悪役令息、二次創作に転生する

しらす海鮮

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ルクシオ皇子×悪役令息

雪遊び(回想)

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「イオ、こっち!」

イオルクがきてから4年目の冬。
ジェノヴィは10歳になり、イオルクは8歳になった。

冬になって雪が積もると、勉強終わりに決まって2人は雪遊びに興じていた。
イオルクが来たばかりの頃は、ラウトサッキの寒さで邸の中でも勉強中に震えていたが、今では問題なく勉学に励んでいる。
しかし、夜の凍えるほどの寒さにはまだ慣れていないのか、まだベッドを共にしている。イオルクの部屋にはベッドが用意されているが、イオルクはまだ自分一人で寝に入った事がなかった。

メイドに着せられたコートを纏いながら、外に飛び出す2人。
積もった雪に、厨房の料理長がくれた古い型抜きで雪を星型や丸型にして遊んだり、雪玉をころがして雪だるまを作ったり、外作業をしている庭師たちも交えて雪合戦をしたり……

雪の日は、ジェノヴィにとっては楽園そのものであった。

普段、家庭教師たちによるテーブルマナーや勉学指導をみっちり行っているため、遊ぶ時間はほんの僅かである。
しかし、雪の季節になると外で行う野外授業が無くなるため、少しではあるが遊ぶ時間が増える。
また、元々前世で住んでいたところが雪国ではない暖かい地域だったので、こうやって雪遊びするのは楽しいものであった。

 
ひとしきり遊んで、冬の空が段々と暗さをましてきた。
しかし、ジェノヴィは遊び足りなかった。

「ねえイオルク。家に戻る前に、家の裏の森に少し行ってみない?」

「森?」

「そう森!普段冬眠してるリスが、たまに動いてたりするのが見られるんだ!見てみたくない?」

「見たい!僕もみてみたい!」

頬を赤くしながらはしゃぐイオルク。ジェノヴィはイオルクの手を取って邸の裏側にまわり、使われなくなった錆びた扉をギイと音をさせながら開ける。

目の前に広がる空まで伸びてそうな針葉樹の中に、2人は入っていった。



…………



「あ、ほら!あれ!くるみの冬芽をかじってるよ。ほら!」

「わあ、かわいい!」

カリカリと、小さな音をさせながら枝先のクルミの冬芽に齧り付くリスを眺める2人。
ひゅるり、と木々の隙間をぬって吹き続ける冬の風にぶるりと震えるイオルク
ジェノヴィは、着ている大きめのコートでイオルクを後ろから抱きしめる形で一緒に包みこむ。

「これならあったかいよね?」

「う、うん……」

風で赤くなった鼻先と頬を、更に赤くするイオルク

(イオ……すぐ顔が赤くなるなあ……よっぽど寒いのが苦手なんだな!うんうん!)

と、リスがいきなり体をビクつかせ、ぴょんと枝をするする登って消えていった。
リスが消えるのと同時に、1匹の痩せこけた狼がグルルとヨダレを垂らしながら近づいてきた。

「雪狼……!?」

ジェノヴィは、イオルクを自分の後ろにやり、庇うような形になる。そして、ヒソヒソとイオルクに耳打ちをした。

(イオ、すぐ逃げて!冬眠し損ねた雪狼は凶暴だから、すぐ逃げないと!)

(う、うん!はやくいっしょににげよ……)

(ううん、お……私がオトリになるから、イオは先に逃げて!それで、誰か呼んできて、ね?)

イオルクを不安にさせないようににこりと微笑む。ジェノヴィも本当は内心恐ろしいのだが、自分より小さいイオルクに怪我をさせてはなるまいと必死で恐怖心を抑えていた。

(ゆっくり後ろ歩きで、あそこの巣穴のある木までいったらすぐ逃げて?できる?)

イオルクは、こくり、と涙目になりながらゆっくり、ゆっくりと後ろ歩きで巣穴のある木まで後ずさりしていく。
そして、ダッと走り出して、邸を目指していった。

雪狼は、ググッ、と雪に手足をめり込ませて臨戦態勢をとる。ジェノヴィは、パキッと木の枝を折って構える。

(これでも、一応公爵子息だ!剣の指導だって何度も受けたし、怪我くらいですむ……はず……!)

ジェノヴィは頭の中で希望的観測を思いながら後ずさる。
グワウッ!と雪狼が飛びかかろうとするので、なんとか左に避けた。勢いよく飛びかかった先に木があったのか、ゴチンッと雪狼が頭をぶつける。
ギャウンッ、と怯んだのを見たジェノヴィは今だと思いすぐに逃げ出した。



ー……


(雪狼が偶然頭をぶつけたのはラッキーだった!これなら、戦わないで逃げられる!)

後ろからザクッザクッ、と雪を踏みしめながら走る音がするが、振り返らずに一心に邸へと向かうジェノヴィ。

ハアハアと息を吐きながら走り続けていると、行きの時は近く感じた邸と裏の森までの道中が長く感じるほど、恐怖心がどんどん掻き立てられていた。

「ジェノヴィ様!!」

ジェノヴィが走っていると、目の前に専属執事のルークスの姿が見えた。
ルークスはジェノヴィの5歳上の15歳で、剣の腕もたつ優秀な専属執事だ。

「ルークス!」

ジェノヴィは、ルークスに飛びついて腕の中に収まる。そして、ルークスは飛び上がった雪狼を蹴りあげた。
と、蹴りあげられた拍子にジェノヴィの足首にガリッ、と雪狼の爪がかすったのだ。

「ッ……」

「ギャインッ!ギャインギャインッ!」

雪狼は情けない声で森の奥へ去っていった。
ルークスは、ジェノヴィの足首の怪我を見ると、すぐに抱き上げた。

「すぐにお医者様をお呼び致します!!」

ルークスは自身のスカーフでギュッ、とジェノヴィの足首を縛って、邸へと向かっていった。


ー…………

その後、ジェノヴィとイオルクは父のエルドにしっかり2時間叱られた。
ジェノヴィの足首の怪我は幸い深くはなかったが、邸に運ばれた直後熱を出し、ベッドにすぐさま放り込まれたのだった。
なのでジェノヴィはベッドの中で、イオルクはベッドの横でエルドにしっかり叱られたのであった。
説教途中でお医者様がきたときは、「まあまあ」とお医者様から宥められて、その時エルドは落ち着きをみせたのであった。

「傷は深くないし、跡も残らないよ。きっと安心して熱が出ちゃったんだねぇ。さ、よくお休みなさい。」

にっこりと優しい笑みを浮かべたお医者様は、眉間のシワをさらに深くさせたエルドと一緒にジェノヴィの部屋を後にした。

イオルクは泣きながら、ジェノヴィの隣にきて手を握った。

「ジェノ、ぼく、ごめんっ、なにもできなくて、ごめんっ……なさい……」

ジェノヴィは、ぽろぽろ泣くイオルクをみて、握っている手をゆっくりと撫でた。
イオルクは、ジェノヴィの手を自分の額に持ってくる。

「ぼく、ジェノのこと、まもれるくらいっ、つよくなる、から……だからっ、……ぼく、ジェノと……」

しゃくりあげながら喋るイオルクを、うとうとと眠気に襲われたジェノヴィは、断片的な言葉を聞きながら夢の中へ入っていった。

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