2 / 12
5月
しおりを挟む
「今日は――勝負の日!」
朝のホームルームを終えて教室を出た私は、人目を盗んで小さくガッツポーズを決めた。
何と勝負なのかって?もちろん“恋の種まき”である。いや、違う。“逆ハーレム構築の第一歩”と言い換えよう。
私は前世でテブテニの夢女子として散々この作品を追いかけ、応援し、萌え散らかしてきた。
そんな作品の世界に入り込んで、しかも主要キャラたちと毎日顔を合わせる部活マネとか……これを運命と呼ばずして何を呼ぶ?!
「よし……まずは角谷くんにお弁当渡すミッションから」
まずは、一番仲良かった角谷くんに狙いを絞る!
仲が良かったというか…記憶が戻る前の私は角谷くんとつるんで部を引っかき回して、真面目な後輩を泣かせて――あぁ思い出すだけで胃が痛い。 でもそれも今は昔!この私、心を入れ替えました!
この前作ったお弁当の本を読みながら、頑張って作った手料理だ。唐揚げは甘辛く、卵焼きは甘めの関東風。おにぎりには梅干しと鮭の2種類。彩りにブロッコリーとミニトマトも添えて、見た目もばっちり。ピックまでつけて完璧だ。
これを「余ったから~」とさりげなく差し出す、そんな自然体ヒロインムーブを決めるのだ。
「角谷くん、お昼――あの、これ、余ったから…」
「あ?ああ、今日は多々楽と学食行く約束してっから」
つか余りもん食わせんなよ、なんて笑いながら学食に向かっていった。か、角谷ぁ~!!!
こんなに可愛く包まれたお弁当箱が余り物のわけないだろ!
「かわいそ過ぎて逆に面白いんだけど」
すぐ隣から囃子先輩の顔がぬっと出てきた。
「うわ、顔近っ!」
「まーまーまー、こういうのはかわいそーだから俺がもらってあげる。いただきます~♡」
私を小馬鹿にした顔をしながらあっさり弁当箱を奪われた。
ちがう。狙ってた反応じゃない。
もっと青春キャッキャがしたいのに。お前こんな弁当作れんのか、女子っぽいとこあんだなとか言われながらイケメンと一緒に食べるつもりだったのに。
結果、囃子先輩に弁当取られただけじゃないか!!
その日の午後練。私は気を取り直して、今度は屋崎くんにタオルを渡すタイミングを狙う。
彼は真面目で、常に冷静。そんな彼が不意打ちで優しさに触れたら、絶対にキュンとくる……という算段だ。
「屋崎くん!タオル、どうぞ!」
「ん。ありがとう」
……それだけ。
秒で受け取って、秒で顔を拭いて、秒で去っていった。
「ちょ、ちょっとは照れてくれても……」
「なにか言ったか?」
屋崎くんが振り返ったので「いえいえなんでも!!!」と敬礼した。
終わってる。なにもかも。タオルは返してくれなかった。そういう問題じゃないけど。
その後も、休憩中に渾身のスポーツドリンクを差し出すも、多々楽くんに「ありがとうございます!あ……でも僕、スポドリ苦手なんです」と困った笑顔で拒否された。
くそ!笑顔が可愛いから許されると思うな!
そして、それ見た角谷くんは「多々に嫌がらせんな!そいつを倒すのは俺だ!」なんて叫んでやがる。
嫌がらせしてないわ!ってかこれ、粉かけてるってだけで嫌がらせ認定されるなら、私もう何もできないじゃん!
というか、可愛いJKに粉かけられて嫌がる男子高校生なんているの?!
ムッとした顔で角谷くんを睨んでいると、いつのまにか仙場先輩が私の横に来てクツクツと笑っていた。
「なんですか、なにか面白いんですか?」
不貞腐れたようにいうと、さらに笑みを深め「観察対象が面白いとね」ニヤリと笑われた。
……観察対象て。
部活が終わる頃には私はヘロヘロになっていた。これが……恋愛イベント強化月間の、結果だ。
更衣室でジャージを脱いで畳んでいたら、ふとドアがノックされた。
「ごめん、着替えてる?」
「……着替え終わりましたけど」
ドアを開けると、そこには名前も忘れかけていた、地味で無口なメガネの男子部員が立っていた。
「これ、落とし物」
そう言って差し出されたのは、さっき多々楽くんに断られたスポーツドリンクだった。
私は思わず噴き出した。
「……ありがとう。今の私にぴったりな飲み物だわ」
「うん、なんかすごく空回ってたね」
うわ、刺すねこの人。でも、ちょっと笑ってる。
「ドリンク準備、ありがと」
その言葉が、なんだか思いのほか沁みた。
今日1日の出来事が報われた気がして、私はふっと笑ってしまった。
……いや、報われては、いないんだけども。
朝のホームルームを終えて教室を出た私は、人目を盗んで小さくガッツポーズを決めた。
何と勝負なのかって?もちろん“恋の種まき”である。いや、違う。“逆ハーレム構築の第一歩”と言い換えよう。
私は前世でテブテニの夢女子として散々この作品を追いかけ、応援し、萌え散らかしてきた。
そんな作品の世界に入り込んで、しかも主要キャラたちと毎日顔を合わせる部活マネとか……これを運命と呼ばずして何を呼ぶ?!
