硝子のカーテンコール

鷹栖 透

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第三章 疑惑の連鎖

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同窓会後、隆は玲奈の事故について独自に調査を開始した。図書館で当時の新聞記事を読み返し、微かな記憶の糸を手繰り寄せようとした。新聞記事は、事故当時の状況を冷徹に伝えていた。「学園祭舞台練習中、女子大学生転落死」。見出しは簡潔で、事件の真相を何も語ってはいない。告発状にあった「舞台装置のロープ」「赤い箱」「〇〇」という言葉。そして、同窓会での詩織と葵の不自然な反応。まるで複雑に絡み合った鎖のように、隆の思考を締め付けていく。

隆は、まず演劇部の顧問だった白川先生を訪ねた。白川先生は、玲奈の死を悼みながらも、当時の状況を克明に記憶していた。

「玲奈さんは、非凡な才能を持った学生でした。彼女の死は、演劇部にとって、そして私個人にとっても、大きな痛手でした…」白川先生は、苦渋に満ちた表情で語った。「事故当日のことですが、玲奈さんは、舞台セットのロープが緩んでいることに気付き、自分で直そうとしていたんです。その時、バランスを崩して転落してしまった。本当に痛ましい事故でした。…ただ、一つ気になることがあってね。事故の後、玲奈がいつも持ち歩いていた赤い箱が見つからなかったんです。彼女にとって大切なものだったらしいのですが…。」

赤い箱。告発状にも記されていた言葉。隆は、白川先生に赤い箱の中身について尋ねたが、先生は何も知らないようだった。隆は、新聞記事を読み返しながら、当時の関係者リストに目を走らせた。その中に、「清水夏帆:一年生、小道具係」という名前を見つけた。玲奈と同じ一年生。どこかで聞いた名前だと思ったが、今は思い出せない。

次に、隆は、当時の演劇部員たちに話を聞いて回った。多くは「事故だった」と証言したが、中には曖昧な証言をする者もいた。

「玲奈が転落した時、詩織は舞台袖にいたはずだ。何か、二人で言い争っていたような気もするが…いや、気のせいかな。俺も、ショックで記憶が曖昧なんだ。」当時、照明を担当していた部員、田中は曖昧な口調でそう言った。田中の証言は、詩織の関与を示唆しているようにも聞こえた。詩織は、何かを隠しているのだろうか?

「私も、詩織が玲奈に小さな赤い箱を渡していたのを見た気がする。事故の直前だったと思う。玲奈は、その箱をいつも大切に持っていた。中身は知らないけど…。あと、葵も何か知ってるんじゃないかな。彼女は、いつも玲奈のことをじっと見ていたから…それに、玲奈が落ちた後、真っ先に駆け寄って、何かを拾い上げていたような…。」小道具担当だった佐藤は、自身なさげに証言しながら、意味深に葵の名前を出した。葵が何かを拾い上げた? それは、もしかして…。

隆は、葵を訪ねた。彼女は、人気女優として多忙な日々を送っていたが、隆の訪問を快諾した。

「玲奈の事故のこと? ああ、本当に悲しい出来事だったわ。でも、あれは事故よ。私も、そう信じている。」葵は、落ち着いた様子で答えた。しかし、彼女の瞳の奥には、何かを隠しているような影が見えた。

「あの、赤い箱のことなんですが…。」隆が尋ねると、葵は一瞬だけ表情を硬くした。「赤い箱? 何のことかしら? 私は知らないわ。玲奈は、大切なものはいつも肌身離さず持っていた。だから、現場に赤い箱がなかったのは不自然だわ。」 葵は、早口で否定しながらも、赤い箱の重要性を強調するような発言をした。

「あなたは、玲奈さんと仲が良かったんですよね? 彼女が何を考えていたのか、何か知らないでしょうか…例えば、『〇〇』のこととか…。」隆は、告発状にあった謎の言葉について尋ねてみた。

その瞬間、葵の顔色が変わった。彼女は、動揺を隠しきれない様子で、言葉を詰まらせた。「…〇〇? 何のこと? 私は、何も知らないわ。…あなたは、詩織さんと話をした方がいいんじゃないかしら。彼女は、何か知ってるかもしれない。」 葵は、詩織に疑いの目を向けようとした。

隆は、葵が何かを隠していると確信した。図書館で見つけた「清水夏帆」という名前、詩織の不審な行動、葵の動揺。点と点が繋がり始め、隆の頭の中に、一つの仮説が浮かび上がった。集めた情報の一つ一つが、まるで鎖のように繋がって、詩織、そして葵へと疑いの目を向けていた。二人は、それぞれ異なる理由で、玲奈に複雑な感情を抱いていた可能性があった。「赤い箱」と「〇〇」。これらの言葉が、事件の真相を解き明かす鍵となるのだろうか? 疑惑の連鎖は、隆の心を締め付けていく。真実は、まだ深い闇の中にある。隆は、諦めずに、真実を追い求める決意を新たにした。詩織に会いに行こう。隆は、そう決意した。
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