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Before Prologue
〜Boy meets Girl〜【前編】
しおりを挟む「New year’s party」はホールみたいに大きな会場でやっていた。
天井を見上げると、巨大なシャンデリアが怖いくらいにぎらぎらと輝いている。
大きくて細長いテーブルの上には、銀の器に盛られた美味しそうな料理が所狭しと並んでいる。
少年は、両親から離れて、その広い会場を「探索」していた。
父親は日本人、母親はスウェーデン人と日本人のダブルである。
だから、実は日本の血の方が濃いのだが、生まれたときから父親がアメリカの支社長を務めているため、アメリカ生まれでアメリカ育ちの彼はカタコトの日本語しか話せない。
父親も母親も英語に堪能なので、日本語を身につける必然性がまったく感じられないのだ。特に、カンジを覚える「ムダな労力」が理解できなかった。
彼の一家としてはめずらしく、今年は正月を日本で迎えるために帰国していた。
そこで、祖父である本社の社長から得意先の新年パーティへ行って「家族で接待」するように仰せつかったのだ。
カフェ・オ・レ色の瞳と、大きなシャンデリアからの光のために本来のミルクティ色より金色に見える髪のせいで、どうやら外国人の子どもだと思われているらしい。英語が苦手な日本人たちは、少年には寄って来ない。
でも、せっかくのpartyなのにだれともしゃべらないのは、少し寂しいし、なにより退屈だ。
少年は辺りを見渡した。
I wanna talk to someone who can speak English.
〈だれか英語の話せるヤツとしゃべりてぇな〉
少年は思った。
すると、自分と同じような外国人のような風貌の女の子が二人いるではないか。
少年は背の高い方の少女に、声をかけてみることにした。もう一人はキンダーからエレメンタリースクールに入ったばかりに見えたので、論外だったし……
——なにより、どストライクだったからだ。
「Hey! What’s going on?」
〈よう!なにしてんの?〉
少年は早速、声をかけてみた。
「I’m Sigfrid.Can you tell me your name?」
〈おれ、シーグフリード。名前、教えてよ?〉
オリーブブラウンの髪にヘイゼルの瞳のその少女は、なにも言わない。
お高くとまってやがるな、と思ったが、去年から入ったミドルスクールの中でオチない女の子はいない少年は、気にせず尋ねる。
「Can I get you something to drink right now?」
〈なにか飲み物を取ってきてあげようか?〉
少女はなにも答えない。
「Wanna orange juice?」
〈オレンジジュース、ほしくない?〉
それどころか、視線を逸らされた。
少女の視線の先を辿ると、真っ赤なキモノを着た艶やかな黒髪の女の子がいた。
「Amazing! That girl looks like a Japanese doll!」
〈すんげぇ!あの子、日本人形みたいじゃん!〉
少年は屈託のない笑顔を見せた。
「Do you think so?」
〈そう思わない?〉
少女を見て言ったのに、俯いてしまった。
背中まであるオリーブブラウンの髪がふわふわしていて、手触りがよさそうだ。
少年は触れてみたかった。
次に見たとき「Japanese doll」は自分と同じ歳くらいの男の子に捕まっていた。
男の子は一生懸命、話しかけているのにあの「Japanese doll」は、ぼそぼそっとなにかつぶやいたあとは、ただ黙って俯いていた。
それでも、男の子はめげずに、しゃがんで片膝をつき「Japanese doll」を見上げて、話しかけている。
そうこうしているうちに、男の子が「Japanese doll」に、ちゅっ、とキスをした。
すると「Japanese doll」の父親らしき人が現れて、男の子を引っぺ剥がした。そして、えらい剣幕で怒り出した。
あんなの、挨拶のようなキスなのにな、と少年は思った。
そして、その光景をじっと見ている少女に視線を戻した。
不意に、少年は傍らにいた少女の肩にかかった髪の毛ごと手を回し、引き寄せた。
ヘイゼルの瞳が見開いて、背の高い少年を見上げる。カフェ・オ・レ色の瞳で、肩までしかない少女を見下ろす。
そして、少年は……
少女のぷるっとしたくちびるに……
——自分のくちびるを重ねた。
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