「よし……まずは角谷くんにお弁当渡すミッションから」
まずは、一番仲良かった角谷くんに狙いを絞る!
仲が良かったというか…記憶が戻る前の私は角谷くんとつるんで部を引っかき回して、真面目な後輩を泣かせて――あぁ思い出すだけで胃が痛い。 でもそれも今は昔!この私、心を入れ替えました!
この前作ったお弁当の本を読みながら、頑張って作った手料理だ。唐揚げは甘辛く、卵焼きは甘めの関東風。おにぎりには梅干しと鮭の2種類。彩りにブロッコリーとミニトマトも添えて、見た目もばっちり。ピックまでつけて完璧だ。
これを「余ったから~」とさりげなく差し出す、そんな自然体ヒロインムーブを決めるのだ。
「角谷くん、お昼――あの、これ、余ったから…」
「あ?ああ、今日は多々楽と学食行く約束してっから」
つか余りもん食わせんなよ、なんて笑いながら学食に向かっていった。か、角谷ぁ~!!!
こんなに可愛く包まれたお弁当箱が余り物のわけないだろ!
「かわいそ過ぎて逆に面白いんだけど」
すぐ隣から囃子先輩の顔がぬっと出てきた。
「うわ、顔近っ!」
「まーまーまー、こういうのはかわいそーだから俺がもらってあげる。いただきます~♡」
私を小馬鹿にした顔をしながらあっさり弁当箱を奪われた。
ちがう。狙ってた反応じゃない。
もっと青春キャッキャがしたいのに。お前こんな弁当作れんのか、女子っぽいとこあんだなとか言われながらイケメンと一緒に食べるつもりだったのに。
結果、囃子先輩に弁当取られただけじゃないか!!
その日の午後練。私は気を取り直して、今度は屋崎くんにタオルを渡すタイミングを狙う。
彼は真面目で、常に冷静。そんな彼が不意打ちで優しさに触れたら、絶対にキュンとくる……という算段だ。
「屋崎くん!タオル、どうぞ!」
「ん。ありがとう」
……それだけ。
秒で受け取って、秒で顔を拭いて、秒で去っていった。
「ちょ、ちょっとは照れてくれても……」
「なにか言ったか?」
屋崎くんが振り返ったので「いえいえなんでも!!!」と敬礼した。
終わってる。なにもかも。タオルは返してくれなかった。そういう問題じゃないけど。
その後も、休憩中に渾身のスポーツドリンクを差し出すも、多々楽くんに「ありがとうございます!あ……でも僕、スポドリ苦手なんです」と困った笑顔で拒否された。
くそ!笑顔が可愛いから許されると思うな!
そして、それ見た角谷くんは「多々に嫌がらせんな!そいつを倒すのは俺だ!」なんて叫んでやがる。
嫌がらせしてないわ!ってかこれ、粉かけてるってだけで嫌がらせ認定されるなら、私もう何もできないじゃん!
というか、可愛いJKに粉かけられて嫌がる男子高校生なんているの?!
ムッとした顔で角谷くんを睨んでいると、いつのまにか仙場先輩が私の横に来てクツクツと笑っていた。
「なんですか、なにか面白いんですか?」
不貞腐れたようにいうと、さらに笑みを深め「観察対象が面白いとね」ニヤリと笑われた。
……観察対象て。
部活が終わる頃には私はヘロヘロになっていた。これが……恋愛イベント強化月間の、結果だ。
更衣室でジャージを脱いで畳んでいたら、ふとドアがノックされた。
「ごめん、着替えてる?」
「……着替え終わりましたけど」
ドアを開けると、そこには名前も忘れかけていた、地味で無口なメガネの男子部員が立っていた。
「これ、落とし物」
そう言って差し出されたのは、さっき多々楽くんに断られたスポーツドリンクだった。
私は思わず噴き出した。
「……ありがとう。今の私にぴったりな飲み物だわ」
「うん、なんかすごく空回ってたね」
うわ、刺すねこの人。でも、ちょっと笑ってる。
「ドリンク準備、ありがと」
その言葉が、なんだか思いのほか沁みた。
今日1日の出来事が報われた気がして、私はふっと笑ってしまった。
……いや、報われては、いないんだけども。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる