ニート兄、優秀弟に逆レ〇プされる

すりこぎ

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ニート編

引きこもりの日常

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 食卓に置かれたメモ書きにちらと目を通す。“冷蔵庫に焼きそばあります”……殴り書きされた母の文字に、無言の詰問を受けているような窮屈さを覚えた。
 祝日というわけでもない、何でもない平日の午後3時。両親は全うに働き、弟は県内随一の進学校で勉学に励んでいる。対する俺は今さっき起床し、起きがけのヨレたスウェット姿のまま、母が出勤前に作っていった焼きそばを寝ぼけ眼で啜っていた。時間が経っているせいかモソモソして、なかなか飲み込めずに口の中で何度も咀嚼を繰り返す。キャベツの芯が生っぽくて固かったが、穀潰し息子のために忙しい合間を縫って食事を作ってくれる母に対して、さすがに文句を言えるような厚かましさは持ち合わせていなかった。

 高校を卒業して民間の企業に就職したが、ブラック過ぎて心身を壊し、1年経たずして退職した。両親はひどく心配してくれて、初めのうちは「今はゆっくり休めばいいよ」なんて優しく慰めてくれたりもしたが、転職先が決まらず引きこもりがちになって半年も経つと、息子がこのままニートになってしまうのではないかと徐々に不安を露にするようになった。
 それからは説教されたり、怒鳴り散らされたり、殴られたり泣かれたり、色々あった末……そのまま1年も経過すれば、さすがの両親も俺の社会復帰に諦めを見せるようになり、あれこれ口うるさく言うことはなくなった。プレッシャーや煩わしさは減ったが、それは同時に見放されたということでもある。母の手料理が素直に美味しいと思えないのは、息子に対する失望を通り越した諦念の苦い味が感じられるからだ。

 ゴムのように飲み込みにくい焼きそばを無理やり胃の中に流し込み、そのまましばらくぼんやりした。
 頭を働かせれば働かせるほど苦痛が増していくだけだと悟った俺の脳みそは、日を重ねるごとに思考を放棄するようになり、それに伴って感覚や感情といったものも麻痺していくようだった。気が付けば一日が始まり、一日が終わっている。そんな日々がいくつも重なって、俺という人間はどんどん老化し、退化していくのだ。現状に焦りすら覚えず、この状態から脱却して真っ当な社会人として生きるという目標を抱くことすらなく、ただ無為に時を過ごすだけ。
 生きていて楽しいことなど一つもないが、かといって自ら命を絶つ気力もなく、親に寄生してダニのように生きることしか出来ない存在。こんな厄介な重荷を背負ってしまった両親が憐れでならなかった。

 ふと玄関の方から物音がして、反射的にきゅっと体が強ばった。宅配便の受け取りでさえ、今の俺には勇気が必要だ。もともとそういう気はあったが、ひきこもりになってからコミュ障が悪化し、他人と接することに多大なストレスを感じるようになっていた。
 多少の後ろめたさを感じつつも居留守を使う気でいたが、無情にもドアの開く音がした。心臓が大きく跳ね上がり、膝がガクガク震え出す。すぐにハッと我に返り、俺は急いで腰を上げた。
 はやく部屋に戻らなければ。
 だが、間に合わなかった。帰宅した弟の湊人が俺の姿を認め、露骨に顔を顰めた。あてつけのように大きな舌打ちをする。

「ハァー……平日の昼間だってのに働きもせずに引きこもって、いい気なもんだよな。このゴミクズニート」

 冷たい声で吐き捨てるように言われ、その鋭く尖った一言一言が胸に深く突き刺さった。弟から向けられる蔑みの視線に耐えきれず、俺は俯いて唇を噛む。

「よく平気な顔して生きていられるよな。自分が社会のなんの役にも立たないゴミだってこと、ちゃんと自覚してる? 恥ずかしいとか情けないとか、何とも思わねぇのかよ、え? オイ、黙ってないでなんとか言えよ。引きこもり過ぎて口もきけなくなったか」

 湊人の帰宅は午後6時過ぎになることが多いため、つい油断してしまった。いつもは顔を合わせないように細心の注意を払っているが、まさかこんなに早い時間に帰ってくるとは……久しぶりに顔を合わせた途端にこっ酷く罵倒され、俺の心はコテンパンに打ちのめされる。

 落ちこぼれの自分とは違って優秀な弟に、昔からずっとコンプレックスを抱き続けてきた。容姿や才能、頭脳に恵まれ、なにをやらせても当たり前のように優れた成績を収める湊人。周囲の人間から賞賛される弟の姿を、俺はいつも横目で見て育ってきた。両親や先生から、ついでのように「お兄ちゃんも頑張らなくちゃね」と言われることが辛かった。
 ただそこにいるだけで他人を惹きつけ、自然と人の輪の中心にいる湊人とは対照的に、人付き合いが苦手な俺はいつもひとりぼっちだった。
 仲の良い兄弟でいられたのは、物心つく前の遠い昔のことだ。湊人に対して劣等感が芽生え始めてからは、俺の方から距離を置くようになった。そんな卑屈な態度も良くなかったのだろうが、湊人も成長と共に優劣の価値観を知り、俺たちの間にある“埋められない差”を理解したのだろう。雛鳥のように俺の後ろをついて回っていた頃が嘘のように、俺に蔑みの目を向けるようになった。

 そうして兄弟仲は悪化の一途を辿り、今ではこの通り、顔を合わせれば湊人は俺に対して罵詈雑言を浴びせかけてくる。俺がニートに転落してからは輪をかけて情け容赦がなくなり、言葉の刃は凶器のように鋭くなるばかりだ。もう当たり前の日常になってしまったが、剥き出しのままぶつけられる悪意はいつまで経っても慣れるものではない。

 言い返すことも出来ず、逃げるようにこの場を立ち去ろうとする俺の背に、更なる非難の声がかけられる。
 そんなに俺のことが嫌いなら、放っておいてくれればいいのに……どうして湊人は、こうも執拗に俺に絡んでくるのだろう。
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