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2019年夏の出会い
1448M マルス券と途中下車印について
しおりを挟む「すみません。途中下車印を頂けますか」
ひかりが有人改札で青春18切符を提示した。
「あー、下車印ね。どこに押す?」
「お任せします」
そうして、楕円の中に『静岡』と書かれた印鑑が押される。色は水色だ。
「そういえば、ひかりさんの切符、ハンコがいっぱいやね」
「途中下車印っていうのよ。知らないの?」
途中下車印というのは、この駅まで使ったという証明印みたいなものだ。
18切符には押す必要が無いが、記念にもらうことができる。
特にJR東海は制度外となる『切符』以外に途中下車印を押さない。
18切符のみ大目に見てもらっている様な状況だ。
最も制度に忠実なのがJR東海である。
「カラフルでしょ。押す場所とか種類とか、そもそも途中下車印のデザインとか、色とか、全てが違うからね。世界で一つだけの切符を作っている様なものよ。芸術よ」
「小ちゃい印鑑で可愛ええなー」
「やろ?!」
「ひかりさん、興奮すると関西弁になるんや……」
二人は雑談ひながら昼食を購入した。
十一時五十三分発の熱海行きに乗車する。
「途中下車印、私も集めよっかなー」
「キリが無いわよ」
「乗り鉄の時点でキリ無いやん」
「たしかに」
こうして話題は途中下車になった。
「でも、18切符だと、その印鑑滲みません?」
「滲むよ?」
「滲むんかい!」
さくらの問いに、ひかりが当然だと言うが如く返答する。
「さくらはマルス券って分かる?」
「この18切符もそうやね」
マルスとは、Multi Access seat Reservation Systemのことで、国鉄・JRの座席指定券類の予約・発券のためのシステムだ。
それで発券された切符をマルス券と言う。
1960年までは手作業でこれらを行っていたのだ。
ホストコンピュータとしては、試作のマルス1が1960年に開発される。
1964年の東海道新幹線開業に際してマルス101が本格稼働となる。
1965年にはダイヤ改正に合わせてマルス102になり、1968年にはマルス103も導入され、3つが並列で使用される。
1972年にはマルス105・150・202が導入される。
1985年には上記マルス105・150・202の老朽化に際してマルス301が導入された。
1993年にはマルス305、2004年にはマルス501へと進化を遂げてゆく。
現在はマルス505が使用されている。
「で、そのマルスがどうしたん?」
「券面の印字の種類は知ってる?」
「種類があるの?」
感熱プリンタと熱転写印字のマルス券だ。
「今は感熱印字がほとんどだけど、熱転写の方が滲みにくかったりするの。表面コーティングの違いだと思うんだけど……」
「へー」
インクを必要とせず熱を利用して印字する台紙を感熱紙といい、券売機の中で加熱処理をし、行き先などを印字している。
このインクの転写によって印字されたマルス券を熱転写マルス券と呼ばれる。
感熱紙は、インクの代わりに台紙に処理がされており、その性質上、滲みやすいのだ。
「あとは、昔のL型マルスはルーズリーフみたいで、特に……」
「やけど、その紙のやつって昔のやん。ひかりさんも使ったこと無いんやない?」
「無いけど、L型マルスは2003年まであったから」
「なんやてヒカリ!」
「せやかてサクラ!」
その頃、さくらは三歳だ。
三歳では使えないにしても、自分が生まれてからしばらく
「私も六歳だったからねー。親父が使ったやつは実家にあるけど」
「私の親は近鉄好きやから……」
「さくらも近鉄教徒か?!」
「バレてしまっては仕方がない!」
それにしてもこの二人、出会ったばかりなのに息ぴったりである。
「でも、まだ紙の切符は存在するのよ。しかも、手書き」
「こんなデジタル化の時代にアナログな代物が存在するんやねー」
「これがそのきっぷ……」
「スタンプ帳やん?」
「断じて違う」
ひかりが取り出した切符に対して、さくらが突っ込む。そしてひかりが慌てて否定する。
その切符は、下車印まみれだった。
「出札補充券よ。略して出補」
「しゅっぽっぽ?」
「言うと思った」
「みんなを乗せて?」
「しゅっぽ、しゅっぽ、しゅっぽっぽって、言わせんな!」
「本日2回目の関西弁、頂きや」
閑話休題。
「とにかく、その出補だと、一部を除いて印字が滲まないのよ」
「一部?」
「阪和線とか大和路線とか、滲む」
「大変ですね」
「下車印を集めるなら、さくらもこの気持ちがよく分かるようになるわ」
「へー」
後にめちゃくちゃ分かる様になった。
「それはどうやって発券するんやろ?」
「17経路以上にする」
「それは…」
それはお金がかかる。
関西の新大阪から奈良までの切符を例に挙げてみよう。
例1: 美濃赤坂→法隆寺
経由:東海道線支線(大垣)、東海道本線(米原)、北陸本線(近江塩津)、湖西線(山科)、東海道本線(新大阪)、おおさか東線(鴫野)、片町線(京橋)、JR東西線(尼崎)、東海道本線(西九条・大阪)、大阪環状線(天王寺)、関西本線(久宝寺)、おおさか東線(放出)、片町線(木津)、関西本線(奈良)、桜井線(高田)、和歌山線(王寺)、関西本線
例2:加太→法隆寺
経由:関西本線(柘植)、草津線(草津)、東海道本線(米原)、北陸本線(近江塩津)、湖西線(山科)、東海道本線(新大阪)、おおさか東線(鴫野)、片町線(京橋)、JR東西線(尼崎)、東海道本線(西九条・大阪)、大阪環状線(天王寺)、関西本線(久宝寺)、おおさか東線(放出)、片町線(木津)、関西本線(奈良)、桜井線(高田)、和歌山線(王寺)、関西本線
例1は17経路、342.2kmで6050円
例2は18経路、392.4kmで6600円
例2は株主優待で3300円だ。
「例2は疑問だらけの経路だよ」
「順番に説明してゆくね。まず……」
例2が18経路なのは、近郊区間外に出る必要があるからだ。
加太発ではなく、柘植発の17経路だと、途中下車ができない切符になってしまう。
東京でも同様だが、東京から品川までの新幹線経由を組み込むことで回避できる。
関西でも新大阪ー西明石の新幹線経由を組み込むことで、大阪近郊区間外の乗車券なる。
「ぱっと思いついた中で、やりやすい17経路以上はこれかな? 関西は関東より難易度高いけど」
「流石はJR全線に乗った女や」
ドヤ顔のひかりに畏れ慄くさくら。
「例1は米原からJR東海に入るから、途中下車ができるの。例にはJR西日本管内に収まるから、株主優待券が使える」
「半額になるやつね。一回使った。それで、今持っている切符はどんな切符やの?」
「え? 最長片道切符」
「また変なのが出てきたやん」
最長片道切符の話題で話していると、執着の熱海に到着した。
十三時七分の定刻であった。
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