせに、いつの間にあんなに富多とラブラブになったんだよ?」
慶人の隣の、蓉子の兄の太陽が興味津々に訊く。
「もう、今日は大地と亜湖さんの披露宴なんだから、あんたたち、ちゃんと前見なさいよっ」
高砂席の大地と亜湖さんが、はるか前方に見える。司会に雇った某テレビ局のアナウンサーがなにやらしゃべっているが、この周囲のテーブルはだれも聞いちゃいない。
名物のローストビーフや某国の女王陛下の名前がついた車海老のグラタンは、先月食べたばかりでもやっぱり美味しかった。
「……彩乃、そのエンゲージリング、すっごく似合ってるね」
蓉子がわたしの左手薬指を見て、目を細めた。
ブシ◯ロンのピヴォワンヌが巨大なシャンデリアの光に反射して、ありえないくらいギラギラ輝いていた。
最初はこんな派手なリングはとてもつけられないと思っていたが、このような大掛かりな席にはこのくらい迫力があるものでないと、逆に場にそぐわないことがわかった。
「ずいぶん見て回ったんでしょ?」
蓉子の問いかけに、わたしは首を振った。
彼女のエンゲージもやはりゴージャスだった。
薔薇の花びらをモチーフにダイヤモンドがふんだんに使われたピ◯ジェのローズだ。
「将吾さんの仕事が忙しくて、一日で決めたの」
「しかも、将吾さんは姉貴を秘書と一緒に行かせたんだぜ?」
裕太がおもしろおかしく言う。
「「「ええぇーっ!?」」」
蓉子、慶人、太陽が仰け反った。
「じゃあ、彩乃が一人で選んだの?」
蓉子がわたしを憐れむように見た。
「ショップに行ったら、いくつか見せられて、よくわかんないうちに決まってたんだけど。秘書の島村さんが気の毒でね、仕事が忙しいのについてきてくれたの。だから、ずーっとタブレットで仕事してたんだよ」
「……はぁ?」
蓉子が腑に落ちない顔になる。
「そういえば、クリスマスの日にリングを受け取りに、将吾さんと一緒にショップへ行ったんだけど、店員さんが、あらかじめ伺ってたから国内外から良い石のものを集めたとかなんとか、ワケのわかんない話をしてたなぁ。セールストークだよね?」
急に、一同が黙り込んだ。
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