【完結】転生したら悪役マネージャーだったけど可愛い主人公が無敵すぎて逆ハが作れません!

りく太

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5月

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「今日は――勝負の日!」

朝のホームルームを終えて教室を出た私は、人目を盗んで小さくガッツポーズを決めた。
何と勝負なのかって?もちろん“恋の種まき”である。いや、違う。“逆ハーレム構築の第一歩”と言い換えよう。

私は前世でテブテニの夢女子として散々この作品を追いかけ、応援し、萌え散らかしてきた。
そんな作品の世界に入り込んで、しかも主要キャラたちと毎日顔を合わせる部活マネとか……これを運命と呼ばずして何を呼ぶ?!

「よし……まずは角谷くんにお弁当渡すミッションから」

まずは、一番仲良かった角谷くんに狙いを絞る!
仲が良かったというか…記憶が戻る前の私は角谷くんとつるんで部を引っかき回して、真面目な後輩を泣かせて――あぁ思い出すだけで胃が痛い。 でもそれも今は昔!この私、心を入れ替えました!

この前作ったお弁当の本を読みながら、頑張って作った手料理だ。唐揚げは甘辛く、卵焼きは甘めの関東風。おにぎりには梅干しと鮭の2種類。彩りにブロッコリーとミニトマトも添えて、見た目もばっちり。ピックまでつけて完璧だ。
これを「余ったから~」とさりげなく差し出す、そんな自然体ヒロインムーブを決めるのだ。

「角谷くん、お昼――あの、これ、余ったから…」
「あ?ああ、今日は多々楽と学食行く約束してっから」

つか余りもん食わせんなよ、なんて笑いながら学食に向かっていった。か、角谷ぁ~!!!
こんなに可愛く包まれたお弁当箱が余り物のわけないだろ!

「かわいそ過ぎて逆に面白いんだけど」

すぐ隣から囃子先輩の顔がぬっと出てきた。

「うわ、顔近っ!」
「まーまーまー、こういうのはかわいそーだから俺がもらってあげる。いただきます~♡」

私を小馬鹿にした顔をしながらあっさり弁当箱を奪われた。
ちがう。狙ってた反応じゃない。
もっと青春キャッキャがしたいのに。お前こんな弁当作れんのか、女子っぽいとこあんだなとか言われながらイケメンと一緒に食べるつもりだったのに。
結果、囃子先輩に弁当取られただけじゃないか!!


その日の午後練。私は気を取り直して、今度は屋崎くんにタオルを渡すタイミングを狙う。
彼は真面目で、常に冷静。そんな彼が不意打ちで優しさに触れたら、絶対にキュンとくる……という算段だ。

「屋崎くん!タオル、どうぞ!」
「ん。ありがとう」

……それだけ。
秒で受け取って、秒で顔を拭いて、秒で去っていった。

「ちょ、ちょっとは照れてくれても……」
「なにか言ったか?」

屋崎くんが振り返ったので「いえいえなんでも!!!」と敬礼した。
終わってる。なにもかも。タオルは返してくれなかった。そういう問題じゃないけど。


その後も、休憩中に渾身のスポーツドリンクを差し出すも、多々楽くんに「ありがとうございます!あ……でも僕、スポドリ苦手なんです」と困った笑顔で拒否された。
くそ!笑顔が可愛いから許されると思うな!

そして、それ見た角谷くんは「多々に嫌がらせんな!そいつを倒すのは俺だ!」なんて叫んでやがる。

嫌がらせしてないわ!ってかこれ、粉かけてるってだけで嫌がらせ認定されるなら、私もう何もできないじゃん!
というか、可愛いJKに粉かけられて嫌がる男子高校生なんているの?!
ムッとした顔で角谷くんを睨んでいると、いつのまにか仙場先輩が私の横に来てクツクツと笑っていた。

「なんですか、なにか面白いんですか?」

不貞腐れたようにいうと、さらに笑みを深め「観察対象が面白いとね」ニヤリと笑われた。
……観察対象て。



部活が終わる頃には私はヘロヘロになっていた。これが……恋愛イベント強化月間の、結果だ。

更衣室でジャージを脱いで畳んでいたら、ふとドアがノックされた。

「ごめん、着替えてる?」
「……着替え終わりましたけど」

ドアを開けると、そこには名前も忘れかけていた、地味で無口なメガネの男子部員が立っていた。

「これ、落とし物」

そう言って差し出されたのは、さっき多々楽くんに断られたスポーツドリンクだった。
私は思わず噴き出した。

「……ありがとう。今の私にぴったりな飲み物だわ」
「うん、なんかすごく空回ってたね」

うわ、刺すねこの人。でも、ちょっと笑ってる。

「ドリンク準備、ありがと」

その言葉が、なんだか思いのほか沁みた。  
今日1日の出来事が報われた気がして、私はふっと笑ってしまった。

……いや、報われては、いないんだけども。
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